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第13話 ゲリラ配信にて


 湊の為ならばと、普段は嫌がる出演にも快諾した綾斗と尚弥。2人の態度にどこか不満気な秋紘だったが、配信が始まればいつも通り。

 雪と刹那で蒼を挟み、お目付け役として夕陽が刹那の隣りに座る。この、いつもの並びで4人がソファに座り、刹那の言葉で配信が始まった。


「みんな〜、やほー。··て、おぉ〜、すげーね。ゲリラなのにもう1000人も観てくれてる。つって直前にSNSで流したけどさ? やっぱ俺ってば愛されてる〜」

「皆暇なんじゃない? 刹那なんかの配信見たってしょうがないのにね」

「雪ちゃんキッツ〜」


 雪の天敵と揶揄される刹那と、毒舌な雪のやり取りから始まり、綾斗こと夕陽が仲裁に入って落ち着く。ライブの時と変わらない流れ。

 饒舌に毒舌を吐く雪だが、それはいつだって刹那とファンに対してのみ発揮する。それは、素の時でも変わらない。綾斗は尊敬しているし、湊には殊更甘い。尚弥は、好き嫌いがはっきりしている性格、よく言えば素直なのだ。

 そして、雪が湊に対して甘々な事も、ファンの間では有名な話。仲良し兄弟みたいだと人気を博している。


 実は、メンバー全員が揃って出演するのは今回が初めてで、いつもはメンバーから1人だけ召喚されている。それも、視聴者が見てわかるほど渋々といった感じでだ。

 それが、売りになっているところでもある。


「最近さ、うちわに色々書いてあるじゃん? 今日は、あれについて話そーかなって思ってます! はい、拍手〜」


 企画発表をし秋紘は、ハイテンションでメンバーに拍手を求める。が、雪はツンとした態度のまま、とことんやる気のない拍手を。綾斗は柔らかい笑顔で軽く数回手を叩く。湊は、ステージと同じ笑顔で、真面目に盛り上げようと拍手をする。

 いつも通りすぎる三者三様の反応に、コメントは大いに盛り上がってゆく。


 うちわについて、それぞれの思うところを話していくメンバー。話は進み、湊の番。


「アレって、皆の気持ちが伝わって凄く嬉しいんですけど、たまに何してほしいのか分からないのありますよね」


 蒼がそう言うと、コメント欄が要望のテンプレで溢れ返った。


「おーおー··、すげぇ〜こんなにあるんだ。蒼、こん中で分かんないのある? オレ全部分かるから教えてあ・げ・る♡」

「····キモ。なんで蒼相手に語尾ハートなの? 蒼は刹那からのハートなんか要らない」

「ちょっとちょっと雪ぃ、どう見ても蒼喜んでるでしょ〜」


 コメント欄と睨めっこをしている蒼は、2人のやり取りなど聞いていなかった。


「んっと····あ、これ」

「え、蒼ちゃん無視?」

「え? ごめん、聞いてなかった」

「んもーっ、いいよ。で、どれどれ?」


 刹那は蒼の肩を抱き、鬱陶しそうに自分を睨む雪を横目にゼロ距離へ。そして、タブレットのコメント欄を指す湊の指先へ視線を落とす。


「この“きゅんさせて”ってやつ」

「え〜、こんなの簡単じゃん」

「女の子をきゅんさせた事なんてないから難しいんだよ····」


 蒼は、肩を抱く刹那の手をそっと剥がして言った。


「んじゃ見てて。よし、お前らいくよー?」


 刹那は、目をすぅっとドSモードに切り替える。タブレットの向こう側へ置かれたカメラを指さして、甘い低音ボイスで『俺の愛、買わねぇとかある?』と言い放った。

 コメント欄が絶叫とハート、黄色やオレンジ、時々赤色の枠で埋まる。


「うわぁ····刹那凄いね! 僕にはできないけど」

「蒼だったらねぇ〜····」


 刹那は、蒼に耳打ちをして指示を出す。それを聞いた蒼は、顔を赤くしてしまった。


「それ、ホントにやるの?」

「蒼にしかできないよ。やってみ。あと、恥ずかしがったら余計恥ずかしいからね」

「う〜····わかった。皆さん、笑わないでくださいね」


 前置きをして、蒼はカメラへ向き直る。そして、目を瞑り大きく息を吸って、パチッと大きな目を開いた。

 胸の前で結ばれた拳を反対の手で包み、少し頬を赤らめ上目遣いで台詞を始める。


「大好きだよ。ずっと、僕のことだけ見ててね」


 首をこてんと傾けとどめを刺す。なんともあざといが、これが蒼の売りである可愛らしさだ。

 コメント欄には、刹那の時よりも多くの悲鳴が上がった。そして、“蒼玉の涙”からの最高額投げ銭。

 したり顔の刹那は、蒼の肩をポンと叩いて『ほらな』とドヤ顔をキメる。湊ははにかんで、『ありがと』と素の愛らしさをチラつかせた。それも見逃さない蒼玉の涙こと煉は、またも高額の投げ銭を贈る。

 この要領で、蒼は刹那に分からないファンサを教えてもらい、その度にコメント欄が酷く盛り上がった。



「んでぇ、他は? 分かんないのあったら今のうちに聞いときな?」

「あー··えっと、あとさ、シンプルなんだけど“撃って”ってやつ。僕、ファンを撃ったりできないんだけど····。まず何で撃つの? そんな事して捕まらないの?」


 一生懸命聞く蒼に、一同シンと黙ってしまう。このままでは放送事故になりかねない。

 けれど、夕陽と顔を見合わせていた刹那が、意を決して沈黙を破る。


「ねぇ蒼、グーして」


 蒼は、言われた通り拳を作る。


「そのまま、親指と人差し指ぴーん」


「え··? こ、こう?」

「おっけ。それをカメラに向けてぇ」


 頭に疑問符を浮かべながら、蒼はひたすら指示に従う。


「語尾にハートつけてね。はい『バーン』」

「バーン♡」

「撃てたねぇ〜」

「····え?」


 夕陽と雪は、顔を背けて笑うのをこらえている。もうひとつの売りである、天然っぷりを発揮した蒼。これは蒼と言うよりも、湊としての素が出てしまっただけなのだが。

 つまり、湊はかなりの天然なのだ。メンバーは、本人が傷つくと思い伏せている。ファンもまた然り。けれど、エゴサをしない湊が知らないだけで、ファンの間では有名な基本情報だ。

 勿論、煉も知っていている。煉は、それがでなく素であることも、薄々気がついてきている。


 ポカンとしたままの湊を放置し、刹那は定型文を並べたあと『またね〜』と配信を終わらせた。



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