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第8話

「悠斗君、お母さん、お父さん、今日は大切なお話があります。…悠斗君は手術後から不整脈が続いています。これは、手術をした箇所が心臓に指令を送る重要な場所だったため、その影響だと考えられます。不整脈が続くと、血栓など重篤な事態に発展する可能性があります。そのため、今後の治療についてご相談したいと思います」


颯太は優しく言いながら、カルテを開き、説明を始めた。


「心臓の補助をする機械…これなんだけど」


颯太はポケットからペースメーカーのサンプルを取り出した。


「これはペースメーカーという機械。心臓の動きを補助してくれる役割があるんだ」


石田君は驚いた表情を見せ、不安でいっぱいの瞳で颯太を見つめた。


「ペースメーカーって、なに?」


颯太は石田君にサンプルのペースメーカーを渡しながら話した。


「ペースメーカーはこんなに小さな装置だけど、心臓のリズムを調整するために使用するんだ。心拍数を監視してくれて、必要に応じて電気刺激を送ることで、不整脈を防ぐことができる。この装置を使えば、心房細動などの命に係わる不整脈のリスクを大幅に減らすことができるんだよ」


石田君は少し戸惑った様子だったが、颯太の説明を理解しようと一生懸命に聞いていた。


「ペースメーカーをつけたら、運動はできないんじゃないの?」


颯太は石田君の小さな手を握り、話した。


「ペースメーカーを装着しても、適切なリハビリを行えば運動は可能なんだ。悠斗君が元気に走ったり遊んだりできるように、僕だけじゃなくて、看護師さんやリハビリの先生にも協力してもらおう」


石田君は安心したような表情を浮かべ、少し微笑んだ。


「わかりました。僕、がんばります」


石田君の母親は涙を浮かべながらも、しっかりとした声で言った。


「悠斗が生きていれば、私たちはそれ以上のことは望みません。先生、どうか悠斗を助けてください」


父親も静かに頷き、目に涙を浮かべていた。


「先生、よろしくお願いします」


「ありがとうございます。悠斗君の命を守るために、最善の治療を行います。どうか信じてください」


石田君の家族は感謝の気持ちを込めて頷き、颯太の言葉に耳を傾けた。石田君も、その瞳に希望を宿して、しっかりとした声で言った。


「僕、先生を信じてます。がんばります」


颯太はその言葉に力を得て、石田君とその家族を守る決意を一層強めた。


「悠斗君、これから検査をしよう」


颯太は院内検査部へ検査の依頼を出し、検査室の準備が整うと、石田君を車椅子に乗せて移動した。


検査室では、石田君の心電図、血液検査、エコーなどの詳細な検査が行われた。颯太は石田君の手を握りしめ、安心させるように微笑んだ。石田君は起き上がるのもしんどいのか、車椅子の上でぐったりとしている。


「大丈夫、すぐに終わるからね。リラックス。さぁ深呼吸をしてみて」


石田君は頷き、ひとつ深呼吸をすると、落ち着いた様子で検査を受けることができた。

全ての検査が終わると、石田君を病室へ送り、颯太は医局の横のカンファレンスルームへと急いだ。


カンファレンスルームでは、真田先生がすでに待っていた。颯太はパソコンを開き、石田君の電子カルテと検査結果を表示した。


「真田先生、これが悠斗君の最新の検査結果です。心電図には依然として不整脈が確認され、血液検査では若干の異常が見られました。血液の流れは悪くなさそうなのですが…」


真田先生は真剣な表情で結果を見つめ、深く考え込んだ。


「ああ、予想通りだな。不整脈は思ったより深刻だ。ペースメーカーが適応になるだろう。現在の不整脈の状態を見ると、早急に対応しなければならない。刻一刻と石田君の酸素循環も悪化していくだろう」


颯太は頷きながら、さらに詳細な説明を続けた。


「はい…。悠斗君の状況を考慮すると、ペースメーカーの導入が最善の選択だと、僕も思います。それに…悠斗君が術後、起き上がれないほどの倦怠感を訴える時間が長いようです。術前に楽しみにしていた食事もあまりとれてません」


真田先生は深く息をつき、しっかりとした声で言った。


「ああ。事態は思っているよりも深刻だ。石田君の命を守ることが、何よりも優先だからな。彼が再び元気に走り回れる日が来るよう、最善の治療を行おう。お前の使命だ」


颯太は力強く頷いた。

そんな颯太の表情を見て、真田先生は満足そうに微笑んだ。


「その意気だ、颯太。石田君の心室中隔欠損の手術をする前はあんなに不安そうにしていたとは思えないな?」


真田先生がいたずらそうに笑うと、颯太は顔を赤らめて誤魔化す様に、パソコンの画面を見つめた。


「今でも不安でたまらないですよ…。僕が執刀しなかったら、ペースメーカー入れずにすんだんじゃないかって思ってます…。でも、今石田君の担当は僕だから。僕が動かないとって」


颯太は照れ隠しのように言いながら、パソコンに視線を戻した。しかし、その中に以前とは違う決意が込められていることは、真田先生には伝わっていた。


「さて、そろそろカンファレンスの時間だな。準備はできているか?」


真田先生は微笑みながら言った。颯太は深呼吸をして、資料を手に取った。


「はい、準備はできています」


颯太は資料を持って医局のカンファレンスルームへ向かった。

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