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王子の推しは陰キャなモサ男!?
よつば 綴
BL学園BL
2024年07月10日
公開日
68,306文字
連載中
学園で王子と呼ばれる煉と、密かにアイドル活動をしている湊。
接点などないはずの2人が、ひょんな事から急接近することに····。

毎週 火・金・日曜日 18時更新
変更などがあれば、X(@428tuduri)にてお知らせ致します。
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率直な感想、頂けると嬉しいです…


詳細
弟たちから「前髪をあげればイケメン」だなどと持て囃されるが、
学校では目立たないように前髪を下ろし成績優秀以外に目立った特技はない、苦学生の西条湊。
彼は、周囲に秘密でアイドル活動している。

4人組のアイドルグループ『サルバテラ』で『星空蒼』として活躍する湊。
個性的な3人のメンバーと共に、アイドル界のトップを目指している。

身バレを最も警戒する湊だったが、同じ学校の人気者である月宮煉に疑われるきっかけを作ってしまう。

学園の王子と呼ばれる煉だが、実は彼にも裏の顔があった。
煉はサルバテラのファンであり、推しは蒼。

ある出来事をきっかけに煉は、“蒼”に贈ったペンダントを“湊”が身に着けている事に気づく。
そこで煉は、湊に目をつけるようになり……。

※本作品はネオページ公式様より一部設定のアイデアを提供されています。

第1話 秘密の活動

 教室で、独りポツンと本を読んでいる少年、西条にしじょう みなと。彼は、常に学年トップを維持している成績優秀な生徒。それ以上でもそれ以下でもなく、特に目立った特徴はない。

 鬱蒼と下ろされた前髪に、伊達眼鏡を掛けている所為で、いつも顔がよく見えない。所謂、陰キャの部類だ。影ではガリ勉と称されている。

 165cmと小柄で、それほど声変わりもしなかった為、声を発すれば女子と間違われる事も度々。けれど、見た目がなので、可愛いなどと持て囃されることはない。


 そして、彼には誰にも明かせない秘密があった。


 それは、密かにアイドル活動をしている、身バレ厳禁な裏の顔があるという事。

 湊は、弟たちから言われた『前髪を上げたらイケメン』を信じ、活動に踏み切った。化粧などでさらに雰囲気を変え、普段とは全くの別人になる。弟たちの言葉通り、湊は中性的かつ整った顔立ちなので、イケメン揃いのグループ内でも引けを取らない。

 それに加え、活動時はキャラを作って振る舞うため、誰にも湊だと気づかれるはずがなかった。


 湊は、4人組のアイドルグループのサブリーダーを務めている。グループ名は『サルバテラ』と、聞き馴染みのない文字の羅列。ラテン語で、救世主を意味する『サルバドル』と、星を意味する『ステッラ』をもじったものだ。完全に社長の趣味である。

 デビューから間もないが、なかなかの人気を誇っている事務所の稼ぎ頭だ。けれど、三流事務所であるがゆえ、その収入の殆どは事務所に持っていかれる。


 アイドルとしての湊は『星空ほしぞら そう』と名乗っている。事務所の偉い人から与えられた名だ。有無を言わさず決まった。

 にはかなりの太客がついていて、色々な物が送られてくれる。衣服やアクセサリー、口にするもの以外なら何でも贈ってくるのだ。先日は、楽屋にどうぞと高性能な空気清浄機を送りつけてきた。

 これが、なかなかの金持ちらしいの太客である。



 今日も今日とて、ライブ後に行われるファンとの交流会で“蒼”を演じる湊。しかし、本来の湊は、アイドル時の明るい性格とは真逆。内気で積極性があまりなく、学校では影の薄さでトップクラスに入る。

 そんな湊だから、この交流会があまり得意ではなかった。けれど、全ては父親の経済負担を軽減させる為に始めた事。苦手だからと、辞めるわけにはいかないのだ。


 ロビーに溢れかえる女性ファンと、通用口付近で流れ作業のように交流をこなすメンバー。笑顔を作る蒼の前に、1人の男が立った。

 キャップを目深にかぶり、眼鏡をかけて黒いマスクをしている。背が高く、チラッと見える襟足は金色で、首元の高級そうなネックレスが目につく。首から上の不審者感とは裏腹に、その他の出で立ちはお洒落にキメている。が、どこか不良っぽさを感じさせる風貌で、明らかに周囲の雰囲気に馴染めていない。

 そんな彼が、蒼の大口である。メンバーが少しソワソワし始めた。蒼が粗相をしないか、肝を冷やしているようだ。

 女性に対して、緊張と不慣れさでぎこちない蒼ではあるが、男性に対しては、ことこの太客に対しては他とは違う態度を取る。メンバーもその理由は知らない。

 けれど、それは蒼の裏を知るメンバーのみが気づく機微で、ファンには決して悟らせない。ステージで見せる愛らしい笑顔をここでも見せ、ファンの心を鷲掴む。これが、湊のプロ根性である。


 男は蒼と握手を交わし、千円札を数枚取り出し蒼へ手渡す。『チェキ、お願いします』と上擦る声で言う男。

 蒼はそれを受け取り、満面の笑みで礼を言う。語尾にハートをつけるのはお手の物。一瞬悶える男の仕草に続き、後ろで見ていた女性ファン達からも笑みが零れる。



 全てのスケジュールを終え、楽屋へ戻るサルバテラのメンバー。いち早くソファへ座り込み、一際大きな溜め息を放つのは、湊と同学年の月船つきふね ゆき

 彼の本名は冬川ふゆかわ 尚弥なおや。物静かでクールなキャラだと思われているが、その実、気弱でコミュ障なだけ。だが、それを知らないファンからは、ミステリアスな薄月美人はくげつびじんだと定評がある。

 因みに、薄月とはファンの間での造語で『儚げな雰囲気を纏いつつ、芯がある』という意味だ。社長はちゃっかり、それを雪のキャッチコピーにしてしまった。


 疲れた様子の尚弥へ、ココアの入った紙コップを手渡したのは、サルバテラのリーダーである天谷あまたに 夕陽ゆうひ。彼の本名は天宮あまみや 綾斗あやと。湊と尚弥の1つ年上で、面倒見の良い兄の様な存在だ。

 結成からそこそこ経っても打ち解けきれない湊を、誰よりも気に掛けている。湊をサブリーダーに指名したのも彼だった。


 そんな頼れる兄貴の肩に、馴れ馴れしく肘を掛けるのがあかつき 刹那せつな。綾斗の幼馴染で同い年、本名は朝日あさひ 秋紘あきひろ

 いつも飄々としていて、軽薄な態度で社長から注意されることもしばしば。メンバー内で唯一の長髪で、デビュー当時は肩につく程度だったものが、今では胸の辺りまで伸びた。

 刹那は、配信で美容系の情報を発信している。この配信には、時々メンバーが巻き込まれて迷惑をこうむっている。


「アヤ〜、ナオばっか甘やかしてズルい〜」

「アキのも入れてあげるから待って。ほら、座ってなよ。疲れたでしょ」

「マジで? サンキュー」

「そう言えばアキ、最近ダンスの調子良いよね。今日もキレッキレだった」

「だろだろ! 分かる!? 実はめっちゃ練習頑張ってんだよね〜」


 秋紘は、思った事を何でも口にしてしまう。良くも悪くも、素直な性格だ。面倒見の良い綾斗に、誰よりも甘えているのは秋紘である。


「湊も凄く疲れてるみたい。大丈夫?」


 尚弥が湊を気遣う。誰の前でも弱音を吐かない湊を、尚弥はいつも心配そうに見ている。


「ありがとう。実は昨日試験だったんだけど、思うようにできなくて····。特待の枠から出るわけにいかないから、結果が気がかりでさ」

「そっか。特別入学··だっけ? 大変そうだね」

 尚弥は、心配そうに湊を見つめる。成績優秀な湊に、自分がしてあげられる事はないと不甲斐なさを感じているようだ。

「まぁ、ね。それで夕べ、問題解き直してたらちょっと夜更かししちゃってさ」


 湊は笑顔を絶やさず答える。それが、余計に心配を掛けているなどとは露ほども思っていない。


「湊は頑張り屋さんだからね。でも、あまり無理しちゃダメだよ」

「ありがとう、綾斗くん。成績を落とすわけにはいかないから、次に繋げないとって思って。けど、こっちに迷惑は掛けないように気をつけ──イテッ」


 秋紘が、湊の額を指で弾く。


「迷惑じゃなくて心配掛けないようにしなさいってハナシだよ。迷惑はいくらでも掛けていーの! オレらの仲じゃん?」

「秋紘くん····。うん、ありがとう」


 湊は、頬を赤らめて俯く。

 家では弟たちの面倒を見て、早くに亡くした母親の代わりを担っている湊。また、家族の為に寝る間を惜しんで働く父親に、これ以上の負担をかけまいと気丈に振る舞う一面も。学校では友人と呼べる者は1人だけ。

 そんな湊には、甘えられる環境がなかった。それ故に甘える事への慣れがなく、年上の2人からこういう接し方をされると、湊はいつも戸惑うのだった。


「勉強だったら俺も少しくらいなら教えられると思うし、もっと俺たちの事頼ってくれたら嬉しいな」


 綾斗はそう言って、湊にココアを手渡しながら笑顔を向ける。湊が少しでも心を開けるよう、こうしてゆっくりと距離を詰めていく。

 心配ばかり掛けている事を申し訳なく思っていた湊。今回は、素直に応じることにした。


「だったら····、僕、数学が苦手なんだけど、教えてもらえるかな」

「いいよ。俺、数学得意だし」

「うへー、オレ数学苦手。英語だったら教えれんのにな〜」

「あの··、ボクも試験近いし、一緒に勉強していい?」

「お、ナオが自分から来んの珍し〜。イイに決まってんでしょ! オレが直々に英語教えてあ・げ・る」

「アキくん気持ち悪い。あと、英語はできるからいい。ボクも数学教えて欲しい」


 尚弥は、秋紘にだけズケズケと物を言う。湊ですら、秋紘をスルーしがちなのだ。秋紘のあけすけな態度が、そうさせているのだろう。


「えぇ〜っ!! オレ役立たずじゃーん!」

「アキ、煩いよ。それじゃ、明日オフだし皆で俺の家においでよ。美味しいケーキ、用意して待ってるからさ」


 美味しいケーキとは、綾斗が趣味で焼く手作りのケーキのこと。よく差し入れとして持ってくるのだが、これがメンバーに大好評なのだ。

 ファンの間でも有名で、メンバーしか食べられない“幻のケーキ”と呼ばれている。それを食べられるとあって、甘い物に目がない湊はワクワクを隠せないでいた。

 メンバーしか食べられない特別なケーキを、綾斗はいつも『弟さん達にもどうぞ』と言って、湊にだけコソッと持ち帰らせてくれる。湊は、それが何よりも嬉しいのだった。



 翌日、湊は約束の時間より少し早く、綾斗の家に着いた。まだ誰も来ていない。

 インターホンを鳴らそうか迷う湊。そこへ、タイミング良く窓から顔を覗かせた綾斗が、『いらっしゃい』と湊を招き入れた。

 2人きりだと、いつも以上に緊張してしまう湊。綾斗の自室へ通され、緊張はさらに高まるのだった。


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