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第12話

そして、午後になり、いよいよ石田君の手術の時間となった。


準備を整えるために手術室へ向かう。石田君もベッドごと手術室へ移動され、彼の両親は祈るように見送っていた。

手術室に入ると、いつもの緊張感が漂っている。颯太は深呼吸をして、心を落ち着かせた。手術台に横たわる石田君を見つめる。


「悠斗君、これから手術を始めます。大丈夫だからね、しっかり眠って、起きたら元気になってるよ」


石田君は微かに微笑みながら頷き、ゆっくりと目を閉じた。麻酔が効いていく中、彼は安心した様子で眠りに落ちた。


「よろしくお願いします」


颯太が声をかけ、スタッフたちは一斉に頷いた。手術が始まる準備が整い、向かいには木村先生がスタンバイをした。もちろん、すぐ横には真田先生が控えている。


「始めます」


颯太の一声で、ペースメーカー埋め込み術が開始された。緊張感が漂う中、颯太は冷静に手術を進めていった。

予定通りの手順で手術がすすめられていく。

ペースメーカーリードを鎖骨下静脈から寝室、心房に挿入し留置する。そして、しっかりと伝達するかの確認をしたあとにペースメーカー本体に接続する。動作確認をしたあとに固定し、皮下と皮膚の縫合をする。


颯太の動きを見ていた木村先生は、驚いていた。


数日前に石田君の手術をしたときよりも確実に手順がスムーズで、さらに縫合もスピードや正確さが増している。


(神崎君…努力しているんだね)


木村先生は、颯太の横顔を見つめた。


数時間が経過し、ついにペースメーカーの埋め込みが完了した。手術室内に安堵の息が漏れ、颯太も深い息をついた。木村先生だけではなく、看護師や麻酔科医たちも、颯太の技術の向上に気が付いたのか、どこか驚いた表情をしている。


「縫合完了しました」


颯太の声に、スタッフたちは一斉に頷き、ほっとした表情を浮かべた。

向かいに立ってサポートしていた木村先生も、安心したようにほほえみ、頷いた。


「神崎君、手順がとてもスムーズになりましたね。自主トレ頑張ってる成果かな?」


「えっ…木村先生…知ってたんですか…?」


「ああ、この間当直の時に一人でトレーニング室にいるのを見たんだ。よく頑張ってるね」


「…ありがとうございます…まだまだです。これからも頑張ります」


颯太は浮かんできた涙を隠すように深く頭を下げ、手術室をあとにした。

手袋を外し、手術室の外で待つ石田君の両親に結果を報告するために向かった。


「手術は予定通り終わりました。悠斗君の状態も安定しています。これから経過を見て、リハビリをしながら、元気に過ごせるようにサポートしていきます」


石田君の両親は涙を流しながら感謝の言葉を述べ、颯太もその言葉に胸がいっぱいになった。


「本当にありがとうございます、先生。悠斗を助けてくださって…」


「まだ予断は許せません。これからも一緒に頑張りましょう。私たちが全力でサポートします」


その言葉に、石田君の両親は深く感謝の意を示し、何度も頭を下げた。颯太は心の中で安堵の息をついた。

手術が無事に終わり、颯太はカンファレンスルームで手術記録を確認しながら書き進めていた。真田先生も同席しており、二人で手術の詳細を振り返っていた。


「颯太、手術は見事だったよ。君の努力が実を結んだな」


真田先生は微笑みながら言った。その言葉に、颯太は少し照れたように微笑み返した。


「ありがとうございます、真田先生。でも、まだまだ改善点があります。今日はそのことについてもご指導いただきたくて」


真田先生は頷き、手術記録に目を通しながら具体的なアドバイスを始めた。


「まず、縫合の部分だが、全体的には良かったが、細かい部分で少し不安定な箇所があった。特にここだ」


真田先生は記録の一部を指し示しながら説明した。颯太はその指摘を真剣に受け止め、メモを取りながら改善点を確認した。


「次に、この部分の接続についてだが、君の手技は非常に安定していた。しかし、時間がかかりすぎた部分がある。もう少し効率的に進める方法を考える必要があるな」


真田先生のアドバイスに、颯太は深く頷いた。手術中の緊張感が再び蘇り、改めて自分の技術を見直す必要性を感じた。


「先生、ご指導ありがとうございます。もっと練習して、次回はさらにスムーズに進められるようにします」


真田先生は満足そうに微笑んだ


「君は本当に良くやっている。これからもその姿勢を忘れるな。石田君も君のおかげで命を救われたんだぞ」


颯太は感謝の気持ちを込めて頭を下げた。真田先生のアドバイスを胸に、さらに技術を磨き、患者の命を守るために全力を尽くしたいと思っている。

カンファレンスルームの静けさの中、颯太は自分の未来に向けて一歩一歩進んでいく決意を固めた。彼の心の中には、石田君の笑顔と家族の感謝の言葉が力強い支えとなっていた。

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