目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

8話 君の想いに触れたのは(14)

 俺をお姫様抱っこで抱えたクナルが慎重に船の間を渡っていく。そうして一番近い船の甲板に俺を下ろしてくれた。


 近くで見ると余計に大きい。今はあの禍々しい黒い鱗が落ちて綺麗だけれど。


『ウォ……ウゥ……』


 プカッと浮いたまま苦しそうに呻き声を上げるリヴァイアサンの口元から黒い物が入り込んでいく。すると更に苦しそうな声を上げる。

 穢れがまた入り込もうとしている。浄化したのに、それじゃ足りない?


 目を凝らして見ていると、何かがチカッと光って見える。そこを更に見ていて、俺は妙な物を見つけた。


 首元、人で言えば喉仏くらいの位置に何か刺さっている。少し大きな……黒光りする棘みたいなものだ。ただ、この巨体に刺さっているから棘に見えるだけで実物は石の杭くらいありそうだけれど。


「何か見えるか?」

「うん。あそこに、何か刺さってる。それが穢れを集めてる感じがあるんだ」


 動けないリヴァイアサンは必死に耐えている。クナルもそこを見て、確かに頷いた。


「確かに何かあるな。アレを抜けばいいのか?」

「うん。って!」

「分かった」


 言って、ふわっとクナルは船から飛び降りる。下は海で足場なんてないが……。


『アイスフィールド』


 周囲を凍らせる魔法で海面を上手く凍らせて足場を作っている。ただやはり紫釉が作った凍土ほどの強度はないのか、片道の足場という感じだ。


 それでも難なくリヴァイアサンの元へと辿り着いたクナルは躊躇いなく巨体に乗り、俺が示した場所に辿り着く。

 そうすると大きさが分かる。その杭は案外太く、長さも出ている分でクナルの腰くらいまであった。


 一度手を振り、次にそれに手を掛けたのが分かる。両手で杭を持ったクナルは思い切り抜こうとした。リヴァイアサンの体を思い切り踏みつけてだ。


『ウオォォォン!』


 痛むのか僅かに体を暴れさせる魔物に僅かに振り回されたクナルはそれでも杭にしがみついている。それをハラハラ見ている俺の隣で、紫釉がフッと息を吐いた。


『スリープ』


 僅かに紫色を帯びた風がリヴァイアサンの顔へと触れると動きがゆっくりになり、動かなくなった。

 そしてその間に燈実もリヴァイアサンへと辿り着き、クナルの隣に立つと二人で杭に手を掛け引き抜こうと力を込める。


「頑張れ!」


 思わず声が出てしまう。俺は応援しかできないけれど、どうかと願う。

 けれど次の瞬間、なんだか二人はビクッとして……え?


「おや、身体強化がかかったみたいですね」

「うわぁぁぁ!」


 明らかに腕と足の筋肉今大きくなったよね! 遠目で見て声とか聞こえな……あっ、小さく「うおぉぉぉぉ!」って聞こえる!


「マサ殿、スキルのレベルが上がったのかもしれませんね」

「俺、気軽に応援とかも出来ないのかよぉ」


 いや、今は気軽ではなく割と本気の応援だけれどさ。


 けれどそのおかげで杭は徐々に抜けていく。血が出て……でも抜けていく度になんだかリヴァイアサンの体が光って。


「「うおぉぉぉぉ!」」


 クナルと燈実の声が聞こえ、杭が抜けた。

 瞬間、リヴァイアサンの体が真っ白い光を放った。それは視界を真っ白に染める程の光量で、眩しくて目を開けていられない。


「クナル! 燈実さん!」


 二人は無事なのか! 目を半分瞑った状態で名前を呼ぶと……何故か上空から声がした。


「マサ!」

「主上!」

「もっ、重いぃぃ」

「シルヴォさん!」


 二人を抱えたシルヴォが必死になって運んでいる。細い彼が筋肉質な男二人を抱えているんじゃ重くて当然だ。


「もっ、無理!」

「うわ!」


 船の甲板の上、高さにして数メートルから落ちた二人は短い声を上げはしたがそこは武人。燈実はストンと綺麗に着地し、ネコ科のクナルは数回宙返りをして同じく着地した。


「助かった、シルヴォ!」

「感謝する、シルヴォ」

「もっ、腕抜けるかと思った」


 どさっと甲板に落ちたシルヴォは汗だくだ。

 けれどそんな彼がふと空を見上げて、オレンジ色の瞳を輝かせた。


「綺麗だ」

「え?」


 指を差す空に、キラキラ白い光が散っていく。まるで桜の花びらが風に吹かれて散るように、キラキラ、ヒラヒラと舞い上がっていく。


「リヴァイアサンの姿が変わっていくぞ」


 言われ、見ているその先でリヴァイアサンの表面からそれが剥がれ散っていく。白い鱗が剥がれて、その下から現れたのは白銀に光る堂々たる鱗。白い角のようだった頭部は翡翠のたてがみが現れ、長く白い髭が棚引き、ツルンとしていた胴からは五爪の手が生えてくる。


「龍神だ」


 俺がよく知る龍神の姿そのものだ。西洋のドラゴンじゃなく、東洋の龍。それが今、目の前にいる。


「龍神……我等が神が」


 紫釉は隣で口元に手をやり、涙を流して拝礼する。その隣では燈実もまた同じように膝をついて礼をしていた。


 やがて古い鱗を脱ぎ捨てた龍神が体を起こし、辺りを見回した。もうそこには荒々しい様子はなく、厳かで知的な様子がある。


『世話をかけた、女神の使徒よ』

「え?」


 声が聞こえる。けれどこれは俺だけに聞こえるものではなく、皆に聞こえている。それを証拠にクナルまで驚いた顔をした。


『訳あって呪いを受けた我を解放してくれたこと、感謝する』

「あの」

『そして海の者、そして地上の者にも迷惑をかけた。この詫びはいずれ、お前達に返そう』


 そう言うと龍神は空へと登り、遠く海へと入っていく。それを、俺達は呆然と見ていたのだが……。


「おい、あれ!」


 声がして、驚いてそちらを見た俺達はワッと声を上げた。

 シャボン玉みたいなものに包まれて甲板に戻ってきたのは、海に投げ出された人々だった。しかもまだ皆生きている。

 船員達は集まって戻ってきた仲間に抱きつき無事を喜び、戻った側も事を理解して泣いている。

 そんな光景を見つめて、俺とクナルは笑ってお互いグータッチをした。


この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?