丸くて真っ白なテーブルを囲み、惟吹から時計回りに湊、煉、樹と座って4人は向かい合った。
惟吹は煉を睨みつけ、開口一番、喧嘩腰に尋ねる。
「湊にぃが後でちゃんと説明するって言ったから聞かなかったけど、ソイツだれ? 樹だけでも嫌なのに、知らない男まで家に上げんのホンット耐えらんないんだけど」
「ははっ、樹嫌われてんじゃん」
立てた片方の膝に肘をついて聞いていた煉が、樹をチラリと見て揶揄う。
「嫌われてねぇし。同担拒否なだけだし」
「あ? 同担拒否って····はぁ!?」
煉は驚きを隠せず、顎を乗せていた手からバッと顔を上げて惟吹を見る。煉と目が合った惟吹は、ドヤ顔でふっと笑みを零す。
「いや待てよ。同担って、お前ら兄弟だろ」
「だから?」
売り言葉に買い言葉な惟吹。どうせ湊は気づかないだろうと、もはや隠そうともしない。
「あ、そうだ。紹介がまだだったよね」
案の定、1人状況を理解していない湊が、呑気に互いの紹介を始める。まずは、両手をぱっと惟吹に向けて、湊はステージでの癖を披露する。
「えっと、こっちが3つ下の弟の惟吹だよ。毎日部活頑張ってて、僕のお手伝いも進んでしてくれる優しい子なんだ。それと、さっき下で騒がしかったのが双子で、女の子のほうが碧、男の子が光。えへへ、可愛いでしょ」
にへらと笑顔で兄弟の紹介を締める湊。余程、自慢の兄弟なのだろうと、煉は瞬時に理解した。
「で、惟吹。こちらが僕の、その··か、彼氏の月宮煉くんです」
またも開いた両手を煉に向けるが、顔は伏せて照れくさそうに煉を紹介する湊。『月宮』と名前を出した時点で、他の紹介は要らないだろうと踏む湊は、おずっと顔を上げて惟吹の反応を見る。
「月宮······え、月宮って····えぇ!? もしかしてあの!? いや、え、は? どういうこと? なんで!? どーなったらそーなんのさ!?」
パニックに陥る惟吹。そして、腕を組みうんうんと頷く樹。
「そう。
湊と惟吹が意思疎通し合うのを、頭上に疑問符を浮かべて見る煉と樹。蚊帳の外扱いが気に食わない煉は、ツンとした態度を隠さず言葉を投げつける。
「おい。『あの』ってどのだよ」
観念した湊が、これまでの経緯を当人交えて洗いざらい白状する。湊の口から全ての事情を聴いた3人は、これまで湊に感じていた疑念が徐々に溶けていった。
同時に、それぞれに抱いていた湊への心配が晴れた事だけは、この会の唯一の利点と言えた。
「あのさ、この際だから言うけど」
この機に便乗しようと、樹がすっと手を挙げて発言する。けれど、内容を察した煉と惟吹が、利害の一致で団結してそれを阻む。
「お前の話は今聞いてねぇ」
「つぅか、樹の話なんて一生聞かなくていい事しかない」
「お前ら俺の扱い酷すぎねぇ?」
「そうだよ。樹の話も聞いてあげようよ」
「湊はホンット優しいね。一生スキ♡」
困り顔の湊に逆らえない惟吹と煉は、仕方なく樹に発言の許可した。
「言っとっけど、今から樹の話聞いて困んの
ビシッと湊を指差して言う煉。理由に心当たりのない湊は、眉を寄せて首を傾げる。
「湊はホント
真っ直ぐ、湊を見つめて言う樹。湊に『好き』と発する時の樹は、どれだけフザけていても瞳は真剣そのものだった。けれど、湊はそれに気づいていない。
それは、湊の鈍感さに加え、樹が隠している所為でもあった。想いが伝わらないギリギリで、樹はいつも怯えていたのだ。
稀に見る樹の真剣な顔に、湊は狼狽えつつもいつも通りに想いを躱してしまう。
「····んぇ? うん、知ってるけど··、ありがと。僕も樹のこと好きだよ」
見るからに『はぁ?』と叫びたげな顔で湊を見る煉。だが、続きを聞き、樹に同情の念を抱くことになる。
「樹は同い年なのにさ、なんだかお兄ちゃんみたいで凄く頼りになるよね。ちょっとおバカだけど。いつも助けてくれてるの、本当に感謝してるんだよ。あ、でもね、自由過ぎるところは弟みたいで可愛いなって思ってるよ。んへへ♡」
男として、微塵も意識されていない樹。愛らしい笑顔を見せて『好き』と言う湊だが、恋愛のそれでない事は明瞭。
煉は、流石に樹を憐れに思った。
「お前、よく今まで耐えてたな」
煉は、樹の肩にポンと手を乗せて言う。樹はそれをパシッと払った。
「煉、あんま俺のことナメてっと痛い目見んぜ?」
「あ゙ぁ?」
「湊、よく聞いてね」
「え、うん。」
樹は、目を閉じてすぅっと息を吸い込み、ふぅっと静かに吐き出した。
「俺は、湊のコト恋愛的な意味で好きだよ。だから、煉から奪う気でいる」
「へっ····」
「もう、遠慮も容赦もしないからね。惟吹もそのつもりでいろよ」
ジロッと惟吹へ視線を移した樹。今までになく本気な樹を見て、惟吹に緊張が走る。
「な、何言ってるの樹····。奪うって··え、て言うかなんでそこで惟吹が出てくるの? いくら惟吹が過保護だからって、そんなのわざわざ言わなくても····」
慌てふためく湊。樹の言葉が理解できないままぐるぐると巡る。
そんな湊を見て、大きな大きなため息を吐いて髪を掻き乱す惟吹。勝手ばかり言う樹に相当な苛立ちを感じていた。
「だぁぁっ!! くっっっそ! 一生言うつもりなかったのに! お前らの所為で! マジで不本意なんだけど!」
声を荒げた惟吹は、煉と樹にジトッと視線を向けた。それから、挑発するようにグイッと湊の肩を抱き寄せて言う。
「湊にぃは俺のだから。絶対、お前らになんかあげない」
そう言って、親指を下へ向けて煉と樹へ贈った。
「テメェ、良い度胸だな。湊が誰に惚れてっか教えてやんよ。つぅかガキかよ」
「ちょい煉、お前にばっか湊独占させねぇからな。あと惟吹はガキだよ」
「上等だよ。誰が湊にぃに相応しいか勝負しようぜ。言っとっけど、
3人は同時に立ち上がり、あわや乱闘が始まろうとしている。血気盛んな3人に、苛立ちがピークを迎えた湊は怒鳴りつける。
「いい加減にしてよ!」
興奮していた3人は、聞き慣れない湊の怒声にビクッと身体を強張らせて停止した。