チャンリオパーク最寄りの駅は、有名キャラが所々にあしらわれていた。まあまあ東京駅から離れている駅だし、件の施設を訪れる人の為に飾りつけしてあるのだろう。丸くて可愛らしいキャラクターにまんまとミアちゃんが反応していた。
『みゃんみゃろ! キャンティ! キャラメルティ!』
かろうじて聞き取れたのは恐らくキャラの名前だろう。しかし、何だその呪文は。何でそんなに覚えられるんだ。和也はシュミット一家のガイドに付きっきりで俺の所には来てくれないし、今から行くのは少女の楽園みたいな世界だし。パークまでの大きな一本道。大道芸人が、華麗なジャグリングを披露している。外で一日これを見ていた方が楽しそうだ。
『ハルキー』
一瞬和也が来てくれたのかと思ったが、横にいたのは幼いミアちゃんだった。
『何で、そんなにむずかしい顔をしているの? パークが楽しみじゃないの?』
『ああ、ええっとね。俺は……』
ここで楽しみだと嘘を吐くのも考えたのだが、何だかそれも悪い気がして。
『正直、あんまり興味がない。いや、かわいいのは分かるんだけど』
まずい。言い過ぎただろうか。彼女の顔がしおしおと萎れていった。
『そうなの……』
『いや、あのね。君を悲しませたい訳じゃなくて……』
『じゃあ、今日から好きになれるように、私が教えてあげる!』
彼女が俺の手を取り、走り出す。
『お、おい!』
『私が好きなキャンティはね、何でも挑戦して、経験にするの。人生は一回だから楽しいものがいっぱい知りたいんだって! ハルキも、私と一緒に楽しいものいっぱい知ろうよ!』
そう言うミアちゃんに引っ張られ、しばらく走っていたが低い重心に耐え切れず、徐々に足がもつれてくる。
(まずい、転ぶ……)
『ミア!!』
俺がついに前のめりになり、せめてミアちゃんを庇おうと腕を伸ばすのと、背後から誰かが俺を追い抜いて彼女を抱くのが同時だった。俺は無情にもスライディングして、ミアちゃんは背後から来た人物であるリオンさんに助け出されていた。
リオンさんは、彼女に何か言った後、じっと俺を見た。そして、ぼそっと何か呟いたように見えた。
『ごめんなさい。ミアちゃん大丈夫ですか?』
『ああ、平気です。大丈夫』
冷たく見えた瞳は、俺が声をかけた時には柔和なものに戻っていた。いや、元からそうだったのかもしれない。きっと見間違いだろう。
(そこまで恨まれる理由もないしな。とにかくミアちゃんが無事でよかった)
「陽輝大丈夫? 派手に転んでたけど」
「うん。でも鍛えてるからさ。大丈夫」
「皮膚の強さって鍛えられないよね?」
パーク近くのコンビニで絆創膏を買って、貼っていると、和也が心配して来てくれた。
「でも、ミアちゃん随分陽輝に懐いてるね。俺のところには全然来てくれないや。まあ、いいけどさ!」
「うん……」
「どうかした? やっぱり痛かった?」
「いや、そうじゃない。そうじゃなくて……」
俺は、先ほど気になった事を、外堀から攻めて聞いてみることにした。
「昔のテレビコマーシャルでさ、チャン・リン・シャンってあったよね」
「ん? 何の話?」
「いや、あのさ……さっき、ミアちゃんが転んだ後、リオンさんが俺に言った気がしたんだ。チャン・リン・シャンって……気のせいだよな。日本のコマーシャルだしありえないもんな」
「え?」
俺の言葉に、和也が驚いた様子を見せた。
「リオンさんが、そう言ったの?」
「え、うん。そう聞こえたってだけなんだけど……」
和也は、少し考える様子を見せ、そして「そうなんだ」と呟いた。
「何か、意味があるのか?」
「いや? 何でもないよ」
嘘だ。和也は嘘を吐くと口元が引きつる。でも、それを指摘する気にはならなかった。
(こいつが隠すって事は、それなりに理由があるはず。あまり知られたくない何か……)
想像するにあまり良い意味ではないのだろう。
「そうか。何でもないか。ならいいや」
ここは、あえて知らないふりをするのが大人の対応というもんだ。それにしても何だか分からないが、うちの和也にこんな気を遣わせるなんて許せない。
(十年も前なら、真っ向から敵対していたけれど俺も流石に四十路。大人になったものだ……)
「陽輝どうしたの? もしかして、さっき頭打ったとか? だったら大変」
「大丈夫だよ。大丈夫」
頭を撫でそうな勢いの和也を制して、彼のかっこいい彼氏を演出する。
「傷の手当ても済んだし、もう行こう。シュミットさん達が待ってる」
そして俺達はついに、少女達の楽園チャンリオパークへと足を踏み入れることとなった