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3-11 羊先生と野菜(11)

 風呂も終わって服を着たけれど、本当にサイズがぴったりで驚いた。丈もウエストも大丈夫。


「本当に凄いんだね、魔法って」


 着てみた服に妙な所がないか見ている。そんな俺を見ていたクナルが突然「ん!」と声を上げて俺の肩を捕まえた。


「マサ、そのズボン駄目だった!」

「え? どこが? ぴったり……」

「あ……尻の所に尻尾穴が開いてる」

「……あ!」


 なるほど! あるね、穴!

 獣人達は大抵尻尾があって、お尻の穴からそれらを通している。でも俺は尻尾がないから当然ここに収まるものはなくて、そこからパンツがまる見えなわけだ!

 途端、もの凄く恥ずかしくなってきた。ズボンのファスナー閉め忘れた時くらい恥ずかしい。


「明日買い物行こう。鳥人用のズボンなら穴ないから」

「うん。でも今日はどうしよう。後は寝るだけだから……って、明日もこれ着ないと駄目か」


 今日の服はまだ洗っていない。流石にこんな時間から洗濯というのは迷惑すぎる。


「穴だけ塞げれば……針と糸があれば」

「針と糸? それなら先生の所に行けばあるはずだな」

「リデルさん?」


 なんでもリデルは手先も器用で破れた服の修繕なんかもしてくれるとか。

 結局少しの間後ろを気にしつつ、診察室を訪ねる事になったのである。

 こんな時間に診察室を訪ねる時は急患が多い。何事かと出てきたリデルに事情を話すと彼はケタケタ笑って快く招き入れてくれた。


「おや、トモマサさんは手先も器用なのですね」


 借りた針と糸でチクチクとお尻の穴を縫い合わせている。その手元を見て、お茶を淹れてくれたリデルが感心したように言った。


「妹の服とかもちょっと直したり、何より自分の服を直したりしていたので」

「これは、治療時の助手もお願いできるかもしれません」

「助手?」

「大きな仕事だと治療が大変なのです。裂けた体を縫ったりとか」

「俺手伝えませんよ!」


 多分そんなの見たら倒れる。魚は捌けるけれど、何か違うし。


「先生、虐めてやんなよ。マサはそういうの無理だろ」

「お優しいのですよね、トモマサさんは」

「もぉ、からかわないでください」


 面白げなリデルと困った様子のクナル。その間にも手を動かして、穴は綺麗に閉じられた。


「よし、出来た」

「本当に綺麗ですね。手術の手伝いは冗談ですが、破けた服の修繕についてはお願いしたいです」

「そちらでしたらいくらでも」


 ようやく安心してズボンも履けた。二人に確認してもらったけれど大丈夫そうだ。

 淹れてくれた香りのいいお茶を飲んで、ほっと一息ついて。落ち着いて見回したそこには頼もしい人達の笑顔があって。

 うん、俺はここで頑張ってみる。帰れるかどうかとか、俺の今後とかまだ見通しはたっていないけれど。でも今目の前にいる人達が笑ってくれるならここで生きていこう。


 静かな夜に虫の声。ゆったり優しい時間を感じて、俺は改めてそう思うのだった。

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