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9.次の修業

 2日後、林杏リンシンは起きて髪の毛を整えながら考えていた。

(追加の修業の最初があんなに大変なものだったんだったら、次からはどうなるの? たしかあと2つだったと思うけど。ええっと、山でしばらく過ごすのと、指示されたものを探し出して食べる、だったっけ。……多分簡単ではないんだろうなあ)

 しかし不思議なもので、髪を団子状にまとめ終わると顔を覗かせていた不安がすっかり姿を消した。

(よーし、どんな修行でもやってやろうじゃない)

 林杏は力強い足取りで自室を出た。


 3日前に天佑チンヨウに指示されたとおり、金の像のある建物に入った。するとすでに可馨クゥシン浩然ハオランが来ていた。

「あ、林杏。おはよー」

「おはようございます」

 可馨にあいさつを返し、彼女の近くに寄った。

「今日から始まる修行ってどんなのだろうね?」

「そうですね」

 会話が切れると、可馨はじいっと林杏を見つめてきた。

「どうされました? 私の顔になにかついてます?」

「いや、林杏と晧月コウゲツってどんな関係なの? なんだかすっごく仲よく見えるから」

「ああ、友人ですよ。ここに来る牛車でたまたま会いまして。なので皆さんよりも付き合いがほんの少し長いんです」

「え? もっと昔からの付き合いなのかと思った」

 可馨の反応はもっともだとも思う。きっと晧月の人懐っこい性格とおしゃべり好きなところが、付き合いが深いように見える理由なのかもしれない。

 そのとき大きなあくびをしながら晧月がやってきた。

「うーっす」

「おはよう。眠そうだね、晧月」

「晧月さん、おはようございます」

 ちらりと浩然を見ると目を閉じていた。瞑想でもしているのかもしれない。

(やっぱり真面目だ)

 林杏がそんなことを思っていると、晧月が首を傾げた。

「そういえばなんの話してたんだ?」

「林杏と晧月ってどれくらいの付き合いなのって聞いてた」

 可馨がそう言うと晧月は「そうかあ」と返事をした。

 そのとき天佑が入ってきた。林杏たちはお喋りをやめ、立ち上がった浩然を含めて横一列に並んだ。

「改めて穴の修業、お疲れ様でした。早速次の修業に移ってもらいます」

 天佑の言葉に林杏は身構える。

「皆さんには今から3つの物をとってきてもらい、この建物内で食べてもらいます。取ってきてもらうものは真珠、鉱物、桃です。1つ目の真珠、霊真珠は水辺のどこかにあります。霊真珠は見た目こそ普通の真珠ですが、食すことができる変わったものです。2つ目の鉱物、透仙石(とうせんせき)は霊峰の中腹あたりにある洞くつの中に、3つめの桃は霊峰の真上にある桃園から手に入れてくるように。取りに行く順番は問いません。それでは始めなさい」

 天佑はそう言うと去ってしまった。質問も受け付けてくれないようだ。

 最初に動いたのは浩然だった。特に誰になにか言うわけでもなく、建物を出た。浩然に続くように、可馨も建物から出ていく。

「よーし、がんばろうぜ林杏」

 どうやら晧月と行動を共にするのは決定事項のようだ。

「いいんですかね、一緒にやって」

「いつも言ってんだろ。言われてなかったらいいんだよ。だめなら最初に言うだろうからな」

 最初は晧月がそう言っても罰がないか不安だったが、今まで罰せられたことはないので問題ないだろう。それに晧月と行動するのは楽しい。

「じゃあ、頑張りましょう」

 林杏がそう答えると、晧月はにっこり笑ってから腕を組み、考え始めた。

「さてどう動いたもんか。順番が決まってないと、それはそれで迷うもんだな」

「桃は最後のほうがいいと思います。傷むので」

「それもそうだな。それじゃあ……霊真珠とかいうのから始めたほうが、順路的にもよさそうだな」

「そうですね、そうしましょう。でも水辺といっても、どこの海なんでしょうか」

「そうだな、ちょいと占ってみるか。林杏、ちょっと俺の部屋に行くぞ」

「はい」

 林杏は晧月のあとをついていき、彼の自室に向かった。


 晧月は机の上に占い道具を広げる。

「悪いが、集中してえから椅子使わせてもらうぜ」

「ええ、もちろん」

 晧月は慣れた様子で占い道具を扱う。以前は細い棒の束だったが、今回は5つのさいころを使うようだ。さいころの面は6つ。色は白、黒、青、赤、茶色、黄色で、晧月は茶色のさいころから転がした。

(この占いは確か出目やさいころ同士の位置で占うんだっけ。茶色、青、白、赤、黒、黄色って、転がす順番も決まってたはず)

 さいころが転がった位置や出目によって結果は大きく変わる。林杏はこの占い方があまり得意ではないので、晧月を尊敬の眼差しで見つめた。

 すべてのさいころを振り終わる。この占いは茶色のさいころを中心に考える。青が東を、白が西、黒が北を、赤が南を意味する。そして青、白、黒、赤の中から、茶色のさいころと黄色のさいころの位置で、探し物を見つけることができるのだが、林杏は読み解き方のコツを忘れてしまったので、読みとれなかった。

「おおっと……泉(チュアン)州のヘイラン湖(こ)にあるみたいだな。存外距離があるが、行くしかねえな」

 泉州はこの陽(ヤン)州から東北東へ進んだ位置にあり、隣国の馬国(マこく)との国境ともなっている州の1つで、部族によっては水上に住んでいるそうだ。陽州と泉州の間には命流(ミィンリウ)大河がある。

この道院から目的のヘイラン湖へは、空を飛んでいけば5日ほどかかるだろう。

 林杏は首を縦に振った。そして旅立つ準備をしてから、食堂の前に集まることにした。


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