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第106話 待ってたわよ

 ルミエ王国が誇る王宮庭園は、景観の美しさと複雑な構造が相まって、別名『緑の迷宮グリーン・ラビリンス』とも呼ばれる。 

 馬車を下りた広場から、さらに葉脈のごとく枝分かれした細道を進んでしばらく。

 陽光をきらきらと反射する湖が広がる岸辺に、グリーンカーテンに囲まれたガーデンテラスが。

 そこに、セフィリアたちを招いた人物のすがたがあった。


「王国の太陽にごあいさつを申し上げます。このたびはお招きにあずかり大変光栄でございます、女王陛下」


 指先まで洗練された所作で、ユリエンが一礼。

 彼女の正面、純白のクロスに覆われた円卓についた女性が、こちらへ視線を移した。


「急な招きにもかかわらず、ここまでご苦労であった」


 セフィリアはエメラルドの瞳を見ひらいた。


(なんてお美しい方……!)


 その女性をひとことで表すなら、『太陽そのもの』だ。

 揺れるグリーンカーテン。そのすきまから射し込む木もれ陽の中にありながら、黄金の髪がまばゆい輝きを放つ。

 こちらを見据える瞳、それをふちどるまつげさえも、すべてが太陽の色をまとう。

 ルミエ王国女王、フィオーネ・オライオン・ド・ルミエ。ユリエンと同年代である彼女だが、30代後半とは思えぬ若々しさだ。


「さて。早速、今日こうして呼び立てた理由についてだが──」


 フィオーネは瞳を細めると、手にしたブラックレースの扇をパチンと閉じ、


「──なぁんて堅苦しいことはナシにして、待ってたわよ、ユリちゃ〜ん!」


 へにゃっとほほを緩めたかと思えば、ユリエンに向かってヒラヒラと手をふっていた。


(え…………?)


 なにが起きたのか、セフィリアはすぐに理解できない。

 それほどまでに、フィオーネの変貌ぶりがすさまじかった。


「陛下はお変わりないようで」

「ほんっと、代わり映えない毎日で退屈してたわぁ。お茶するときくらいは気ぃ抜いてオッケーでしょ。それでそれで、あなたがセフィリアちゃんよね、そうよねぇ!?」

「は、はい! セフィリア・アーレンと申します。女王陛下におかれましては……」

「いいのいいの、そーゆーのは気にしないで!」

「ですが……」

「私が気にしないからいいのよ! それにしても、ユリちゃんに似て美少女ね〜、これは王国中の男たちが放っておかないわぁ」


 もしかして、呑んでる?

 などとセフィリアも考えてしまうほど、フィオーネは陽気な人物だった。


「ねぇねぇリアちゃん、こっちきて私とお話しましょうよ。大丈夫大丈夫、取って食べたりしないから〜」

「えぇと……」


 どうしよう、ものすごく距離を詰めてくるんだが。

 しかし相手は一国の女王だ。どう返答すれば失礼に当たらないかセフィリアが必死で考えをめぐらせていると、思わぬ助け舟があった。


「母上、セフィリア嬢がお困りでいらっしゃいます」

「……殿下?」


 セフィリアたちをここへ案内したリュカオンが、ため息まじりにフィオーネをたしなめたのだ。


「なによ〜、ちょっとカッコつけちゃってさ〜」

「格好つけてなどおりません。どこぞの酔っ払いかと思いますので、もうすこし淑女らしい立ち振る舞いをお願いいたします、母上」

「あんたはいつもどおり冷たいわね、この反抗期め〜!」


 セフィリアはまたも瞳を見ひらいた。


(リュカオン殿下は、私のひとつ年下だと聞いたけれど……)


 これが女王とその息子(6歳)の会話だというのだから、驚きだ。


「そこまで言うなら、私より先にリアちゃんと仲良くなる自信があるのよねぇ? ふーんだ。私はユリちゃんとおしゃべりしてるもんね。リュカはリアちゃんにここを案内してきたら〜?」

「母上……はぁ」


 そっぽを向くフィオーネ。リュカオンは盛大なため息をこぼしたあと、セフィリアへ向き直る。


「こちらへどうぞ、セフィリア嬢」


 これまでのように淡々と告げたリュカオンは、そうして歩きはじめたのだった。 

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