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4-12 魔力測定(12)

 昼食も落ち着いて洗い物もそこそこに、俺はデレクに呼ばれて執務室に来た。そういえば朝からいなかったのだ。


「失礼します」


 声を掛けて入るとデレクの他にもう一人、初めましての人がいる。けれど……なんというか、これまで会った人の中で一番俺と近い感じがする!

 全体的に白い人だった。肌の色は少し心配になる白さで、髪も真っ白のショート。目の色は対照的に赤くて、まるでルビーみたいだった。

 でも俺とは違う。何故ならその人の目の下や首元には白い鱗のような模様が浮き出していたから。


「おう、きたな。まずは掛けてくれ」


 言われるがままソファーに座る。クナルはその後ろに立った。

 今は俺の真正面に白い人がいる状況だ。その人が俺をジッと見て、次には頭を下げた。


「初めまして、トモマサ殿。私、王宮魔術科から派遣されましたユリシーズと申します。本日はトモマサ殿の魔力測定とスキル鑑定を担当いたします。宜しくお願いします」

「あっ、はい。宜しくお願いします」


 思わずぺこりと頭を下げるが、目の前の人は淡々と何やら用意している。出されたのは大きな水晶玉と、それに繋がっている石版みたいなもの。なんか、タブレットと付属の何かに見えてくるから困る。


「まずは魔力の測定をいたします。これは魔力量を量るもので、色で判別します」

「色?」


 俺の問いにユリシーズはただ頷いた。


「一般平均では緑です。それよりも一定数値低ければ青。逆に一定の範囲で高ければ赤、続いて紫、銀、金となります。伝説級の聖女や勇者の中には、稀に虹色という方もいました」

「虹色?」

「女神に等しい魔力量があるという事です」


 そんな凄い人がいるのか。

 でもこれに関してはあまり心配していない。何故なら魔石が使えたから。最低でも青はあるはずだ。


「ちなみに聖女様は金色でした」

「星那は出来る子ですよ」


 そっか、凄いんだな星那は。昔から勉強とかもこっそり努力してるし、器用で頑張り屋だからな。

 なんてほこほこ思いながら何気なく水晶玉に手を置いた。その瞬間、まるで魔道具屋で見た虹色結晶のランプみたいな光が水晶玉から溢れ出て、眩しくて目が痛くなる程に光った。流石に不意打ちでデレクもクナルも、そしてユリシーズでさえも驚いて顔を背けている。その中で俺だけが何が起こったか分からずに呆然としていた。


「虹色、です」

「え?」

「虹色の魔力色です! トモマサ殿は伝説級の聖女様と同じ多量の魔力を秘めております!」

「……えぇぇ!」


 今日二度目の絶叫は、案外早い段階で訪れた。

 それにしても虹色……そんなに?

 俺はちょっとドキドキしている。そんなに沢山魔力があるなら色々出来るかもしれない。攻撃は……なんか、想像出来ないけれど。でも治療とか、それこそ浄化とかなら。俺でも誰かの助けになれるかもしれない。

 そんな期待をしていると今度は石版に文字が浮き上がった。


瘴気浄化

鑑定眼

生活魔法

『祈り』


「……え?」

「え?」


 これを見たユリシーズが今度は明らかにオロオロしている。最初の淡々としたクールなイメージなど微塵もない慌てようだ。


「これは、どういうことでしょう?」

「あの、なにか……」

「これだけの高い魔力がありながら、魔法スキルがほぼないんです」

「……え?」


 それって……。

 デレクも困惑した様子だし、クナルも難しい顔をしている。一方俺はこれがどういう事なのか分からなくてオロオロする。


「それって、どういう事ですか?」

「あぁ、はい。瘴気浄化というスキルはあるのですが、これだけを持っていても駄目と申しますか。通常であれば『浄化魔法』や『聖魔法』『伏魔』などのスキルを併せ持っているものなのです。浄化の力を魔法や武器に付与することで放出し、瘴気を払うのが通常なのですが……トモマサ殿の場合、魔法特性は生活魔法……しかも下級しかなくて」

「えっと……」


 それは、宝の持ち腐れ的な? 俺って素材良くてもそれを活かせない残念な奴だとか!


「あ……と、ごめんなさい」


 思わず謝ってしまった。


「だがよ、俺達は昨日確かにそいつが魔法みたいなものを使ったのを見たんだぜ?」

「あぁ、おかげで俺は助かった。神殿の浄化だってこんなに早く瘴気の浄化はできないってレベルの浄化と回復だった。あれは魔法じゃないのか?」


 デレクとクナルが問いかける。そういえば俺も昨日、何か光るのを見た。

 ユリシーズは考え、ポンと最後に出てきたスキルを指差した。


「これの可能性がありますね」

「祈り?」


 それは明らかに他とは違う感じのスキルだった。

 他のスキルにはある程度の説明がついているのに、そこだけは何もない。ただ『祈り』としかないのだ。


「このような固有スキルは過去に見た事がありません。まったく未知のスキルです」

「見た事がないって」

「スキルというものが発現し始めた時代からです。過去一度でも発現しているものでしたらスキル図鑑にあるはずです。今回は聖女召喚に関わった異世界の方の鑑定でしたので、珍しいスキルもあるかと稀少スキルも確認してきたのですが」

「無かったのか?」

「ありません。効果も発動条件も何もないなんて、明らかに異質です」


 でも、昨日のあれはこれの可能性が高い? あの時俺、何を思っていた?

 確かクナルが怪我をしてぐったりしていて、その原因が瘴気で最悪死ぬって言われて……。

 彼を助けて欲しいと、願った。


 ドキッと心臓が鳴る。嫌な感じに。願った事が叶う力がこの『祈り』なら、とんでもない力だ。俺自身何が起こるか分からない。しかも魔力が高いなら……何でも、俺が祈れば叶ってしまうのか?

 ドキドキする。知られたらまずいんじゃないか。怖くなっているとポンと手が肩に乗る。見るとクナルが真剣な顔で頷いた。

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