「せっかくお越しいただいたにもかかわらず、お出迎えできず、申し訳ございません」
ルフによると、ちょうどセフィリアたちが到着したとき、発熱してしまったこどもの対応に追われていたのだという。
こどもたちへパンを配り終えるころ、ルフも看病がひと段落したため、セフィリアたちのもとへあいさつにやってきたのだった。
「たいへんご無沙汰しております、旦那さま、リーヴス卿」
ルフの案内で孤児院を見て回ることになったまではいいが、食堂を出てすぐの回廊で、あらたまった様子のルフがノクター、そしてジェイドへ一礼する。
「ルフ先生は、お父さまたちとご面識がおありなのですか?」
思わず質問をして、しまった、とセフィリアは口をつぐむ。
もともとここは、アーレン公爵家が支援をしている孤児院だ。
そして公務にいそがしいユリエンに代わり、ノクターが各地を訪問して領地やひとびとの暮らしの様子などを視察している。
そのなかで、モンスターの出現など異常があればすっ飛んでいくフットワークの軽さをもつノクターが、この孤児院をおとずれ、ルフと面識をもっていても、なんら不思議ではない。
そう結論づけたセフィリアだが、実際はすこしちがったようで。
「じつはねリア、きみが生まれる前、僕とジェイド、ルフはいっしょに冒険していたことがあるんだ」
「冒険……えっ?」
さらっと告げられたことは、もちろん初耳だ。
ノクターがあちこち飛び回っていることは知っていたが、その話は聞いたことがない。
おどろくセフィリアへ、ジェイドがすぐに補足をする。
「ギルドに所属する冒険者のように、ダンジョンにいどんでボスを倒したり、お宝をさがしたりだとか、そういったものではないです。むかしはいまほど治安がよくなかったので、領地内に出現したモンスター討伐で、頻繁に遠征していました」
「ルフは魔法全般が得意だからね。治癒魔法の使い方を教えてくれたんだ。彼にくらべたら、僕もまだまだひよっこ魔術師だよ」
「なにをおっしゃいますか。旦那さまの治癒魔法の上達速度は、100年生きてきた私も目をみはるものがございました。それに、旦那さまは
「はは、そう褒められると照れちゃうな。3人でパーティーを組んで、ほんとうの冒険者になったみたいだったよね。たいへんなこともあったけど、楽しかったなぁ……」
エメラルドの瞳を細めてノクターが懐かしがると、ジェイドとルフもうなずく。
「お父さまたちと各地を回っていらした先生が、どうしてこちらの孤児院に……?」
ふと疑問に感じたことをセフィリアが問えば、ルフはすらすらと答える。
「100年も生きていればいろんな場所を見て回りましたので、そろそろ隠居をしようかと。そしてどうせ定住するなら、世のためひとのためになることをしたいと、そう思ったのです」
「ルフらしい考えだよね。そこまで言われたら、僕も断る理由なんてなかったよ」
度かさなる遠征の甲斐もあってモンスターの出現が減り、領地の治安も安定してきた。
その結果、ルフは活躍していた第一線を離れ、こうしてこの孤児院でこどもたちの世話をするようになったのだという。
「そうだルフ、紅蓮の沼地で出会ったペロのことはおぼえてる?」
「あぁ、旦那さまが翼の傷を治療なさったグリフォンですね」
「ふふ、今日はペロもいっしょに来てるから、ルフも顔を見せてあげて」
「承知いたしました。それはまたのちほど」
昔話に花が咲き、ひとしきり会話を楽しんだ後。
「ここからは、私の近況をおつたえしますね」とルフが続ける。