喧嘩腰で言葉をぶつけ合い、同時に立ち上がった煉と樹、そして惟吹。あわや、乱闘が始まろうとしている。
が、血気盛んな3人に、苛立ちがピークを迎えた湊は『いい加減にしてよ!』と怒鳴りつけた。
興奮していた3人は、聞き慣れない湊の怒声にビクッと身体を強張らせて停止する。
「皆、何勝手な事ばっか言ってんの? 僕の気持ち無視してさ。もうちょっとゆっくり進めてよ!」
「お前の鈍感に付き合ってたらウン十年進まねぇから今こうやって皆ぶっちゃけてんだろ。ちったぁ賢い脳ミソ回して俺らについてこい」
「ふぇっ····。れ、煉のバカ····。僕、鈍感じゃないもん!」
ポロポロと泣き出した湊へ、追い打ちをかけるように『鈍感だよ····』と声を揃える樹と惟吹。
「そこじゃねぇだろ!」
ここぞとばかりに、キレる煉から湊を庇い抱き締める惟吹。よしよしと頭を撫でて宥める。
「だいたいさぁ、湊にぃのこと脅してファンサさせてた奴が彼氏面してるとか、ホント理解できないんだけど」
「マジそれな。俺らがゆっくり湊と距離詰めてたのに、しれ〜っと掻っ攫っていきやがって。どうやったんだよ」
「あ? ンなもん普通に──」
「はぁ? 湊にぃに普通が通用すんだったら俺らも苦労してねぇよ」
「そうだよ。どうせ煉が強引に迫ったりしたんだろ。俺らがずっと我慢してきたこと、あっさりやっちゃうんだよな、煉は!」
「テメェらがちんたらやってっからだろ。ま、そのおかげで俺が湊オトせたわけだけど? そこだけはノロマに感謝してやるよ。俺は湊のペースに合わせるとかダリィ事しねぇからな」
口を開けば揉める3人の勢いに圧され、涙が引っ込んだ湊。やれやれと溜め息を吐く。
そして、惟吹に抱き締められたまま、湊は静かに怒りを吐き出す。
「ねぇ、ひとつずつ整理していこうよ。僕さ、可愛い弟の為にオムライス作ってあげたいんだ。だから、要点まとめて手短に済ませようよ」
3人は背筋をシャンと伸ばし、声を揃えて『はい』と返事をした。
再び、テーブルを囲んで席に着く4人。さっきと違うのは、全員正座で改まって向かい合っているという事。
湊が進行役を務め、順に話を聞いてゆく。
「まずは煉からね。どうぞ」
「俺は特に言う事ねぇよ」
「じゃぁ──」
次へ進めようとした湊の頬に手を添え、うっとりと見つめてそれを遮る煉。
「俺は湊が好きで、湊は俺が好き。他がどうこう言おうが、湊は俺のモンだろ?」
「はぅぅ····」
目をキュッと閉じ、煉の顔の良さに心臓を鷲掴みにされる湊。
「それは狡くねぇ? そういう事シていいの? だったら俺もするよ?」
負けじと樹が手を伸ばす。が、煉がその手を掴んで止めた。
「触んのは許さねぇ。お前らが気持ち伝えんのは勝手だけどな、湊は今もこれからも俺のモンなんだよ」
「煉····」
膠着状態の煉と樹から、奪うように湊の腕を抱き寄せる惟吹。
「もう! 湊にぃ、そんな顔だけが取り柄みたいな奴にうっとりしないで! 湊にぃのこと脅したり困らせてたコト忘れちゃダメだよ?」
「そ、それはもう····」
「ねぇ、湊にぃ。俺の話も聞いてくれるの?」
「当然でしょ。逆に、なんで惟吹の話だけ聞かないの?」
兄弟であるが故に、湊に話すら聞いてもらえないと思いこんでいた惟吹。湊の実直さに、惟吹は嬉しさが込み上げてふふっと笑った。
それから、吹っ切れたかのように一呼吸置いて話し始める。
「俺ね、湊にぃのこと好きだよ。兄弟としては勿論だけど、男としても。湊にぃは俺が幸せにしたいんだ」
「ちょ、待っ、惟吹、そんな目で見ないで····」
湊は、初めて見る男の顔をした惟吹から目を逸らせない。困っている湊を救うべく、樹は惟吹の頭をガシッと掴んで引き剥がす。湊は煉が回収した。
「お前ら兄弟の距離感おかしくね? ベタベタしすぎだろ」
「んぇ? 普通じゃないの?」
「おいこら、月宮煉。俺が長年かけて仕込んだ距離感のバグにツッコむな」
「そーだそーだ。俺が抱きついても文句言われないのは惟吹のおかげなんだぞ! そこだけはマジで感謝してる」
「ざけんな樹。そこだけは後悔してんだよ! 俺にだけバグってればいいのに····」
バカが過ぎる樹と惟吹に、呆れ顔の煉。さらに酷い呆れ顔をしているのは、他でもない湊だ。
「皆、僕のことなんだと思ってるの? ねぇ、僕で遊んでるの? ····まぁいいや。最後は樹ね。さっさと話して」
「う··、はい。えっと、俺はさっきも言ったけど、ずっと湊のことが恋愛的な意味で好きだったんだよ。でも、湊を困らせるだけだと思って、ずっとバレないようにしてきたんだ。バレないようにするしんどさ、湊なら分かってくれるよな」
樹は、卑怯だと自覚しながらも湊の同情を得ようとする。そんな事とは露知らず、樹の言葉にまんまと動揺する湊。
「それは··、分かるよ。僕の為に、ずっと····そうだったんだ。苦しかったよね。気づかなくてごめんね。それと、ありがとう」
「なんで湊謝るの。俺が勝手にしてた事だから、湊が気に病まなくていいんだよ。俺こそ、狡い言い方してごめんな。俺にとって、湊は大切に守っていたい存在だったんだ」
静かにそう語った樹。湊はそれを、しゅんとした顔で聞く。
「はっきりフラれんのが怖かっただけだろうが。ヘタレがそれっぽいコト言ってじゃねぇよ。弟はそもそも弟なんだから、そこどうにかしてからにしろ。湊が困るだけだろ」
樹の臆病も惟吹の幼さも、一刀両断にしてしまう煉。何ひとつ、言い返す言葉の出ない2人は、顔を伏せてしまった。
事実と2人の気持ちを、須らく押し