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14.大蛇

 しばらくすると晧月コウゲツが立ち止まった。

「行き止まりか。ここが1番奥みたいだな」

 林杏リンシンは晧月の先にある壁に違和感を覚えた。なぜかほかの壁に比べて凹凸がほとんどなく、鱗のようなものが見えるような気がする。林杏は明かりを壁に向けたまま、上に動かした。すると両手を広げたくらい大きな目がぎょろりとこちらを向き、口からは先端が二又に分かれている長い舌が出ている。蛇だ。それも洞くつを塞ぐくらい大きい。

「我の眷属の群れを超えてきたか」

 しかも喋った。つまり大きいだけでなく知性があるということだ。

「お前たちが求めているものの見当はついている。透仙石とうせんせきであろう」

「ほー、それなら話が早い。この洞くつ内にあるって聞いたんだが?」

 晧月は大蛇に臆することなく尋ねる。すると大蛇は「うむ」と返事をすると、続けて言った。

「我が守護しておる」

「あの、私たち、仙人になるための修業で透仙石をとってくるように言われたんです。悪用はしません。なので、透仙石を譲っていただけませんか?」

 林杏も勇気を出して頼む。大蛇は舌をちろちろと動かしながら答えた。

「あれは貴重な鉱物ゆえ、人の子に渡すのには条件を出す決まりになっておる。その条件を達成した者のみに与えられるのだ」

「なるほどな。で、その条件っていうのは?」

「我は汝らのいうところの、毒蛇に分けられる。しかし我は体内で毒を作るわけではなく、食べ物から摂取している。その食べ物を持ってきてもらいたい」

「わかりました。どんなものを持ってくればいいですか?」

「花である。赤い花と白い花だ。同じ種類のものをたくさん持ってきてもらいたい」

 赤い花と白い花。そんな花は山ほどある。もっと特徴を聞き出したいところだ。晧月も同じ考えのようで、今度は彼が大蛇に尋ねた。

「なんて花なんだ?」

「名前なんぞ知らん。それは汝らが区別するためにつけたものであろう。我にとって食べ物とそれ以外がわかればいいのだ」

 大蛇の立場からすれば、もっともである。

「色以外の見た目はどんなのなんだ?」

 晧月の2つ目の質問はとても大事なものだ。しかし大蛇の返事は予想外のものだった。

「覚えとらん」

「「へ?」」

 林杏と晧月は同時に間の抜けた声を出した。

「我は匂いや温度で判断する。見た目など気にしたこともない」

 なるほど。たしかに蛇ならばそれほど見た目を気にしないのかもしれない。林杏は心の中で納得した。

「我は透仙石を守護しているため、ここからは出られん。眷属たちには道を開けさせておく。では待っておるぞ」

 大蛇は起き上がらせていた顔を巻いているとぐろの上にのせた。

 この場にずっといても仕方ないので、林杏と晧月は来た道を戻った。大蛇の言ったとおり、蛇の群れは姿を消していた。

「それにしても名前も見た目もわからないのかあ。そんだけ情報がないと、占いもできねえなあ」

「そうですか。それなら根気強くやるしかありませんね。幸いにもまだ明るいですし、赤い花と白い花をそれぞれ探しましょ」

「そうだなあ、そうするかあ。透仙石の見張りをしてるんなら、多分そんなに遠くにまで花を食べに行ったりしねえだろうし、洞くつの近くで探すか」

「はい」

 林杏と晧月は二手に分かれ、赤い花と白い花を探すことにした。

 林杏は洞くつから右側を探すことになった。木々と落ち葉が続き、花畑はなさそうだ。

(しまった、花畑みたいなところがありそうな場所だけでも、晧月さんに占ってもらえばよかった)

 林杏は花畑がありそうなところを上空から探すことにした。気を足元に集め、空へ飛ぶ。木々が肩を寄せ合うように生えており、花が生えているような場所はなさそうだ。空を飛んだまま霊峰の裏側へ回る。すると木々が少し少ない場所を見つけた。洞くつからは近くも遠くもない位置にあたる。

(洞くつの側にはそれらしい場所はまったくなかった。あの蛇は体も大きいし、蛇なら木々のすき間をぬって移動すれば、私が想像するより早く着くかもしれない)

 林杏は花畑と思われる場所へ下りた。

 そこは予想どおり、花畑だった。色とりどりの花が広がっている。心地よい風が吹くと、すべての花が同じ方向に揺れた。

「きれい……」

 林杏は思わず呟いた。香りの強い花が群生しているのか、ほのかに甘い匂いがする。まるで物語の世界の中に迷い込んだかのようだ。ここで横になればさぞ幸せだろう。

(はっ。なんか和んじゃったけど、赤い花と白い花探さなくちゃ)

 林杏は花畑の中を歩く。するとすぐに赤い花を見つけた。おしべとめしべを囲むように、花びらがつなぎ目なくぐるりと一周している。林杏はそんな赤い花を1輪摘み、次に白い花を探した。

 しばらく花畑を歩いていると、針のように細い花びらがたくさんある白い花を見つけた。

(これが大蛇の求めてる花だったらいいんだけど)

 林杏はこれらの花を持って、洞くつに向かった。


 林杏が洞くつに到着すると、両手に異なる種類の赤い花と白い花を抱えた晧月が肩を落として中から出てきた。

「晧月さん、どうでした?」

「どれも違ったわー。見つけた赤い花と白い花全種類摘んできたんだけどよお」

「そうか、全種類を一度に摘んだほうが効率的でしたよね。花畑がきれいで、なんだかいろいろ頭から吹っ飛んじゃってました……」

 林杏はあまりにも幼い理由に、自分でも恥ずかしくなってしまった。

「ははは、そんだけきれいな花畑でよかったな。俺のとこは花畑っていうより群生地だった。赤い花と白い花がそれぞれ近くで咲いててな。あ、近くにキノコもあったから、とりあえず一緒に摘んどいた。そこに置いてるから、あとで確認してくれ」

 晧月が洞くつの出入口を指さした。そこには何種類かのキノコが転がっていた。

「わかりました。じゃあ、私も大蛇に見せてきます」

「おう。俺はもうちょっと探してくるわ。なんかあったら教えてくれ」

「はい。気をつけてくださいね」

 林杏は晧月と交代で大蛇に会いに行った。

 蛇の姿がまったく見えなくなった道を通り、大蛇の前に来た。

「大蛇さん、大蛇さん。赤い花と白い花を持ってきました。確認してください」

 林杏がそう告げると大蛇は体の上にのせていた頭を動かし、林杏が握っている花の香りを確認した。その気になれば林杏など丸のみにできそうだ。

「我が食べる花ではない。どちらもな」

「そうですか。わかりました、また探してきます」

 林杏は大蛇に頭を下げてから、洞くつをあとにする。

 洞くつの出入口にあるキノコを確認すると、すべて毒キノコだった。

おそらく今日中には大蛇の求める花は見つからないだろう。

(それなら晩ご飯になりそうなキノコや薪もついでに探すか)

 林杏は木々が茂る方向に足を向けた。


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