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陽輝が布団にくるまったまま、出てこなくなってしまった。
(どうしよう。俺も酔いが覚めてきたし、ちょっとやらかした気がする)
ちなみに俺は、全て記憶が残るタイプの酔い方をする。
(訂正。完全にやらかした……)
「陽輝い……ごめんね」
もぞ、と布団の山が動く。布団の山(陽輝)が「和也は悪くない」と喋る。
「ちゃんと同意を取れない状態でしようとしたし、それを従業員の子たちに見られた。恥ずかしくて情けなくて死にそうだ」
「そもそも俺から誘ったんだし、梓さんも舞さんも気にしないよ」
多分、という言葉は飲み込んだ。
「俺は駄目だ。ちょっと放っておいてくれ」
そうは言っても本当に放っておいたら拗ねる奴だこれ。陽輝は意外と女々しい所があるのだ。
「そんなこと言わずに元気出して? ほら、ぎゅー」
布団の山を両手で抱き締めるようにする。
「ほら、さっきもらったヤツ……たい焼き? 食べよ?」
軽くポンポン叩いたりしてみるが、震えたり唸ったりするのみで対した反応がない。
(もー仕方ないなあ)
こういう時は、相手と同じ状態になるしかない。
俺は隣の布団をかぶり、彼に話しかけてみた。
「コンニチハ、ぼくは布団星人だよ! 見たところ、キミも布団星人だね!」
ちょっと恥ずかしいけれど、陽輝以外見てないし、大丈夫大丈夫。
「キミのお名前は?」
「……はるき」
「はるきくん!布団成人のあいさつをしようよ!」
牛の角つきのように、布団ごしにアタックしていると、急に陽輝布団が開いて、囚われてしまった。
「バッカルコーン!」
「あー、共食いだあ! たすけてー(棒読み)」
そんなこんなでくっついたり、じゃれたりしているうちに、俺達は気持ち良くなって、陽輝の機嫌も直ったようで。良かった良かった。一件落着だ。
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部屋に戻ると、舞が「びっくりしたね」と話し始めた。
「ね。二人の邪魔しちゃったみたい」
「でも、ノックしても返事なかったし」
「そういう問題じゃあないよ」
しかし、いけないこととは思いつつも、興味本位で聞き耳を立ててしまったことは事実で。
(実は人のそういう事情って興味出ちゃうな。大っぴらには言えないけど)
「でも夕食もおいしかったし、もう寝たら旅行終わっちゃうなんて……何か寂しいなー」
私が下世話な事を考えている一方、舞は相変わらずピュアだった。
「舞のそういう感じ好きだよ」
「えー急にどうしたの?」
「何でもない! いやー今日は楽しかったな。明後日からは仕事だ」
「よくわからないけど、誉めてくれてありがとう。私も仕事かなー」
彼女の口から出た『仕事』という言葉に、私は彼女が和也さん達にまた嘘を吐いていた事を思い出した。
「次はどんなイメージなの?」
昨日サービスエリアで警察事務だなんて言っていたが、舞の仕事はぬいぐるみ作家だ。安定した収入があるものではないが、好きな人にはとても人気を得ている。実際、彼女のSNSのフォロワー数はかなりのもので、私が店をやっていた時のものより断然多い。
「うーん……まだ決まってない。考え中!」
そうは言いいつつ見せてくれた構想ノートには、今回の旅行で得たらしいイメージが記されていた。
「ガラス細工、お刺し身、アジフライにたい焼き……全部メモしてるよー」
ガラス細工が気になるらしいが、一体どうやってぬいぐるみにする気なのだろう。
「でもさ、楽しい旅行を企画してくれた和也さんに感謝しないと。お友達と旅行なんて私、初めてかも」
「まあ、お友達では……ああ、舞はそれでいいのかな」
私にとっては雇い主だけど、彼女にとってはまあ友達に近いのかもしれない。なんとも不思議な関係だ。
(でも夫や妻の上司なら、それは友達ではないよなあ。んん?)
訳が分からなくなってきたので、もう考えるのは止めることにした。
「じゃあまあ、明日もあるしもう寝ようかな。起きられなかったらまずいし」
布団に入ると、舞もついてきた。
「梓ちゃん寝ちゃうの? じゃあ、私も布団入ろ。久しぶりに手つないで寝よー」
「えーいいけど……最近手ぇ荒れてるから恥ずかしいな」
「いいの! 私が落ち着くから」
私の手を頬にすり寄せ、安心したように彼女は目を閉じた。電気を消し、枕元の間接照明だけにする。
「おやすみ。舞」
「おやすみ。梓ちゃん」
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私はお人形の白ウサギ。私は今ベッドの上に座っている。それでえっと、今は何をしていたんだっけ?
隣に座っている黒ヒョウのお友達が、しくしく泣いてる。
(そうだ。私は今、この子のお話を聞いていたんだった)
『だいじょうぶだよ。お金が足りないなら、私がだすから。私、貯金がたくさんあるの』
自分でそう言いながら、貯金なんて本当にあったかな、と小さなハテナをたくさん頭に浮かべていた。
『私、黒ヒョウちゃんの役に立ちたいな。なんでもするよ』
そう言うと、目の前のお友達は『バカにしないで』と言って私をなぐった。
『いいよね。ぬいぐるみ作って、楽しく暮らして。どうせたいした悩みもないんでしょ』
(おかしいな。むずかしいたし算はできないし、ほかのお友達もいないし、いつも何かがこわくて心がバラバラになりそうなのに。私にもなやみはあるのにな)
知っている。それを伝えたら、お友達はもっと怒ることも、私がそれを伝えてしまったことも。だってこれは夢で、でも現実に起こった事で……
『なんでもするんでしょ? じゃあふくをぬいで。私のいうとおりにして』
(ごめんね。私、ただ役に立ちたかっただけなんだ。いつも変なこと言ってごめんね。本当に嫌になっちゃうな、この頭)