放課後、湊を待ち伏せする煉。
いつも湊が駆け抜けていく
一瞬見惚れる煉だが、隠れていた柱の陰からすぐさま湊を捕まえた。湊が一生懸命に振る腕を掴み、グイッと引いて背中から抱き締める。
あまり足が速いほうではない湊を捕まえることなど、運動神経の良い煉にとっては容易い事だった。
「う、わぁっ!」
「シィー····」
湊の口を手で塞ぎ、耳元で黙るよう指示をする煉。そのまま、湊に前を歩かせて空き教室へ入る。
すぐに煉の仕業だと気づいた湊は、抵抗を見せずに従う。が、煉がドアを閉めると施錠までしてしまったので焦りを見せる。
「な、なんで鍵までしめるの?」
「誰か来たらどうすんだよ。色々バレたら困んの、お前だろ」
文化祭の準備期間というのは、思いもよらず空き教室が使われたりする。つまり、いつ誰が訪れるか分からないのだ。
よって、用心に越したことはない。
「それもそうか。えっと、僕の為に、その、ありがと」
「別に、お前の為だけじゃねぇから気にすんな」
「へへっ、うん。ところで、何か用があったんじゃないの?」
湊が尋ねると、煉は湊の顎を指で持ち上げて聞き返す。
「用がねぇと会えねぇの?」
「そ、そういうわけじゃないけど、待っ、ち、近いよぉ」
「近くねぇとキスできねぇじゃん」
そう言って、煉は当たり前のように唇を重ねる。煉の本音は、こういう事がしたいから人が来ると困るのだ。
煉の胸を押し返す手に、力など込められていない湊。抵抗する素振りだけで、実際には受け入れてしまっているのだ。
けれど、恥ずかしさ故に涙が滲んでくる。
「ん····は··ぁ、煉」
「ん? あぁ、そうだ。カップケーキ、すげぇ美味かった」
「んぇ? そっか、良かった····」
「お? あ、おい!」
湊は、煉の甘いキスで腰を抜かしてしまった。
「お前なぁ、こんくらいで腰抜かしてんじゃねぇぞ」
「だ、だって··、すごい気持ちくて、ふわふわしちゃうんだもん」
そう言って、潤んだ瞳で煉を見上げる湊。頬を真っ赤に染めて、ぷるっと艶やかな桃色の唇を震わせている。
煉は込み上げる欲望を押さえきれず、綺麗に並べられた机の間に、湊を押し倒してしまった。
椅子や机に煉の腕や肩がぶつかり、ガダッと乱れて歪む。けれど、そんな些末なことに意識を取られる事などなく、煉は湊の唇を一心に貪る。
抵抗させないよう、湊の手首を押さえ込む煉。夢中で湊を求めるあまり、少し怯えた様子の湊に気づく余裕などなかった。
「んっ····」
湊の洩らす甘い声に、煉の理性が削がれてゆく。このままこの先へ。煉は、震える湊の頬に手を添え、優しく口付けて言う。
「ちょっとだけ、身体触っていいか?」
(こないだは聞かずに触ったくせに)
心の中で悪態づくも、余裕のない煉を見ては抗えない湊。
「そんなこと聞くの、狡いよ」
「いいんだな? 嫌なら言えよ。止まんねぇかもしんねぇけど」
そう言って、煉はまた甘いキスから始めてゆく。
湊の反応をみながら、少し唇を離して湊が薄く口を開くのを待ってみる。煉が待っていることに気づいた湊は、恐る恐る唇を開いて舌を差し出す。
煉は、湊が自分を求めていると分かり、歓喜でまた身体が熱を増した。湊の舌を掬うように、優しく遠慮がちに舌を絡める煉。煉なりに、湊を怖がらせないようにと配慮はしているつもりなのだ。
しかし、キスだけでどんどん乱れていく湊を眼前に、煉は残った理性を保つだけで精一杯だった。
煉が、湊のシャツに手を忍ばせる。少し腰に触れただけで、ピクンと身体を跳ねさせて声を零す湊。
その敏感さに、煉の理性が完全に飛んでしまった。
「煉、やっぱり待って。····怖い」
「我儘言ってんじゃねぇ。お前の所為で止まれねぇんだよ」
「はぇ? 僕の所為····?」
早くも蕩けている湊に、何を言っても無駄だと判断した煉。耳元に唇を寄せ、低い声で『優しくすっから目ぇ瞑ってろ』と囁く。湊を完全に蕩けさせ、大人しくさせようという意図もあったのだろう。
煉の思惑通り、湊は思考も抵抗もできなくなっていた。
湊の細く柔らかい腰に、指先からそっと触れなおす煉。前回触れた時は今以上に余裕がなく、感触を味わう事もできなかった。けれど、今回は僅かに残った平常心で、触れる感覚と喜びを噛みしめる。
すすっと手を進め、湊のわき腹を撫でる。指先を背面に近づけ、抱き寄せるように少しだけ持ち上げる。
それに反応して腰を浮かせる湊。その拍子に、2人の熱くなったものが触れ合う。
「んぁっ」
「可愛い声出してんじゃねぇぞ。ここで犯されてぇの?」
歯を食いしばって言う煉。
「んぇ? ここではシないの?」
「バッ··カじぇねぇの!? フゥーッ···、ンなとこで
荒げた息を整えるとまた耳元で囁き、湊を堕としてしまう煉。涙の浮かんだ湊の目には、雄々しい煉しか映っていない。
自分が何をされようとしているのか、イマイチ分かっていない湊は、与えられる快感に身を委ね、煉に全てを託してしまえと思ったのだ。
それほど心を許してくれた事は喜ばしいが、湊の無防備さが不安で仕方ない煉。人目に触れる所や、自分の目が届かなくなる時は、決して湊を蕩けさせないようにしようと心に誓うのだった。