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第61話 居心地の良い仲間


 まずは見て覚えようと秋紘が言い、綾斗と秋紘はメドレーを通しで踊って見せる。

 注意点や改善点を、踊りながら口頭でも示す2人。秋紘は途中参加にも関わらず、普段の湊と尚弥を思い返し気づいた点を挙げていく。


 真面目に教えを受けながらも、綾斗と秋紘のダンスに圧倒される湊と尚弥。一つ一つの動きにキレがあり、それでいてしなやかで美しい。指先や爪先まで洗練された丁寧な挙動は、見る者を惹きつけ虜にしてしまう。

 可愛いが勝つ湊と尚弥に比べ、大人の女性まで魅了してしまう美形の2人。普段はフザケっぱなしの秋紘だが、視線が合うと犬猿の仲の尚弥ですらトキメかされる。

 それほど、綾斗と秋紘の魅力は計り知れない。


「綾斗くんが凄いのはもう当然だけどさ、アキくんにドキッとしちゃうのは解せない····」

「あはは、アキは普段が酷いからね」


 タオルで汗を拭いながら、綾斗はしれっと秋紘をディスる。


「ファンはオレのゲスさも込みで好きって言ってくれてるからいいんだよ。それが売りみたいな?」

「ねぇアキ、恋愛禁止だって社長が喚いてたの忘れてるでしょ。これまでの女性関係が問題になってないの、サルバテラの七不思議だよ。ホント、俺の涙ぐましい犠牲と今のキャラが功を奏してるよね」


 恋愛禁止と言うワードに、表情を強張らせてしまう湊。当然、煉の事が過る。


「皆、アキくんの顔に騙されて何か血迷ってるんだよ。じゃなきゃアキくんに惚れる意味が分からない」

「言うね~。ナオはなんでオレのコトそんな嫌ってんの?」

「嫌ってないよ。なんか色々ムリなだけ」

「それを一般的に嫌ってるって言うんじゃね?」


 コントの様な会話が繰り広げられている。そんな中、いつも以上に静かな湊。先程の、綾斗の言葉で密かに動揺しているのだ。


「ちょっとちょっとぉ。湊、元気なくない? 疲れた?」

「へ? あ、うん、ちょっと····。なんかさ、家族が皆、テレビに出るの凄く楽しみにしてくれててね、イイトコ見せなきゃなって。でも、この調子で本番大丈夫かなって····」


 湊はドリンクホルダーを握り、不安な気持ちを零す。


「湊はマジメだねぇ。もっと気楽にさ、純粋に踊んの楽しんでみなよ。ナオもそうだけどさ、失敗すんの考えすぎて動き硬いんだよね」

「確かにそうだね。苦手意識なのかな、激しい振り付けになると途端に硬くなってる」

「楽しむ··か。確かに、苦手だなって思うと強張っちゃう感じはあるなぁ」


 尚弥は片手を腰に置き、反対の手で唇をふにふにと弄りながら思い当たる節を考える。湊も同様に、自分のダンスを振り返り、指摘された問題点について考えてみる。

 そして、綾斗に『失敗してもいいから、ただ楽しんで踊ってみようよ』と言われ、4人で揃って通しで踊ってみる。


 踊り慣れたデビュー曲は、難なくこなせる湊と尚弥。2曲目と3曲目のダンスナンバーは、リズムに乗る楽しさや曲のカッコ良さに乗り、小難しい事は全て投げ捨てて踊ってみる。

 予想以上にミスを減らせた湊と尚弥は、顔を見合わせて互いの成長を笑顔で賞した。


 新曲は、これまでとはテイストの違うロックな雰囲気で、ダンスよりも歌がメインなのである。だから、それほど不安は抱いていない湊。だが、自分の“カッコイイ”が見つけられない湊は、他の3人の雰囲気を自分が邪魔してしまうのではないかと思っていた。

 それを、休憩時にコソッと尚弥に零していた湊。新曲に切り替わった瞬間、ポジションをスイッチする為に手を握った尚弥が、湊の耳元で激励を贈る。それは、接近するたった数秒の出来事だった。


「湊、カッコイイよ。すっごいドキドキしちゃった」


 湊の耳がボッと熱くなる。動揺した湊は、バッと振り向いて尚弥を見る。

 チラッと湊を見た尚弥が、パチンと小さなウィンクを飛ばした。湊は、ドキドキさせられたのは自分のほうだと、後で尚弥に文句を言ってやろうと誓う。


 全曲を終え、綾斗が『ほらね』と優しいドヤ顔をして言った。


「あとは回数こなして身体に馴染ませて、さっきの感じでいけたらミスなんてしなくなるよ」

「それよかキミら、途中でイチャつくのやめなさないよ。おにーさんたちそっちのが気になったんだかんね」

「イチャついてないし。湊に『新曲も頑張ろうね』って言っただけだもん。ねー?」


 尚弥は、あざとく首を傾げて湊に同意を求める。


「え··、あ、うん」

「あーっそ。そういう事にしといてあげるけどぉ」

「そうだね。仲間外れは寂しいよね。おにーさんたち、そのうち拗ねちゃうからね」

「おにーさんたちメンドクサイね」


 チクチクと言葉を投げてくる秋紘と綾斗へ、尚弥は湊の腕に抱きついて嫌味を返した。


「あはは。ねー、メンドクサイねー」


 普段は長男として気張っている湊も、綾斗と秋紘の前では弟の様に振る舞える。こういう冗談も交わせるようになった、少し気の休まる場所なのだ。



 夕方、練習を終えて帰ろうとする湊を、綾斗は話があると言ってコソッと呼び止めた。

 そして、尚弥と秋紘が先に帰ると、綾斗はとても聞き辛そうに訊ねた。


「湊さ、何か悩んでる··って言うか、言っとかなきゃいけない事ってない?」


 確実に、何かを察している質問。湊は、例の件であろうとすぐにピンときた。


「あ··あるにはあるんだけど、今は言えない··って言うか····。ちょっと待ってくれないかな」


 綾斗の顔を見る事ができず、湊は視線を落としたままそう言った。湊の動揺した様子を見て、問い埋めるべきではないと判断した綾斗。

 今日のところは『わかった』と言って引き下がった。


「何か困った事とか手に負えない事があったら、何時いつでもいいから連絡しておいでね」

「うん、ありがとう。ホントに、いつも気にかけてくれてありがと」

「いいんだよ。湊も尚弥も、俺は本当の弟みたいに思ってるから頼ってくれると嬉しいんだ」


 優しい笑顔で言う綾斗。実の弟はしっかりし過ぎていて、最近は反抗期なのかツンとしていて可愛げがないのだと、珍しく愚痴を零した。


「僕の弟も、僕以外にはツンツンしてるんだ。ブラコン過ぎて僕には甘々なんだけどね」


 言葉を濁して惟吹の事を話す湊。お互い、兄として複雑だと笑い合った。


「綾斗くんも秋紘くんも、お兄さんみたいで頼りになるし憧れてるし、サルバテラに入れて2人に出会えたこと、本当に凄く嬉しいんだ。えへへっ」


 湊が屈託のない笑顔を向けると、綾斗は衝動的に湊を抱き締めた。驚いた湊は、跳ね除ける事もできずに固まってしまった。



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