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第60話 狂瀾怒濤に打ちひしがれて


 穂月にバカにされ、ギャーギャーと喚いて反論する仁。ともあれ、事の経緯を説明しなさいと穂月に促され煉があらましを話した。

 煉はついでに、あの美少女が湊である事も仁に説明し、ウンザリした顔で『仁は一旦黙れ』と命じた。



「ふーん。ま、確かに自業自得だけど、アタシは樹の恋を応援するわよ」

「だよな! 穂月はそう言うと思った! 俺と湊がくっつけば、煉はまたお前のモンだもんな」

「でもぉ、煉の命令は絶対だから、煉に嫌われちゃうような事はしないわよ」 


 ウィンクをして言う穂月。樹は『だよな~』と項垂れてしまった。

 蚊帳の外な仁は、小さく挙手して『俺も湊きゅん狙ってるんだけど』と宣言する。が、煉はそれを一蹴してしまう。


「これ以上話ややこしくしてんじゃねぇよ。つぅか黙ってろつっただろうが。テメェは入ってくんな」

「そーそ。仁が1番対象外だからな。ノリと勢いだけで湊トキメかしてただけじゃん。お前なんか惟吹以下だからな」

「は? 惟吹って誰だよ。つぅかお前ら辛辣過ぎない? も~怒った。俺もガチで湊きゅんオトしてやっからな!」


 仁の本気宣言に項垂れる一同。その隙を見て、湊の眼前にぴょこっと飛び出した仁は、しれっと湊の唇を奪った。


「あらあら。仁、後ろ」


 穂月の呼び掛けに振り返る仁。目の前には、拳を振りかぶった樹と煉の姿が。

 穂月がしれっと湊を回収し、2人に殴られた仁は後方へ吹っ飛ぶ。そして、2人から浴びせられる罵詈雑言の嵐。

 けれど、仁はめげる事なく、湊をモノにするのだと言って引き下がらなかった。


 慌てふためく湊に、穂月は『面白いから放っておきなさいな』と言う。

 激しい喧嘩の末、三王子は見事に分裂してしまった。


 こうして、非常に騒がしい文化祭は、さらに状況がややこしくなったところで幕を閉じた。

 つまりはそう、煉と湊が平和に過ごせる日は、まだまだ訪れそうにないのだ······。




「湊にぃ? おーい、湊にぃ?」


 惟吹の呼び掛けが届かない湊。昨日、文化祭から帰ってからずっと、樹と仁のことを考えまたも心ここに在らずなのだ。


「もう····、しょうがないなぁ」


 何度呼んでも応答がないので諦めた惟吹。テーブルに肘をついて、ボーッとテレビの黒い画面を眺めている湊の額に口付けた。


「············えぇっ!!? ななっ、なんで惟吹もちゅーするの!?」

「俺?」

「あっ、えっと····なんでもない··です」

「なくないでしょ。言って」


 圧に負けた湊は、文化祭で樹と仁にキスをされた事を白状した。


「はぁぁぁぁぁ····。樹はホント拗れてんね。で、仁って誰よ。なんで湊にぃはあちこちでモテちゃうの? 俺というものがありながらさ」

「なっ、惟吹は··その、弟でしょ····うー··、ごめん」

「謝んないでいいよ。俺は弟として、湊にぃに悪い虫がつかないように駆除するだけだから」

「く、駆除って····」


 煉の事すら認めていない惟吹。結局のところ、湊を奪う輩は何人たりとも許さないのだ。


「湊にぃは変な男に現抜かしてる場合じゃないでしょ。今度の番組出演でやる曲、ダンス苦手だって言ってたじゃん? 練習しなくていいの?」

「あっ! そうだったね。今日、お昼から綾斗くんが教えてくれることになってたんだ。ごめんね、折角部活お休みなのに家のコト任せちゃって」

「部活休みだから代われるんだろ。湊にぃがテレビ出んの、みーとひーも楽しみにしてるからさ、ちゃんと練習に集中しないとだよ。あ、ついでに親父も」

「あはは、ありがと。それじゃぁ、お昼ご飯作ったら行ってくるね」


 湊は手際よく昼食を作り、夕飯の下拵えまで済ませて練習に向かった。



 自宅に練習部屋があると言うので、綾斗の家を訪れた湊と尚弥。いざ入ってみると、普段レッスンを受けているダンススタジオよりも広い、ダンスホールらしき部屋に唖然とした。


「ちょっと手狭かもしれないけど、ごめんね。後でアキも来るから、それぞれ苦手なパートを重点的に練習していこう··か··って、どうかした?」


 呆然と部屋を見回している2人に気づき、綾斗は心配そうに訊ねた。


「いや··、綾斗くん家って凄いお金持ちなんだなぁって、改めて思ってさ」


 この広さを手狭だと言ってのける綾斗に、尚弥が呆けたまま言った。

 父親が外資系の企業で重役についており、有名なバイオリニストである母親は海外を飛び回っているのだと話す綾斗。それを聞いた湊と尚弥は、この屋敷と綾斗の品の良さに納得した。



 今度披露するのは、デビュー曲と人気の高いダンスナンバーが2曲、それから新曲を含めたメドレーである。湊と尚弥は、アップテンポな激しい振り付けが苦手で、ライブ本番でも時々トチってしまう。

 初めてのテレビ出演で、絶対に失敗は許さないと社長から圧を掛けられたサルバテラの4人。これはマズいと、全曲余裕でマスターしている秋紘がレッスンをすることになったのだ。


 レッスンが始まって2時間。3人が休憩しているところへ、ヒョウ柄の毛皮を羽織ったセレブさながらの秋紘がやってきた。


「今日は一段と派手だね。あ、髪切ったんだ。似合ってる似合ってる。早く髪結んでジャージに着替えてきなよ」


 あからさまな建前で機嫌をとり、笑顔で練習スタイルになって来いと言う秋紘。ツッコむ間もなく、秋紘はしょぼくれて部屋の隅で着替える。


 ぶつぶつと文句を垂れながら秋紘が加わり、レッスンが再開された。



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