歩いていると時折「おお、
(晧月さん、やっぱりだいぶ顔広いな)
そんな風に思っているなか、ふと手のぬくもりに意識がいく。自分よりずっと大きく、骨ばっている手。自分とは別のぬくもり。なぜか安心感がある。それはぬくもりのためか、それとも手を繋いでいる相手が
(浩然さんも私の温度で安心してたりするのかな? そういえば晧月さんの手でも安心するのか?)
しかし今の晧月は、歩けば誰かに声をかけられている。試すのは宿に着いてからでもいいかもしれない。
しばらく歩き続けていると、【飴屋】と書かれた看板の店に着いた。店の前の屋台にはサンザシ飴が並んでいる。
「
「ここがですか。どんな人か楽しみです」
「おーい、おやっさーん。いるかー?」
晧月が声をかけながら店内に入ると、奥から無精ひげを生やした50代くらいの男性が現れた。
「おーっ、晧月じゃねえか。久しぶりだな、元気にしてたか?」
「まあ、なんとか。ちょっと今日はあいさつにな」
「あいさつだあ? なんだ、引っ越すのか?」
「うーん、おやっさんには、ちゃんと話すけどよ」
晧月は劫のことを伏せながら、命を落とす可能性があることを話した。すると飴屋の店主は目を丸くしている。
「死ぬかもだなんて、お前よお……。そんなこと言うもんじゃねえ。おれよりずっと若いじゃねえか。よし、おれが代わりに行ってやらあ」
「いやいやいや、俺じゃねえといけないんだ。それにおやっさんが死んじまったら、おかみさんや、ここの飴で食いつないでるガキたちはどうするんだよ」
なるほど、話に聞いていた以上に人がいいようだ。飴屋の店主は「でもよお」と不服そうである。
「大丈夫だって。また必ず来るからよ。それで、おやっさん。俺の友達も連れてきたんだ。こっちが林杏で、こっちはえっと、浩然」
「おい、すっと言え、すっと」
「いやあ、お前の名前呼ぶなんて、ほぼ初めてでよお。むずがゆいぜ」
たしかに晧月と浩然が名前で呼び合うことは、ほとんどない。
「ははあ、晧月にも友達かあ。こいつはめでたいっ。お二人さん、飴は好きかい?」
「はい。好きです」
「嫌いではありません」
林杏と浩然の返事を聞いた店主は外の屋台から、サンザシ飴を2本持ってきた。
「ほれ、よかったら食べてくれ」
「わあ、ありがとうございますっ」
「ありがとうございます」
林杏と浩然は繋いでいた手を自然とほどき、サンザシ飴を食べ始めた。
「んー、おいしいっ」
表面を覆っている飴の甘さに、口角が自然と上がる。
「それはよかった。それにしてもお嬢ちゃん、うまそうに食べるなあ」
「だろ? だからついつい、分けたくなっちまうんだよな」
晧月と店主はそう言うが、林杏からすれば普通に食べているだけである。
「浩然さん、私の食べ方ってどう思います? やっぱり晧月さんと同じ意見ですか?」
林杏は浩然を見る。すると浩然は少し視線をあちこちに動かしたあと、言った。
「まずそうにするより、よほどいいだろ。オレはそのほうが、その……いいと思う」
「おい、犬野郎お、今のは男を見せるところだっただろお?」
「おいおい、恋人同士なのに、なに照れてんだ」
「いや、おやっさん実はな……」
晧月は店主に耳打ちをした。すると店主の表情が変わる。
「なるほど、それなら晧月の言うとおりだ。兄ちゃん、男見せなっ」
林杏は2人がなにを言っているかはわかるが、なぜ浩然が男を見せろと言われているのかは、わからなかった。
(というか、今の流れでどう男を見せろというんだろう)
浩然が気の毒である。
晧月はなにかを思い出したように短く声を上げると、店主に尋ねた。
「このあと
「ああ、あるある。あいつ、また熱中してるのか、飴をとりに来てなくてなあ。持っていってやってくれ。それにおまえが顔を見せなくて、寂しがってるみたいだから、ちょっと話もしてやんな。用意だけするから、待ってくれ」
「おう。あ、俺も飴もらっていいか?」
「ああ、食ってけ食ってけ」
晧月に真っ赤なサンザシ飴を1本渡すと、手際よく何本ものサンザシ飴をまとめはじめた。
「やっぱりおやっさんの飴は、
「ははは、そう言ってもらえると嬉しいもんだなあ」
晧月は楽しそうに店主と話している。やはり友人が楽しそうだと、こちらも嬉しいものだ。
「よし、じゃあ悪いが芸に渡してやってくれ。それから熱中するのもほどほどにしとけって言ってやれな。おれの言葉なんざ聞きゃあしねえ」
店主からサンザシ飴の束を預かりながら、晧月は「おう」と返事をして、こちらを向く。
「じゃあ、次のとこ行こうぜ。林杏、次は鳥ばっか描いてるやつのとこ行くぜ」
「はい、わかりました」
林杏たちは店主に別れを告げ、次の場所に向かった。
(まさか本当に見られる日が来るなんて思ってなかった。墨で描いてるって言ってたし、楽しみ)
ふと故郷にいる鳥好きの友人、
(もしも2人が出会ったら話が合ったりするものなのかな?)
友人に新しい友ができるかもしれない、という想像をするだけで楽しかった。