翌日、目を覚ましたアオは自分の身体の調子を確認する。
身体は問題無い、気分も昨日よりかはましだ。これなら、外へ出かけても問題無いだろう。
部屋から出ると、心配して見に来てくれたのだろうアイがいた。
「おはようアオ、気分はどう?」
「大丈夫だよ」
「そう、それならよかったわ」
それだけを言って行ってしまった。なにも言われないということは、顔色も問題無いのだろう。
これならば、今日はスイの後を追うことができる。
この時間だとスイはまだ城にいるだろうか? アオは城の中の散策を始める。
スイの花壇の近くに来た時、花壇をそっと覗いてみた。崩れた像はそのまま、花壇の手入れなどされていなかった。
ここにもいないのなら、スイはもう出て行っているはずだ。昨日と同じように、うっかりスイと遭遇してしまわないように気を付けて、あの浜辺へとアオは向かう。
スイは今日も一人、浜辺へやって来ていた。
あの人はもういるはずがない、そう分かっていても、一縷の望みを抱いて来てしまうのだ。
像は崩れ、今のスイには、あの若い男との繋がりを感じられるのはこの浜辺だけだ。あの時と同じように、教会のような建物からは人が出てきた。あの中にあの人いないのかと目を凝らすが、当然いない。
胸が締め付けられる思いをしながら、それでもスイは今日もその場であの人を待つ。
アオは昨日と同じように、スイにバレないようにやって来た。遠くから様子を窺うと、思いつめたようなスイの表情が見えた。
浜辺の方では若い娘達がいて、一目であの男はいないことが分かる。それはスイも分かっているはずなのに、なぜまだここにやって来るのか。
今のアオが声をかけたところで、スイが話を聞いてくれるとは思わないが。
なぜあの男のためにこうまでするのか、もう二度と会えない筈なのに、いつまで引きずっているのか。スイには自分がいるのに。
目の前で自分の愛する人が、違う人を見ているなんて。これで殺意を抱くなと言われる方が無理だ。
昨日とは違って、休んだからか考え方も変わってくる。
こうなれば、あの男を探し出して殺し、首を持って帰ってスイに見せつければ諦めもつくだろうか。
そう考えてアオは首を振る。アオがこの世界ですることは、スイを心の底から、本気で怒らせることだ。自分の気持ちで動いてはいけない。ただ、スイを怒らせるためには、ここまで過激なことをするしかないということは予想している。そのため、あの男を殺すということはあながち間違いでは無いと思う。だからアオは首を振って飛ばした考えを再び使う。
あの男を殺すとしても、そのタイミングが大切だ。スイがあの男を探している間に、アオがあの男を先に見つけて殺す。そうするとどうか、アオの予想では、スイは怒るよりも悲しんでしまうはずだ。
それなら、スイがあの男を見つけて喜んでいる時に殺すか? いや、そうしてもまだ駄目な気がする。スイがあの男に会ってどうするつもりかを知らなければならない。だけど、今のアオが聞いてもスイは教えてくれないだろう。ということは、他の姉妹に聞いてもらうのがよさそうだ。
いつまでもここにいても変わらない、あの男はもうここにはいないのだから。
身体が軽い、頭もスッキリしている。休んだことで無駄な考えが削ぎ落され、アオの思考が鋭利な刃物のように研ぎ澄まされている。
ただ一つの目的、翠を助けるということだけを考える。
アオは早速城へと戻る。この調子だと、日が沈むまでスイは帰ってこないだろうから、今のうちに姉達にも協力してもらおう。
城に帰ったところ、丁度アイを見つけた。
「――最近スイの調子が変?」
「うん、スイ、なんか思いつめた表情してたし心配なの。今日も朝から出かけてる。多分日が沈むまで戻ってこないと思う」
「なにかあったの? まさか――」
「いや、それは分からない」
アオのせいではないのかと言おうとしているのだろうが、先んじて否定しておく。確かにアイの言う通り、アオがあの像を崩してからスイがああなってしまったのだろうと思うのだろうが、アオからすると、それ以前からスイの様子はおかしかった。
それで早まった結果、像を壊して仲が微妙になってしまったのだが。
「でもまあ私もやりすぎたと思うし、アイ達からも聞いてほしいなって」
アイ達姉妹は、アオと同じようにスイのことも心から大切に思ってくれている。アオがこういえば断らないし、スイに寄り添ってくれるはずだ。
「分かったけど……あの子、答えてくれるかな?」
スイは姉妹達の中で、一番物静かなタイプだ。自分の感情を外に出しているところあまり見たことが無い。
聞いたところで話してくれるかは分からないが、聞き出してもらわないと困る。
アオが困った表情をすると、アイは任せておけと胸を叩く。
「分かった、今夜聞いてみる」
「ありがとう!」
これでいい。アオはアイに礼を言って、これからどうするかの心の整理を始める。