ひとまずこの件は夫人の捕縛と幽閉、これに加担していた悪徳な商人と貴族の捕縛と聴取までとし、俺達は目の前に迫ったリヴァイアサン討伐作戦について話し合う事となった。
「予定通り、我々海王国軍でリヴァイアサンを予定の場所へと追い立てるつもりです」
海図を広げ、×印のついた場所を指差した紫釉が伝える。だが、そんなに簡単ではないだろうに。
「大丈夫なんですか?」
「まぁ、どうにかします。逆鱗の場所が特定できて、それを先に攻撃できれば良かったのですが今は警戒されて難しいのです。それならばこの方法が良いかと思っております。幸い其方のおかげで我の体調は万全です。今まで以上に調子が良いので、奴を追い立てる程度の事は致しましょう」
それでも危険だ。一度目にしているだけに不安に思っていると、燈実の方から声がかかった。
「犠牲のない戦いはないだろうが、兵はそれも覚悟のうえだ。それよりも未来に繋げて行く事を選んで従軍しているのだ」
「えぇ。それに、海王国襲撃後に逃げたリヴァイアサンはその後、更に動きが読めなくなったと報告が入っております。また突撃されては流石に結界の維持が困難です」
前回も壊され、女神の力も借りて結界を張り直したのだ。これがまたとなれば流石に厳しいというのも頷ける。
「んで、海上へと押し上げた奴を俺達が船から叩くんだったな。具体的には?」
「これです」
アントニーがテーブルの上に玉を置いた。
そこそこの大きさがあるそれは大砲の弾に見える。
「これは魔術科が開発してくれた大型の魔物への武器でしてな。これには雷魔法が内包されているのですよ」
「ほぉ」
クナルがニヤリと笑い、俺はマジマジとそれを見る。見た目は大砲の弾なのに。
「これを船に搭載している大砲で飛ばし、リヴァイアサンに命中すると魔法が発動するシステムになっているそうです」
「不発で海中に落下した場合はどうなりますか?」
「海中で発動してしまうそうです。その辺りの改良がまだなので今もまだ試作品なのですが、今回は事が事だけに試験的にと提供してくださいました」
それは、不発弾が海の中で爆発して、魔法が海の中でってこと!
紫釉を見ると難しい顔はしていたが、やがて頷いた。
「分かりました。作戦に参加する者には通達し、補助の結界魔法具を持たせましょう」
「すみませんな」
「このような大型の魔物が相手でなければ出す事の無かったものでしょう。多少の不安はあってもやらねばなりません」
そんなにこれが大事なのか……。
「あの、皆さん魔法は得意なように思うんですが、それでは倒せないんですか?」
クナルの魔法はかなり強力だし、紫釉も魔法は得意そうだ。
けれど両名が真っ先に難しい顔をしてしまった。
「多分、かなり無茶だな」
「そうですね」
「どうして」
「属性的に無理だ。俺達は水や氷の魔法を得意としているが、同時に火と雷は上手く使えない」
「得意属性の対局にあるものはどうしても不得手ですし、そもそも苦手属性は使えない事が多いのです。我もクナル殿も水とは親和なので海上というフィールドは有り難いのですが、相手は海の魔物。水や氷の属性に耐性があるでしょうし、そうなると削りきれないのです」
「水属性の魔物が嫌うのは火や雷なんだよ。現状、魔法の強い両名にこの属性での強力な攻撃は不可能なんだ。だからこその秘策がこの弾ってわけ」
クナルと紫釉、更にはシルヴォにまで説明されて俺は頷いた。やっぱり魔法は不勉強だ。
「船には遠距離魔法を使える者も同行させますが、それでも足りませんからな」
「後は物理で殴るが、あの巨体だからな。水の中の方が届いたな」
「あの魔物にあれだけの物理攻撃を加えられる者もそうはおりませんよ。クナル殿は本当にお強い」
呆れた様子の紫釉だが、今は頼もしい限りだ。
「十分に弱らせた所で、マサ殿に浄化をお願いしたいのです。一番重要な所をお任せしてしまって申し訳ありません」
「あぁ、いえ! 俺はこの為に来たので、寧ろ頑張ります」
そうだ、俺の出番も今回はあるんだ。
正直、ベヒーモスの時のような無茶は駄目だって女神にも言われている。どうやら命を削るようなやり方らしい。俺もそれは多用できないなって思っている。
今回は皆が十分に弱らせた所を浄化するから、前よりは負担も減ると期待している。それに女神から魔法のコツも聞いた。
イメージが大事。イメトレしておこう。
「では、具体的な日時は?」
「船は集め、既に船体への強化や結界魔法の付与を行っている最中です。こちらが終わるのが、明後日かと」
「リヴァイアサンは既に発見してはおりますが、追い立てるには少し時間がかかる。目標地点に追い込むには三日ほど貰いたい」
「では決行は三日後の朝。俺達は船で目標地点近くに」
「我等は海中からリヴァイアサンを追い立てます」
全員が睨む海図。俺は初めての本格的な魔物討伐に不安と興奮を抱いた。
紫釉達が帰ってから、俺も少しはできないかと港へ向かい、乗り込む船などを見てそれに触れてきた。そしてこっそりと『守ってください』と願いをかけてきた。これがどれだけの力になるかは分からないが、やらないよりはいい。
それと一緒に船を透明な膜が覆うイメージをしてきた。海王国の結界みたいな感じだ。