心配になった俺達二人は、店の奥のお手洗い近くまで移動した。すると探すまでもなく梓さんがいた。どうも落ち着きがなく、慌てた様子でスマホを操作している。
「梓さん、どうしたんですか? 舞さんは……」
「ああ、和也さん! 女子トイレの中を確認したんですけど、見当たらなくて……今連絡してるんですけど、既読が付かなくて……」
「電話した?」
「まだしてないです! どうしよう。外に出たのかな……」
短い付き合いながらも、今まで見たことのないくらい狼狽している彼女をとにかく落ち着かせる。
「とりあえず電話してみよう。連絡に気づいてないのかもしれないし……俺、店の外見てくる。ごめん陽輝、お会計しておいて! 後で払うから」
陽輝が「わかった」とレジに向かう。俺と梓さんは建物の出口に向かった。
「出たとしてもそんなに遠くには行かないと思うんだけど」
「どうしよう。私がちゃんと気持ちを伝えなかったから……」
「大丈夫。絶対見つけるから」
店外への扉を開き、外へ出る。左右や周りを確認してから、ぐるりと店の周りを歩いてまわると、ちょうど入口の裏辺りに彼女の姿はあった。
「ああ、舞さ……」「舞! 何してるの!」
先に声をかけようとした俺を押しのけるようにして、梓さんが彼女に駆け寄る。
「何で外に出たの! 心配したんだから!!」
「ごめんなさい……落ち着くように頓服を飲みたくて、コンビニまで水を買いに行ってたの。すぐ戻るつもりだったから……」
思いがけず大事になっていた事に驚いた様子の舞さんに「俺も心配したよ」と言う。
「今度からは、こまめに連絡してね。こんなに遠くで迷子になったら帰れなくなっちゃうからさ」
「はい。ごめんなさい」
「うん。わかってもらえたら、もういいよ。あ、陽輝、陽輝! こっち。いたよ!」
会計を終えて追いついた陽輝が、何か言いたそうな雰囲気を出しながら向かってきたから、先に舞さんに謝罪を促した。
「ほら、陽輝も心配したってさ」
「あ、ごめんなさい! 陽輝さん……」
先に謝られ、小言を言うタイミングを逃した陽輝が口をへの字に曲げて「んん……」と息を漏らした。
「よし。じゃあ、帰ろうか!俺達は明日から仕事だからねえ」
「え、でも私……」
「舞!」
梓さんが、舞さんの身体をぎゅっと抱きしめる。
「これからも、私とずーっと一緒にいてください!」
舞さんが驚いたように目を開く。そして彼女の身体を強く抱き返し「はい!」と嬉しそうに笑みを浮かべた。
「ありがとう。うれしい……」
「やだ、舞ったらまた泣いてる!」
「だって、うれしいんだもん。梓ちゃん大好き!」
その後。手をつないで車まで行った二人は、後部座席でも何だかイチャイチャしていた。対して運転する陽輝は若干不機嫌そうに見えた。
(陽輝は真面目だからなあ。後でフォローしておこうっと)
そんな事を考えながら、俺はチョコの個包装を開く。
「陽輝。今年もよろしく」
改めてそう言うと、彼はチラリとこちらを見て「うん」と返してくれた。
「陽輝。旅行楽しかったね。また行こうね」
「うん。でもしばらくはもういいな。かなり贅沢しちゃったからな」
「何だか日本人ぽい感覚だねえ。でも、俺もそう思う。」
「和也も日本人って事だな」
「そうそう」
人生は楽しいことばかりではない。信頼していた年上の友人に襲われたり、話が通じない元従業員とのトラブルもある。それでも、陽輝と一緒なら何でも乗り越えられる……そう思った。