目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第55話 シュミット一家と3

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

案内所に着いた俺(和也)は、一家の乗っていた便の案内状況を聞いていた。空港職員の話では、時間的にやはりフロアに出てきている可能性が高いとの事。大人の迷子を放送してもらうのも何なので、仕方なく戻ることにした。

(でもよく考えたら、陽輝だけ待っててもおじさん達分からないんじゃ……! 迂闊だった)

速足で時計台まで戻ると、陽輝の姿が見当たらない。

「え? どこ行っちゃったんだろう」

陽輝が俺のお願いを聞かずに持ち場を離れるなんて、何かあったのだろうか。連絡SNSに連絡するも、返事がない。

「探す人が増えちゃったなあ。全く」

しばらく待ってみるが、誰も来ない。そんなうちに、トイレに行きたくなってきた。

(仕方ない。少しだけ離れるか。今来ませんように!)

そんなことを、どこかの神さまに祈りながら一番近いお手洗いに向かった。すると、女子トイレの入り口近くで、スマホをいじっている外国人の男性が目に入った。女子トイレの前に、男性が、だ。ここのトイレは、男子用と女子用が離れた場所にあるから、この辺りに用事はないはずだ。

(ええ……何か変な感じ。ちょっと怖いかも)

そう考えて、話しかけようかどうしようか迷っていた時だった。女子トイレから出てきた中年女性と小学生くらいの女の子を見て、彼女たちに男性が近づいていく。

(あっ、これやばい)

「あの!」

思わず俺が声を発するのと、中年女性が男性に『おまたせ』と話かけるのがほぼ同時だった。

「……あれ?」

少し間を置いて男性はただ、知り合いが用を足すのを待っていただけかもしれない、と気が付いた。

「えと……すみません。何でもないです! ソーリー!」

よく見れば、中年女性も小さい女の子も外国人らしい顔立ちをしていた。本当にただの観光客か何かだ。……って、あれ?

「もしかして……ニコーレおばさん?」

俺の呼びかけに一瞬不思議そうな顔をしていた中年女性の表情は、次にぱっと笑顔に変わった。

『あら! もしかして、カズヤ?』

『そうそう俺カズヤ! わあ、懐かしいなあ!』

ニコーレおばさんは、シュミットさんちのお母さんだ。突然の再会に踊り出しそうになるも、すぐに冷静になった。

『他のみんなはいる? 確か、おじさんとハンナちゃんと、その旦那さんと子供さんも来てるんだよね?』

『そうよ。この男の人が、ハンナのパートナー。そしてこの子がその子供。ミアよ』

『あなたが、カズヤさんですか。リオンです。会えてよかった』

若い男性の、リオンさんが自己紹介をしてくれる。

『実は私達、うちの旦那と娘とはぐれてしまってね。あなたの連絡先は娘のハンナが持っているから、困っていたの。ずっと探してたんだけど、そうこうしている間に孫がトイレに行きたくなって……でも、そのおかげで会えてよかったわ』

『そうだったんだね』

と、俺のスマホが震える。確認すると陽輝だ。

「陽輝……クルトおじさんとハンナちゃんといるのか。どうやって合流したんだろう……」

思わず日本語で呟く。まあ、後で聞こうっと。

『皆さん、待ち合わせ場所の時計台の前に行きましょう。俺と一緒に来た人が、おじさん達といるみたいだから』



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――



案内所に着いた俺(陽輝)は、迷子のドイツ人親子を案内所に置いて、さっさと持ち場に戻ろうと考えていた。

(離れている間に一家が到着していたら悪いし)

『では、俺はこれで。良い旅を』

『ありがとう。あなたの名前は?』

若い女性が、そう聞いてくる。

『ハルキです』

にこやかにそう答え、背を向けると腕を掴まれた。

思わず、素で「え」と間抜けな声が漏れる

『ごめんなさい。もう一度名前を教えて?』

『えっと……ハルキ、ですけど。ハルキ ホシゾラ……』

『ハルキ……ホシゾラ』

女性は、整った眉を、険しく寄せていた。

『あなたって、もしかしてカズヤ ツキシマを知っている? 茶色い髪の、背の小さな男の人なんだけど……』

この発言にはさすがに驚いた。どうして、見ず知らずの外国人が和也の名前を知っているんだ。いや、このタイミングで待ち合わせ場所付近に現れたドイツ人って、もしかしたら。

『私、ハンナ! ハンナ・シュミットです。カズヤに会いに来た』

『ああ、あなた方が……』

『そう! あなたが、ハルキだったのね。全然気がつかなかった』

『まあ、それはヒントが少なすぎるし、仕方がないというか……』

空港職員の女性が、不思議そうに俺とハンナさんを見比べている。俺は職員に、ハンナさんは彼女の父親に事情を話す。何事が起こったのかとそわそわしていたクルトさんの表情が、ぱっと明るくなる。

「はじめまして。よろしくおねがい、します」と俺に合わせて日本語で、あいさつをしてくれた。

『父はあまりドイツ国外に出ないから、英語はうまくないの。さあ、カズヤと合流しましょう。ハルキ、連絡はとれますか? 私のスマホ、充電が切れてしまって……』

『そうですか。ええ、もちろん。えっと……うわ』

自分のスマホを確認すると、和也からの着信が何件か来ていた。彼女と話しながら来たからか、全く着信に気がつかなかった。迂闊。

連絡SNSにメッセージを入れると、すぐに既読がついた。

『和也と連絡が取れました。さっきの時計台の前に行きましょう』

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?