一人部屋に籠って、器用に木を削っているルドベキア。今は趣味で木彫りのドラゴンを作っている最中だった。
そんなルドベキアの傍らに置かれている革袋。昨日、アオとアサリナに渡した、自分と会話するための袋だ。
『ねー、ルドベキア……』
そこから、朝っぱらから大声をだしていたとは思えない程、沈んだアサリナの声が聞こえた。
「なんだ?」
主に非常時に使えと言っている袋だ。別に回数制限など無いが、そう言った方がそれっぽくてカッコいい。
『今ねー、祭壇のある町にいるんだけどー。アオがさ、探してる人以外の生贄は見捨てるって言うんだー』
「……なるほど」
なにがなるほどなのか分からないが、とりあえずそう答える。相槌のようなものだ。
『助けてどうするの? それに、生贄がいないと神は暴れるんじゃないの?』
今度はアオの声が聞こえてきた。
「助ければいいんじゃないか」
『ほらー! ルドベキアもそう言ってるー!』
『そんな暇無いでしょ。第一、助けた生贄はどうするの? 暴れた神は? 町に被害が出るんじゃない?』
「いなくなったら、新たな生贄が連れてこられるだけだ」
ルドベキアもかつては、アサリナと同じく、生贄にされる悪魔憑きを助けていた時期もあった。しかし、助けても助けても、次から次へと新な生贄が中央から連れてこられる。それでも、生贄を助け続けたが、今度は中央の魔法使いと敵対することになった。一体なぜ中央の魔法使い達はこれ程までに邪魔をするのか。結局神を殺したことで事なきを得たが、神を殺した後でも中央の目的が解らない。
「だが――そこの神を殺せば全ては解決するはずだ。実際、ソーエンスはそれで今みたいに平和になった」
『ええ⁉』『……っ⁉』
「ただ、アサリナとアオじゃ、被害が大きくなるだろうがな」
『……結局、どうするのがいいの?』
呆れた様子のアオの声が聞こえる。
なにがあって連絡をしてきたのだったか。少し時間をかけて思い出す。
「見捨てるのが得策だな」
『だってさ』
『そんなぁ……』
「そんな悲観的になるな。その町はまだ生贄を捧げる時期じゃない。どうしてもって言うのなら、アオの目的を達成してから助ければいい」
そうするのが、現時点での落としどころだろう。
「幸いにも、殆どの祭壇も時期じゃない」
『待って。なに? 生贄を捧げる時期が分かるの?』
何気なく発した言葉に、アオは食いつく。まさか食いつくとは思っていなかった。少し驚いたルドベキアだったが、すぐに返事をする。
「ある程度はな」
『時期が近い祭壇を教えて!』
「教えると言ってもな――」
革袋から飛び出てきた物を見て、ルドベキアはため息をつく。
袋に入る物なら出し入れをできる。出てきた地図を拾う。印をつけろということだろう。
印をつけた地図を袋に入れる。
「その祭壇だけ近い、大体二週間位だ」
『ありがとう』
それから、袋を閉じたのだろうか、声は聞こえなくなった。
「全く……」
別世界からやって来たというアオ。長い時間共に過ごしているような気がするが、まだ出会って数日だ。それでも、アオが恐ろしい程真っ直ぐな人物だということは分かる。
だからといって、特になにかある訳でもない。それっぽいセリフを吐いて見たかっただけだ。
ルドベキアは壁にかかっている額縁をみる。ルドベキアが目を向けると、その額縁の中に絵が浮かぶ。絵というには鮮明過ぎる、それはルドベキアの魔法によって映し出された景色だ。
そこはタステ――ルドベキア達が中央と呼ぶ城塞都市の名前だ。そして、ルドベキアの部屋に映し出されているのは、その周りに栄える大きな街の光景だ。
タステの街には、所々に祈りを捧げる場所だと言われている像がある。それは教会のような荘厳な建物ではなく、街中にあるのだ。
その像はイエーラ像と呼ばれ、タステの頂点に君臨する魔法使いのいけ好かない女であるイエーラを模した像となっている。
生贄の確保、魔法使いの確保に忙しい中央の連中は、このイエーラ像は祈りを捧げると願いが叶うなど吹聴し、悪魔憑きをあぶり出すために使っている。なんとも性格の悪い、狡いことをやっているのだ。
ルドベキアはそこで祈り、望みが叶ってしまった悪魔憑きを保護するため、全てのイエーラ像を監視している。
こんな馬鹿げた物でも、年に何人かは望みを叶えてしまう者がいる。
ルドベキアが邪魔をすることで、イエーラ像は機能していないに等しいが、なぜか処分されない。もういっそ邪魔ではなくて像自体をぶっ壊してやろうかと思っているが、直接手を出して中央の魔法使いを怒らせでもすれば面倒だ。
「髭でも描いてやろうか……」