「劫の受験は今日から2ヶ月後。こちらが指定した順番で受けてもらいます。この2カ月のあいだに、身辺整理や挨拶回りをしておくように」
身辺整理や挨拶回り。つまり劫による死を予想しておけ、ということ。林杏は拳を固くする。
(今度こそ、絶対に劫に受かってやる)
自分のためにも、
天佑が「それでは」と言って、立ち去った。
「ついにだな、林杏」
「でもきっと、きちんと対策を立てていないと、また失敗してしまいます。なんとかしないと」
「お、じゃあ残り1ヶ月くらいのときに、対策考えようぜ。おい、犬野郎も一緒にやるだろ?」
晧月は隣にいる
「まあ、対策を立てるのは大事だ。虎野郎と一緒なのは癪だが」
「お、お? つまり林杏がいればいいってことだな?」
「……うるさいっ」
晧月は腕を浩然の肩に回し、ニヤニヤと笑っている。本当に仲がよくなってよかった。
そのとき、朝食を知らせる鐘が鳴った。
「おっと、なんやかんやする前に朝飯だな。行こうぜ」
「そうですね。お腹が空いていたら、なにもできませんから」
空腹ほどつらいものはない。それは今世の試験で痛感した。
「部屋の茶葉をどうするか……。捨てるのは忍びない」
「めっちゃあるもんな」
「そんなにですか?」
林杏たちは雑談をしながら、食堂へ向かった。
天佑から劫のことを告げられた日、林杏は部屋の片づけを行なった。といっても、それほどたくさんの荷物を持ってきたわけではないので、時間はかからなかった。
翌日、起きて身支度を整えていると、林杏はあることに気がついた。
(あ、しまった。浩然さんからもらった髪飾り、どうしようかな。間際まではつけてていいけど。……そうだ、
荷花ならどんなときでも食堂でテキパキと働いているだろう。劫の直前に頼んでみてもいいかもしれない。
そんな風に考えていると、扉が3度叩かれた。誰だろうか。
「はあい、出ますー」
扉を開けると、晧月が立っていた。
「あら、おはようございます」
「おはよう、林杏。実は、ちょっと提案があってな」
「案、ですか?」
「おう。一緒に
大都市、輝州。
ふと、以前に晧月が話してくれた、飴屋の店主と鳥の絵を描く女性を思い出す。
「前に話してくれた、飴屋さんと絵描きさんにも会えますか?」
「おう。あの2人にも挨拶するつもりだぜ」
「なら行ってみたいです」
「よし、決まりだな。じゃあ、犬野郎にも話すか。準備できたら俺の部屋に集合で大丈夫か?」
「はい。大丈夫です」
「じゃあ、あとでな」
晧月は小さく片手を上げ、その場を去った。扉を閉めた林杏は、予想していなかった予定に、心を躍らせる。
(3人で修行じゃないときに出かけるなんて、初めてだよね。どんな風になるんだろう?)
林杏はさっそく荷造りをはじめた。
朝食を終えると、林杏は片づけた荷物の中から服などを用意し、晧月の部屋に向かう。どれくらい滞在するのだろうか。
(飛ぶとはいえ、それなりにかかるだろうしな)
しかし男性がいるので大変心強い。
(そろそろ移動しようかな)
部屋の前には晧月と浩然が立っていた。
「すみません、おまたせしました」
「平気だぜ。犬野郎もさっき来たところだしな」
「どれくらいかかるものなんだ?」
浩然が尋ねると、晧月が答える。
「そうだなあ、休憩しながらでも2日とちょっとくらいだな。向こうの宿は気にしなくていいし」
晧月のことだ、なにか縁があるのだろう。
(だって晧月さんだしなあ)
以前に輝州の話を聴いたとき、晧月は帝の子ではなく、一般人として行動していたようだった。
(身分ごまかしての行動かあ。晧月さんならしそうだよなあ)
ふと、あることに気がつく。飴屋の店主が濡れ衣を着せられそうになったとき、優秀な役人が動いたというように言っていたが、あれは晧月のことではないのだろうか。
(晧月さんなら、あり得そうなんだよなあ。もしくはその役人に指示したか)
しかし浩然がいるならば、確認はできない。
「よし、じゃあ行くか」
晧月は先頭を歩きはじめる。あとに浩然、最後に林杏が続いた。道院の門を出て、足元に気を集め飛びはじめる。3人は自然と横並びになって空を飛んだ。
「そうだ、浩然さんは輝州には行ったことありますか?」
林杏は隣にいる浩然に声をかける。浩然は前を向いたまま答えてくれた。
「何度か、親と一緒に仕事で行ったことがあったな。初めて行ったときは、賑やかで驚いたものだ」
「やっぱりそうなんですね。私、行ったことがないんで楽しみです」
「そうか。あちらでは、はぐれると合流するのに一苦労だ。お互い気をつけよう」
「あ、なるほど。わかりました」
林杏はまだ訪れたことのないところについて、いろいろ想像し心が躍っていた。