ナレーションの語りを終え、パッとライトに照らされ登場した煉。湊も初めて見る王子の装いに、場内は大きな歓声に包まれる。
(煉一人でこの歓声····。凄いなぁ····)
会場が割れんばかりの高い歓声。それが静まるのを待ち、煉は湊へ視線を送り一言目のセリフを落とす。
「酷い戦況だな····」
その言葉がしみじみと響く湊。まさに、今の自分たちを指しているようなセリフだ。けれど、様になっている煉の王子姿と、練習よりも演技に拍車がかかり哀愁を漂わせる煉に、湊はドキドキしてしまいそれどころではなかった。
見目麗しいものには耐性があるつもりの湊。だが、煉の麗しさには目を見張るものがあった。改めて遠目から見る煉は、高身長で程よく鍛えられた筋肉が控えめに主張しており、流石モデルと言うだけあってスタイルが良く顔面偏差値は超美形の綾斗や秋紘に引けを取らない。
そんな煉が、今や自分のものなのだと自覚した湊は、思わず照れて俯いてしまう。
「なーにアレ。余裕ね」
「煉····。なんってカッコイイんだ。流石、俺の煉。諏訪、撮影に抜かりはないな?」
「はいはい、10台態勢で撮ってますよ。はぁ····」
キャラの濃い2人に挟まれ、湊は少し正気に戻る。いくら煉と恋人同士になったとは言え、問題は山積みなのだと思い出したのだ。
劇も終盤、幾度となく繰り返したあのシーン。
「私が愛しているのは姫、貴女だけです。どうかその魂、私に委ねてください。この命に変えても、生涯護り抜きましょう。さぁ、誓いのキスを」
煉は、湊のアドバイス通りのアドリブを加えてセリフ並べる。そして、いよいよ姫の顎を持ち上げキスをする
けれど、最前列で見ていた4人には、煉がいかに無感情でそれをこなしたか分かる。故に、スンとした表情で煉の眉間の皺を見つめていた。
「あの女、殺す······」
それでもなお、徐々に歯を食いしばり渦巻く感情に弄ばれる穂月。実は、湊も隣で静かに嫉妬していた。けれど、反対側の嵐も『あの女の記憶消すのっていくらくらいかかるかな。諏訪、あの姫の顔、オレにすり替えといて』などと真顔で言っているのだから、湊が嫉妬を燃やす隙がない。
劇も終盤、煉のセリフで劇は幕を閉じる。煉は姫を抱き締めながら、じっと湊を見つめてそれを囁いた。
「愛してる──」
ドッドッと鳴る強い鼓動を押さえ、湊は盛大な拍手を贈る。幕が閉じても暫く、盛大に鳴り響く拍手は止まなかった。
拍手が止んだ会場では、あちらこちらから煉の迫真の演技について意見が飛び交っている。モデルから俳優への転身もあるのではないかと聞こえ、湊は嬉しい反面複雑な思いだった。
騒がしい会場を後にする穂月と湊。と、何故か後ろを歩く嵐と諏訪。
「ねぇ、なんでついてくるの? アタシ、嵐ちゃんも好きだけど煉にしか興味ないわよ」
「奇遇だね、僕もだよ。ただ···、ひとつ聞きたいことがあってね」
「あら、アタシと煉の情事でも聞きたいの?」
「あはは··。ホントにそんな事シてたら、今すぐお前のコト捻り潰しちゃうなぁ、物理的に」
「やだぁこわーい」
「穂月、それで誤魔化してるつもりかい? そろそろ教えてくれないかな。君がさりげなく隠している、その幼気な美少女について」
笑顔を貼りつけ2人は静かな語り口調で話すものの、諏訪ですら緊張感を孕ませるほど殺気に満ちている。湊に至っては殊更、2人の気迫に圧され涙が落ちる寸前だった。
そこへ汗だくで現れたのは、高速で着替えを済ませた煉だ。煉は、湊の手を引き背後に隠すと、穂月と嵐に向かってドスを利かせた声で言い放った。
「こいつ貰ってくから。ついて来たら二度と口聞いてやんねぇからな」
子供みたいな捨て台詞だが、2人には何よりも効力のある脅しだった。
「待ちなさい煉。その子が誰なのかだけでも教えて──」
「うるっせぇな。お前に関係ねぇ──あぁ、ンなに知りてぇなら教えてやるよ」
そう言って、辺りを見回した煉は湊の腰を抱き寄せ、派手に深いキスをして見せた。
「れれれっ煉んんんんんんん!!!??」
事ある毎に喧しい、愛情過多で疎まれる嵐。けれど、周囲に居るのは嵐たちだけではない。他にもちらほらと居た生徒が目撃し、特大の悲鳴が上がる。
「コイツ、俺の恋人。今度改めて紹介してやっから今は放っとけ」
そう言い残し、フッと笑顔を零した煉は湊の手を引いて走り出した。
「ったく··煉ったらはしゃいじゃって····」
煉の笑顔を見送り、額を手で覆い呆れる穂月。
嵐は、思わず追いかけようと煉へ手を伸ばし一歩踏み出した。けれど、穂月は嵐の肩を握り止める。
「口、聞いてもらえなくなるわよ」
「うっ··ぐ··ぐぅぅ····。ふぉ、
「まぁね。教えてあげないけどぉ。つぅか、『ふぉづき』って誰よ」
歯を食いしばって拳を握り締め、込み上げる感情を全てかみ殺した嵐は、諏訪を連れて帰っていった。
そんな事とは露知らず、煉は湊を校舎裏の草陰に押し倒していた。
舞台終わりの昂りと他の女を通して視線を交わした湊への贖罪、幾つもの感情が入り乱れて、湊を欲する気持ちを抑えきれなかったのだ。
「んっ··は、ぁ、ンンッ····」
「ん··、ヅラ邪魔だな」
キスを妨げるロン毛のウィッグに苛つく煉。
「取らないでよ。こんなの、もし見られたら、大問題になっちゃ──んぅっ」
可愛げのないセリフに苛立ち、煉は再び湊の口を塞ぐ。湊は煉の首に手を回し、自身も抱えていた不穏な心をさらけ出す。
「煉が、相手にしてないのは分かってたんだけどね、やっぱりちょっと妬けちゃった····」
「あぁ、悪かったな」
「来年は··――」
湊は、言いかけた言葉を飲み込む。
(もし僕がヤダって言うと、煉はもう劇とかしなくなっちゃうんだろうな。折角、煉が楽しそうにしてたのに、それを邪魔しちゃいけないよね····)
会場でチラッと聞こえた“俳優への転向”が頭を過る湊。それは、煉の可能性であり、それを自分の我儘で潰すなど許されないと思い至ったのだ。
言葉の途中で黙ってしまった湊に、煉が一瞬
「····? なんだよ」
「ううん、なんでもない。煉の演技、凄く良かったなって。本物の王子様だったよ」
「まぁ、普段から王子扱いされてっからな」
「んふっ、王子らしい事なんてしないくせに」
「あ? お前以外にしていいのかよ」
「····やだよ」
「だったら生意気言ってんじゃねぇよ」
笑い合うなか視線が合った2人は、引き寄せられるかのように啄む様なキスを繰り返す。
「ねぇ··、最後のセリフ、僕に向かって言ったでしょ」
「あんな遠いトコから中途半端に言われてもだろ」
「ん····でも、それでも嬉しかったんだ。煉が見てるのは、僕だけなんだって思ったら··ね、嬉しかったの」
「っそ。けど、あんなんノーカンだわ」
と言って、煉は湊の後頭部に手を回し、髪に指を通し頭を掴んで寄せると、優しく甘い声を耳へ流し込むように囁く。
「愛してる、湊」
「ひぁっ、ひぁぁぁ····」
耳も顔もぶわわっと熱くなった湊は、煉に抱きつき胸に顔を