惹かれ合うまま抱き締め合う、想いの通じ合った煉と湊。そっと離れると、今度は互いを誘うように見つめ合う。
「キス··したい」
「··ぼ、僕も」
「ここじゃマズいだろ」
「····うん」
2人は近くの公園に入り、
これから交わすのは、心の通じた合意のキス。
大きな木に湊を押さえつけ、隠すように覆い被さる煉。煉は本能のまま、欲しいがまま湊の唇を貪る。
ギュッと固く目を瞑ったままの湊。上手く息ができず、膝に力が入らなくなってゆく。
湊は、煉の背中にしがみついた。けれど、ズルズルと落ちてゆく身体。終いには、芝生にお尻が着いてしまった。それでもキスをやめられない2人。
煉は片手を木について、上から食べてしまうかのように湊の唇を食む。反対の手は地面につき、少し体重を乗せて湊が逃げられないようにしている。
けれど、あっぷあっぷする湊を見兼ね、息をさせようと束の間唇を離す煉。耳元で『口、ちょっとでいいから開けろ』と命令する。
いよいよ舌を差し込むが、湊は固まって動けない。反応できない湊を可愛いと思えば思うほど、湊が自分のペースに呑まれれば呑まれるほど、煉からのキスは際限なく激しさを増していく。
夢中になった煉は湊の後ろ髪を掴み、強引に自分がキスをしやすい角度へ向かせた。小さく漏れる、湊の甘い声に心臓が爆ぜてしまいそうになる煉。その熱は、冷めることを知らない。
煉の力強さに、本能で雄を感じてしまう湊。ドキドキするのと同時に、少しだけ怖いと思ってしまった。
湊から、ポロッと涙が落ちる。気づいた煉は、髪を掴んでいた手と唇を離し、慌てて湊を労る。
「わ、わりぃ。夢中ンなってた····」
眉間に皺を寄せて、苦しそうな表情で湊を見つめる煉。それは、煉の中で何かを我慢して、無理やり感情や衝動を抑えているような
本能で感じる、自分を求めている煉を目の前に、湊は心臓が跳ねる心地良さを覚えた。
「ン··、大丈夫。もっと、シたい。けど、優しく、ゆっくりシて····」
息を切らせながらも、懸命に気持ちを伝えた湊。少し冷静になった煉は、優しく慎重に唇を重ね、湊の反応を待つ。
落ち着いた湊は、煉の唇の柔らかさを感じる余裕を見せた。そして、湊も少しだけ煉の唇を食んでみる。
湊からのアクションが嬉しくて、反応してしまいそうになる煉。だが、まだ
けれど、煉だってこんな事をするのは湊が初めてなのだ。昂ってゆく激情は簡単に抑えられなかった。
愛らしく、小鳥のように唇を吸う湊。そのぎこちなさに
反応できない湊の舌を掬い、湊を味わうように舌を絡める。湊が漏らす熱い吐息は、煉の欲をさらに駆り立てた。
シャツの隙間から、湊の腰に手を触れる煉。素肌に触れ、下半身にも熱が滾る。
煉は、脇腹まですぅっと手を這わせると、キスをやめて首元に吸いついた。痕を残さないように、軽く吸っては離し、鎖骨を甘噛みする。
「んっ、ぁ、煉····待って、れ、ンンッ····」
湊の膝を割って入った煉の脚が、ぐりぐりと欲望を刺激する。途端に怖くなった湊は、ポロポロと泣き出してしまった。
焦った煉は、湊からバッと離れる。
「ごめん。マジで歯止め効かねぇ」
「ぼ、僕こそごめ··、ちょっと、びっくり··しちゃって····」
湊は俯いて、顔を隠し涙を拭う。煉は、湊の頬に手を添え、ゆっくりと顔を上げさせる。
「ンな擦ったら赤くなんだろ」
煉はそう言って、目元にキスをして溢れてくる涙を吸う。驚いた湊は、涙が引っ込んでしまった。
真っ赤になって、煉の胸を押し返す湊。
「だだだっ、大丈夫! もう大丈夫だから! 涙なんかす、吸ったら··汚いよ····」
「汚くねぇよ。泣いてる湊、可愛い」
聞きなれない煉の甘い言葉と声に、湊の顔はどんどん熱くなってゆく。腹を括ったからなのか、これまでとは違う表情で湊を見つめる煉。まるで、恋人のように。
「湊、俺と付き合え」
「め、命令··なの?」
「違ぇよバーカ。告白だろ」
あまりにも自信満々な煉に、湊はふふっと笑ってしまう。
「そんな偉そうな告白なんてないよ」
「は? だったら命令してやろうか?」
「え··?」
さっきのが命令でないのなら、煉の言う命令とはどんなものなのだろうか。湊はキョトンとして煉の言葉を待つ。
煉は、そんな湊の耳輪を指で摘まみ、ぽそっと耳元で囁く。
「俺のモノになれ」
腰からゾワゾワっと何かが込み上げた湊。耳まで真っ赤に熱くなる。
「な? 違ぇだろ?」
「へぁ··、うん」
煉は立ち上がり、湊を立たせようと手を差し出す。
「おい、ちゃんと立てよ」
「う··んぇ、あれ? 煉、どうしよ····。腰抜けちゃったみたい····」
「はぁ!?」
煉の甘い命令に、腰を抜かしてしまった湊。立てないので仕方なく、煉にお姫様抱っこで抱き上げられる。
「煉、すぐ立てるようになるから待って! こんなところ誰かに見られたら····」
「だったら前髪下ろせよ。そしたら、お前は
不敵な笑みを浮かべてドヤる煉。その格好良さたるや、湊に反論の余地を与えない。
「うぅぅ··。
「うっせ。あんなんで腰抜かすお前が悪いんだからな。タクシー呼んでっからそこまで我慢しろ」
腰を抜かしてしまった不甲斐なさと恥ずかしさに苛まれ、湊は両手で顔を覆い隠した。その直後、湊はふと気づく。
(なんで煉は平気なんだよぅ····あ··れ····? そう言えば、なんで煉はあんなに気持ち良いキスできるんだろ)
浮かんだ疑問は、また小さな渦を成して湊の中でぐるぐると育ってゆく。けれど、それを煉にぶつけるのはまだ少し先の事。
湊は、煉を探るようにチラッと覗き見る。
「むぅー··。煉はいつでも煉だよね。ホント、横暴だよ」
そう言う湊の顔は緩んだまま。煉の横暴なところまで好きになっていたのだから仕方がない。
「んで、返事は?」
「へ?」
「いや『へ?』じゃねぇだろ。俺、告ったんだけど」
「ぅ、ぁ··えと、返事····。はい、よろしくお願いします」
湊は、また顔を覆って言った。
しかし、煉はそれを受け入れない。湊の手の甲に食むようなキスをして、強引に手を退けさせる。
「隠すな。ちゃんと顔見て言って」
「ふぇ····」
もう泣き出しそうな湊。じっと見つめてくる煉の瞳に、吸い込まれそうになるのを堪えて応える。
「ぼ、僕も好き。だから、よ、よろしくお願いします」
「ん。よろしくな」
そういって、煉は湊の額にキスをした。
余計に歩けなくなった湊を抱え、公園の出口を目指す煉。
出口に着くと、1台タクシーがハザードを焚いて停まっていた。いつの間に呼んだのか、そのタクシーに湊ごと乗り込む煉。
湊を家へ送り届け、満足げに煉も帰宅した。