箒に乗ってすぐに戻って来たアオ達と共に、五匹ものウサギ(氷漬け)を見た行商人や村人達はどよめく。
それもそのはず、あの一匹狩るのでやっとのウサギを短時間で五匹も狩ったのだ。アサリナの実力は村人全員が知っているが、アサリナの実力を常日頃から見ている訳ではないため、慣れることは無い。
そのまま食堂の裏口にやってきて、ウサギを下ろしてアサリナは食堂の中へ呼びに行く。
程なくして出てきた男が顎を落としかける。
「五匹も狩ってきていただけるなんて……‼」
一匹からでもかなりの肉が取れるウサギ、それ二匹と言ったのだが、持って来たのは五匹。驚くのも無理はない。
なかなか戻ってこない男を不審に思ったのだろう、女も裏口から出てきた。
「あんた、いつまあああああああああああで⁉」
その叫びが村中に響いて、なんだなんだと、まだなにも知らない村人が集まって来る。食堂の中からも、客が様子を見に来て――。
「なんじゃこりゃ‼」「ウサギ五匹⁉」「おあああああああああ‼」
様々な、しかし似たり寄ったりな反応。
狩られたウサギが五匹並んでいる光景など、村人の誰もが始めて見る光景だった。
「まーあ、アオも手伝ってくれたからね! 二人ならウサギ程度らくしょーだよ!」
アサリナに示されたアオ。村人はアサリナだけでなく、アオにも称賛を送る。今日初めて会ったばかりのアオを受け入れてもらえそうだ。
それから、お礼と称してもう一度ご馳走になった二人、ウサギ狩りで使った体力は回復。
ゆっくりしていきたいが旅を急ぐため、引き止める村人と少しだけ話した末出発。
二人を乗せた箒が飛び立つ。
「いっぱいお肉貰っちゃったねー」
「生肉が腐らないのは便利だね」
お礼にと、かなりの量の肉を貰った。それらは全てアサリナが凍らせて、魔法で持っている。アオの杖を探しに行ったとき、なにも無い所からクッキーの缶を取り出した場所にだ。
太陽は空高く、最も人の活動が活発になる時間だ。
村に着く前と比べても、歩いている人の数は多い。
「なんか普通に歩いているけど、さっきのウサギみたいなのはいないの?」
「まー、人が通る場所は安全――とまではいかないけど、ほぼ大丈夫」
それなら一安心だ。もし、道中さっきのウサギみたいな野生動物に、人が襲われている場面に遭遇してしまっては見て見ぬふりはできない。
アサリナの言う通り、特にトラブルなど起こらず、遭遇せず、途中で小休止を挟み、二人は日が沈み始める時、祭壇のある町に到着した。
広さはソーエンスには及ばないが、通り過ぎていった村や集落よりかは比較できない程大きい。
この町で目を引く所は、町に住む人々が皆、白いマントを身に付けていることだろう。
箒を町の入り口付近で降ろしたアサリナ。門兵らしき男がやって来る。
「こんにちは、アサリナさん。そちらの方は」
「あたし達の新しい仲間のアオだよー」
「こんにちは」
「そうでしたか。でもしかし、魔法使いが二人も我が町に来るとは、なにかあったのですか?」
門兵は爽やかな印象の男だ。アサリナとは顔見知りらしく、新しくやって来たアオにも嫌な顔一つしない。
ただ、魔法使いがわざわざ町にやって来たということで、なにかあったのかと不思議がっているらしい。
「別になにも無いよー? あ、でももしなにか起きたら協力はするからねー」
「そうでしたか、お引止めして申し訳ございません」
アサリナの言葉にあっさりと頷いた門兵。もう中に入っていいということだろう、再び視線を町の外に向けたのを確認して、二人は町の中に入る。
町自体は特殊な地形にあるという訳ではないため、建物の造りもソーエンスやここに来るまでの村や集落などと変わらない、木製や石造りの建物だ。
そして言っていた通り、魔法使いとの関係は良好らしく、町民は友好的に接してくれる。
そんな街を歩きながら、アオはアサリナに気になったことを聞く。
「なんでこの町の人達って、白いマント付けてるの?」
先程の門兵も、簡素な鎧に、白いマントを付けていた。祭壇があることに関係しているだろうことはアオもなんとなく分かっているが、具体的なことは分からない。
「あー……祭壇関係じゃないかなー……?」
「知らないの?」
歯切れの悪い答えにアオは目を細める。
「だって――」
アサリナが声を潜めて言う。
「祭壇って悪魔憑きを生贄に捧げる場所なんだよ? そんなもの詳しく知りたくないよ!」
そこでアサリナは杖で地面を軽く叩いて、アオを細い道に連れて行く。
アサリナが今したことは、周りから自分達の意識を逸らす魔法だ。姿を消すわけではないが、なにも知らないただの一般人なら欺くことができる。
「祭壇は生贄を捧げる場所なの、そんな場所について教えてくれるはずないでしょ? 確かに、ここら辺はあたし達魔法使いと仲がいーけど、祭壇がある町は少し変な感じなのー」
「それって『魔法使いは悪魔憑き』って話と関係あるの?」
考えてみればおかしな話だ。魔法使いと仲が良い町はおかしくはないが、祭壇がある町になればおかしい。
祭壇という場所は、魔力を欲する神と呼ばれるものがいる場所で、生贄を捧げなければ神が暴れてしまうという。
その生贄というのは、悪魔憑きと呼ばれる、魔力を持つ者達だ。そして、アサリナ達魔法使いは、その悪魔憑きだ。
生贄となる悪魔憑きと仲の良い町というのは考えれば考える程おかしいのだ。
「あるー……と思う」
「町にいて大丈夫なの?」
「それはだいじょーぶ」
アオの懸念は最もなことだが、この町に何度も来ているアサリナが無事なのだ。その心配は無用だろう。
「いちおーこの後ルドベキアにも相談してみるけどー……」
そのまま細い道を抜け、ふらふらっと大通りに戻る。
「とりあえずー、泊まれる場所に行こーか」