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16.花探し

 次の日も林杏リンシン晧月コウゲツは分かれて、目的の赤い花と白い花を探すことにした。

「そうだ、晧月さん。花畑の位置を占うことってできます?」

 昨日の夕食で残った焼いたキノコを食べながら、林杏は尋ねた。晧月は噛んでいたキノコを飲み込む。

「おう、できるぜ。ちょっと待ってな」

 晧月は荷物の中から占い道具を出し、地面に布を広げるとサイコロを振って手早く占った。

「出たぜ。まずはここから北西の……」

「ま、待ってください。ちょっと書きます」

 林杏は食べ終わった串で、地面に晧月が占った結果を書き記した。

 朝食を食べ終え、さっそく目的の花を探すことになった。まずは1番遠い花畑を目指して霊峰の真裏に向かう。

 気を足元に集め、飛んで移動する。その花畑は頂上に近い場所にあった。標高があるせいか少々息苦しい。着地した林杏は花畑で赤い花と白い花を探す。花びらが5枚のもの、細いもの、重なるようにたくさんついているもの。同じ色でも花びらのつき方が違うのは、見ていて少しおもしろかった。

 花畑にある、赤い花と白い花をそれぞれ摘むと、林杏別の花畑に向かった。花びらが散らないようにゆっくり飛ぶ。

 次の花畑は洞くつより標高が低いところにあった。そこには赤い花と白い花、青い花の3種類が咲いている。青い花の名前は知らないが、故郷でも見たことがあるものだった。4枚の花びらがそれぞれ向かい合うようについており、茎には棘が生えているのだ。

(かわいい花なのに、こんなに棘があったら摘む気にはならないよなあ)

 林杏は青い花を見てそんな感想を抱きながら、赤い花と白い花を手折った。


 林杏は1度洞くつに戻った。晧月の姿はないので、まだ花を探しているのかもしれない。

 洞くつの中に入り、大蛇に会いに行く。

(この中に大蛇が求めている花があればいいんだけど)

 林杏は抱えている赤い花と白い花を見つめる。摘んで少し時間が経ったからか、元気がなくなってきている。

 大蛇は目を開けているが林杏の足音に反応しない。眠っているようだ。蛇は目を開けて眠るので、一見するとわかりにくいが。規則的な呼吸音が聞こえる。ふと疑問に思った。

(大蛇は自分が透仙石を守ってるって言ってたけど、どこに隠してるんだろう?)

 とぐろの内側か、それとも体の後ろか。

(今眠っているんなら、こっそり探してもバレないんじゃ?)

 顔を出した誘惑に対し、林杏は頭を横に振って吹き飛ばした。

(相手は知性のある野生動物。熟睡している可能性は低いし、信用を失って譲ってもらえなくなるほうがよくない)

 林杏は1度深呼吸をしてから、大蛇を起こす。

「大蛇さん、赤い花と白い花を持ってきました。確認してもらえませんか?」

 大蛇がゆっくりと動き出した。

「なかなか声をかけんから、どうしたのかと思ったぞ」

 やはり気配は感じていたようだ。いっときの誘惑を断ったのは正解のようだ。

「眠っていたので、声をかけていいものかと」

「……まあ、そういうことにしておいてやろう」

 林杏の誤魔化しにのってくれた大蛇に、1種類ずつ確認してもらう。すべての花の香りを確認した大蛇は頭を横に振った。

「我が食べているものではない」

「そう、ですか。また探してきます」

 林杏はお辞儀をしてから、大蛇のもとを去った。

(うーん、もっと簡単に見つかるかと思ってたけど、なかなか見つからない。ちょっと晧月さんと持っていった花を整理してもいいかも)

 洞くつを出ると、いつも太陽の明るさに目が眩む。立ち止まって目が光に慣れるまで待つ。何度かまばたきをしてから、再度赤い花と白い花を探しにいった。

 次はふもとに近く少し東にある花畑に向かう。そこには真っ白な花が一面広がっている。どうやらすべて同じ種類のようだった。細い花びらが内側に、大きな花びらが外側についている。林杏は1輪摘みとった。

 付近を少し歩いてみると、赤とも橙色ともいえる花を見つける。

(これは……どうするべきか)

 判断に困ったが、可能性を否定しきれないので、摘んで帰ることにした。その後も歩いてみたが、赤い花や白い花は見つからなかった。林杏は2種類の花を持って、洞くつへ戻る。

 しかしながら、大蛇はまたしても首を横に振った。林杏は三度(みたび)花を探しにいく。

 そこは今までの花畑で1番広く感じた。どこまでも、さまざまな色の花が地面を染めている。

(これだけ種類が多そうなら、大蛇が食べる花があるかもしれない)

 林杏は小さな希望を胸に宿して花を摘む。赤い花も白い花も、両手いっぱいに見つけられた。

(よし、戻ろう)

 林杏は花を抱えて洞くつへ飛んだ。


 林杏は両手に抱えた花を持って、大蛇のもとを再度訪れた。

「大蛇さん、花を持ってきました。食べているものかどうか、確認してもらっていいですか?」

 大蛇がゆっくりと頭を上げる。そして1輪ずつ匂いをかいで確認した。

「この中に我が食すものはない」

「わかりました……」

 林杏は肩を落として、洞くつから出た。空の色や太陽の位置から考えて、そろそろ花探しから、夕飯のキノコを採る作業に変更しなくてはいけない。

(本当に花は見つかるんだろうか)

 晧月が摘んできた花も合わせると、それなりの種類になるはずだ。しかしいまだに大蛇が食べている花を見つけられずにいる。

 林杏は腕の中の花を見つめる。本当にこんなことをしていて、意味があるのだろうか。やはり大蛇を襲ってでも透仙石を手に入れたほうがいいのだろうか。しかしそんな卑怯な方法はとりたくない。

(今日の夜にでも、晧月さんといろいろ話し合う必要があるかもしれない)

 林杏はキノコを探すために森の中へ歩を進めた。


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