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13.透仙石

 晧月コウゲツの分の、青白い霊真珠を適切な方法でとり出すと、次は霊峰へ向かった。

霊峰は、隣り合っているヤン州とディアオ州の北西に接している山の集まりにある。もっとも高く、修業のときを除いて人間の立ち入りは禁じられている。朝と夕方以外は霧に包まれており、真上には常に雲があると言われている。

ヘイランから北西のどこにある霊峰を目指し、林杏リンシンと晧月は飛んだ。飛んでいてありがたいのは、大河の荒れ具合で進めないことや、足元が悪い道で体力が奪われることもないことだ。

6日目になると山の連なりが見えてきた。その中に1つだけ際立って高い山がある。

「あのでっかいのが霊峰か。本当に真上に雲があるんだな」

 晧月が感心したように言う。雲はそれほど分厚くなさそうだが、霊峰そのものは薄暗いかもしれない。

 空はまだ明るいがあと数時間で日が暮れるだろう。林杏と晧月は霊峰のふもとで夜を明かし、翌日に霊峰へ入ることにした。

 林杏と晧月は小枝などを拾って、夜に備えることにした。幸いにも周りに木々が多いため、すぐに火口や薪が見つかった。

「明るいうちに透仙石とうせんせきがどんな鉱物なのか、占っとくか」

 すべての準備が整うと、晧月はそう言って荷物の中から道具を出し、占いを始める。

「晧月さんは修行するまでの間、よく占いをしてたんですか?」

 ふと疑問に思ったので尋ねると、晧月はうんざりした様子で答えてくれた。

「占いができるってわかってからは、まーいにちやらされたわ。……でも手は抜けなかったんだよ、たくさんの人の生活がかかってたからな」

 晧月の顔にはこれといって表情が浮かんでいない。なにを思っているのか、どんなことがあったのかは、まったく読み取れそうにない。

「よし、見た目わかったぞ」

 晧月は集めていた小枝のうち1本を手にとると、地面に絵を描き始めた。それは八面体だった。

「色は紫色だ。形はこのとおり八面体。そうだな……洞くつがある位置も特定しておくか」

 晧月は再び占いを始めた。

「晧月さんは、毎日占いをしていた頃、やめたいとはならなかったんですか?」

「ちょーやめたかった。でもやめるとなあ、厄介なことになるってわかってたから、やるしかなかったんだよなあ。でもなあ、こうやって自分や友達のために占うのは嫌じゃねえっていうのを、修業のおかげで知ったからな」

 晧月は少年のように明るく笑った。占いをしていた手の動きが止まる。

「中腹って言ってもだいぶ上に近いじゃねえか。天佑チンヨウさんめ」

「晧月さんが占ってくださったおかげで体力温存できますね。ありがとうございます」

「なあに、占いなら任せとけって」

 晧月の頼りになる言葉に、林杏はますますわからなくなる。晧月が何者なのか、なぜ自分のことを隠しているのか、なぜ友だと言いながらも自分のことをあまり話してくれないのか。

(考えても仕方ない、か)

 林杏にできることは、晧月がいつか自分のことを話してくれたときに受けとめること。それだけだ。

(なんでも話すのが友達、というわけではないけれど。それでもやっぱり、私は晧月さんのことを理解したい)

 そんな風に考えていると、晧月に声をかけられた。

「どうしたんだよ、林杏。俺の顔になんかついてるか?」

「え、いえ、すみません。ぼうっとしてました」

 林杏はそう言ってごまかし、夜に向けて火を起こすことにした。小枝を積み、荷物の中から火打石を出すと火口に火花を飛ばした。


 次の日、林杏と晧月は鉱物をとるために洞くつがある位置まで飛んで移動した。晧月が「あそこだ」と指さしたのは、霊峰の上部3分の1に近いところだった。

「あれは中腹といっていいんですかね」

「微妙だな。もっと低い位置だと思って探したら、えらい目に遭ってたぜ。よし、下りるぞ」

 林杏は頷き、晧月に続いて着地した。

 目の前にある洞くつの奥は真っ暗だ。天井までは晧月の身長の倍以上ありそうなので、ある程度広さはあるだろう。林杏と晧月は気で明かりを作り出し、中に入った。

 洞くつの中は外よりもひんやりとしていて、心地よかった。2人分の足音が響く。石、と名前についているくらいなので足元か壁、もしくは天井にあるはずだ。

林杏は足元を照らし、透仙石がないが探した。晧月は壁や天井を探してくれている。

 そのとき、視界の端でなにかが動いたような気がした。

(コウモリでも落ちた?)

 林杏は明かりを動いたもののほうへ向けた。するとそこには一匹の蛇がいた。そして直後、目の前になにかが複数落ちた音がする。林杏は足元をもう一度照らす。細長く、手足のない。蛇だった。

(こんなに蛇がいるなんておかしい)

 林杏が晧月の名前を呼ぼうとしたとき、「林杏っ、止まれ」と大きな声で言われた。

「おいおい、冗談やめてくれよ」

 林杏は体を少しずらし、晧月がいる先を照らし見た。そこには地面を覆いつくしている蛇の大群がいた。

「また蛇ですかあ?」

 林杏は思わず不満の声を上げた。洞くつ内でこだまする。

「林杏、こいつらに毒があるかどうかわかるか?」

 晧月の問いに答えるために、林杏は足元の蛇を観察した。体は青白く目は緑色だ。毒蛇の特徴は見当たらないが、見たことがない種類である。

「毒蛇ではないと思います。でも見覚えのない蛇です。この洞くつにしか住んでないのかもしれません」

「なるほど、用心するに越したことはないってことか」

「そうですね」

「で、どうする? 引き返すか、進むか」

 まだ透仙石を見つけていない。それに今回は飛ぶ高さを制限されていないのだ。

「飛んで進みましょう」

「意見が一致したな。じゃあ行くぞ」

 林杏と晧月は足元の蛇をなるべく刺激しないようにしながら、宙に浮いた。そのまま低空飛行で洞くつの奥へ進む。明かりに照らされる蛇たちはすべて同じ種類のようだった。

 蛇の大群が見えなくなる。林杏と晧月はゆっくり着地し、奥へ歩いた。

「なぜ蛇があんなにいたんでしょうか」

「なんだ、気になるのか?」

 晧月の言葉に林杏は頷く。蛇が集まるのは狩りをするときで、ほかの動物のような集団生活をしているわけではない。もしも狩りをするためにあの場にいたのならば、数が多すぎる。そして林杏たちを襲うつもりだったのなら攻撃してきたはずだが、特にそれらしい行動もなかった。

(いや、それよりも透仙石を探さなくちゃ)

 林杏は視線を下に向けながら歩いた。


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