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第13話

石田君の手術の翌日、颯太は朝早くに病院に来ていた。昨夜は病院に泊まるつもりだったが、木村先生から


「今夜は僕は夜勤だから大丈夫だよ。家に帰ってしっかり休んで」


と言われ、帰宅したもののほとんど眠れず朝を迎え、いつもよりも1時間も前に自宅を出て病院に来てしまった。もちろんランニングで来たが、スピードが早かったのか息が上がっていた。

颯太は白衣に着替える間もなく、まっすぐに石田君の病室へ向かった。病室のドアをそっと開けると、石田君は静かに眠っていた。その隣には、やはり眠れなかったのか、母親が心配そうに座っていた。颯太が部屋に入ると、石田君の母親は彼に気づき、安心したような表情で頭を下げた。


「先生、おはようございます。随分早いんですね。悠斗、よく眠ってます」


「おはようございます。お母さんもお疲れさまでした。少し、休めましたか?」


母親は微笑んで首を振った。


「いえ、ほとんど眠れませんでしたが…でも先生が来てくださって安心しました」


颯太は軽く頷き、石田君のモニターを確認した。心電図の波形は安定しており、不整脈の兆候は見られなかった。その結果に、颯太は胸を撫で下ろした。


「今のところ不整脈はないようです。ホッとしました」


その言葉に、母親はほっとした表情で微笑んだ。


「ありがとうございます、本当にありがとうございます」


その時、病室のドアが再び開き、木村先生が入ってきた。颯太が病室にいることに気づき、驚いた表情を浮かべた。


「おや、神崎君。こんなに早くから来ていたのか。昨夜はちゃんと休めたかい?」


木村先生は笑いながら言った。颯太は少し照れたように微笑んで答えた。


「はい、ちゃんと家に帰ったんですが、どうしても気になって早く来てしまいました」


木村先生は微笑みながら肩を軽く叩いた。


「まあ、神崎君の気持ちはわかるよ。でも、自分の体も大事にしなきゃいけないよ。休む時はちゃんと休まないと。寝不足で判断を誤ってはいけないからね」


「はい、気をつけます」


颯太は深く頷いた。木村先生は颯太の反応を見て微笑むと、石田君のモニターを確認し、安定していることに満足そうに頷いた。


「不整脈もなく、順調に回復しているようだな。ひとまず安心だ」


石田君の母親も再び頭を下げ、感謝の言葉を述べた。


「本当にありがとうございます。先生方のおかげです」


「そんな…石田君が頑張ったからです…。何か気になることがあればいつでも教えてください」


颯太はそう言い、再び石田君の手をそっと握った。彼の心の中には、患者とその家族を守るための強い決意が改めて芽生えていた。

木村先生は一足先に医局に戻ると言って、出ていき、颯太はしばらく石田君の手を握っていた。


「安定しているようだな」


その時、颯太の耳元で真田先生の声がした。振り返らずに、颯太は頷く。

石田君の母親がいるので、返事ができなかった。真田先生の姿は見えないはずなので、怪しく思われてしまうだろう。


「まだ、安心とまではいかない。数日は注意して観察するんだぞ」


石田君の手をそっと布団の中に戻し、母親へ挨拶をしてから部屋をあとにして、医局へ戻る。


「真田先生、おはようございます。悠斗君のこと、ずっと見守ってくれてたんですね」


颯太が部屋に入った時から、真田先生が奥にいるのに気が付いていた。きっと、一晩中ここにいたのだろう。


「ああ、弟子の尻ぬぐいは師匠のつとめだからな!」


ハハハ、と大声で笑う真田先生に、颯太はふっと笑顔になり、「ありがとうございます」と返した。

病室を後にしながら、颯太は石田君の安定した様子に安堵のためいきをついた。真田先生や木村先生、そして石田君の家族の支えがあることが颯太をひとつ成長させてくれている。


これからも多くの患者が颯太の助けを必要とするだろう。彼はその一人一人に全力で向き合い、最善の治療を提供する決意を新たにした。石田君のように、命を救い、未来を切り開くために、颯太は日々の努力を続けるつもりだ。


しかし、颯太はまだ気づいていなかった。彼がこれから直面する数々の患者の治療だけでなく、鷹野先生と黒沢先生の陰が彼の周囲に迫っていることを。


颯太はこれから待ち受ける数々の試練と、過去の影にどう立ち向かうのか。その運命はまだ誰にもわからない。だが、彼の決意と情熱がその道を切り開く鍵となるだろう。

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