その後、
深緑が帰るとき、
(深緑さんも、たくましくなった。大丈夫、あの人ならきっと、これから先もなんとかできる)
林杏は自室の椅子に座りながら、そんな風に思った。今では深緑が強くなったことに対して、嬉しさのほうが勝っていた。
そして深緑を見守って、もう10ヶ月。診療所には彼女の治療を求めて、毎日誰かが訪れる。深緑は嫌な顔せず、空いた時間に蔓細工を作って売り、過ごしていた。林杏も以前に比べ、ゆったりとした心持ちで深緑を見守っている。
(私は深緑さんのことを、ちゃんとわかっていなかったのかもしれない。本当の深緑さんは、こんなにも強い)
今日も近所の人と笑い合っている深緑を見守りながら、そんなことを思う。
深緑はこの日も治療を求めてきた人を癒し、見送った。そして家の中に入ろうとした、そのときだった。
「深緑ちゃん」
深緑が振り返ると、そこには笑みを浮かべた男女が立っていた。
林杏はこの2人に見覚えがある。叔父夫婦だ。前世の父親の弟で、同じく金銭に汚い人物だ。義理の叔母は高級なものを身につけるのが大好きで、よく上質な服を着ている。前世ではよく見下すような、侮蔑するような目で見られていたので、林杏にとっては悪い印象以外存在しない。
(もしかして、深緑さんを金づるにするつもりじゃ)
林杏は千里眼で見守りながら、叔父夫婦を警戒する。
「叔父さま、叔母さま、お久しぶりです。ご加減はいかがですか?」
「ああ、調子はいいよ。実は今日、深緑ちゃんに話があって来たんだ」
「お話、ですか? でしたら、どうぞ中へ」
深緑は叔父夫婦を家の中に招いた。治療をする部屋はさっきまで人がいたためか、奥の深緑の部屋に叔父夫婦をとおした。深緑はお茶を用意し、叔父夫婦の前に置いた。
「やあやあ、ありがとう」
叔父はお茶に口をつける。
「さて、さっそくだけど本題に入ろうか」
叔父が笑みを浮かべているが、林杏から見ればとても胡散臭い。
(絶対なにか企んでる)
林杏は警戒心を高める。
「深緑ちゃん、ここに1人で住むのも大変だろう? しかも治療費とってないっていうじゃないか。それだったら、うちで暮らしたほうがよくないかい?」
やはり。林杏は今すぐ深緑のところに行って、叔父夫婦を殴りたくなった。
(なんで
林杏は思わず寝台を叩いた。
叔父の思惑に気づいているのか、いないのか、深緑は笑みを浮かべた。
「ご心配くださり、ありがとうございます。けれど、わたくしは大丈夫です。自分だけなら、蔓細工を売ればなんとかなりますし、ほかのことにも挑戦したみたいですし」
林杏は感心した。あの深緑が、自身で決定し断った。思わず両手で拳を作り天井に向けて勢いよく上げる。
「し、しかしだな……」
「大丈夫です、叔父さま。こう見えて、いろんなことを覚えたし、できるようになったんですよ」
深緑の笑みには、意思の強さを感じる。その強さを感じた叔父は、笑顔をひきつらせた。
「そ、そうかあ。たくましくなったんだなあ……」
「はい。自分でいろんなことをするのは、とっても楽しいです」
「そ、そうか……。と、とりあえず、今日のところはお暇しようかな」
「あら、そうですか? 気をつけてお帰りくださいね」
叔父夫婦は笑顔の深緑に見送られるなか去っていった。
林杏は千里眼を叔父夫婦に移した。
「ちょっと、あんた。どうするのよ、せっかく金づるが自由になったっていうのに」
「うるさい、わかってる。ったく、変に知恵をつけやがって」
叔父は親指の爪を噛みながら言った。
(へーんだっ。深緑さんはあんたたちの思いどおりになんか、ならないんだから)
しかし、なんとなく心配ではある。深緑ならば大丈夫だろうが、できれば叔父夫婦には、もう来ないでもらいたい。
(でも、深緑さん以外の人の運を操作したらいけないし。うーん、それなら深緑さんの運を操作したらいいのか? でもやりすぎな気がするな)
林杏は1度千里眼を中断する。
(さて、あの叔父たちはどうしたものか。きっとすぐには諦めない。それならなにか対策をしたほうがいいのか、様子を見たほうがいいのか。うーん)
林杏は腕を組んで唸る。どうするのが、深緑にとって1番いいのだろうか。
(もしも仙人になったとしたら、たくさんの人を見守ることになる。そうなると、深緑さんばっかりってわけにも、いかなくなるのか。でも深緑さんが不幸になるのは嫌だし、かといって手を出し過ぎると深緑さん自身の成長も止まっちゃうし。うーん……)
林杏は寝台にあぐらを組んだり寝転んだりして考えたが、なかなか結論が決まらず、最終的には考えることをやめてしまった。