俺(和也)と陽輝は施設の中にある、直売所にいた。地域の野菜やその加工品などがたくさんあって、見ているだけでおもしろかった。
「枝豆だ!」
「枝豆だな」
「これ家族用かな。めちゃくちゃ入ってるね」
他には、金属でできたタンブラーや、有名なキャラクターのご当地限定バージョン。オリジナルキャラクターのグッズなどがあった。
「見て。かわいいね、このキャラクター『ぐうじにゃん』だって」
宮司と猫をモデルにしたキャラクターらしく、ここのイメージキャラクターのようだった。
「宮司さんなのか。偉いんだね。かわいい」
そしてぬいぐるみキーホルダーやその他お土産を買い、店員に聞くとちょうど、ぐうじにゃんの着ぐるみがこの辺りに来るらしく、陽輝と一緒に見に行った。
「そろそろ、予定の時間だね……あ! あれかな」
スタッフと思しき人に付き添われ、ぐうじにゃんが近づいてくる。
「わあ、かわいいー」
子供や女性に交じり、軽く手を振ると、彼(彼女?)も手を振り返してくる。
「実は俺、着ぐるみとか好きなんだよね。何か、遊園地とか観光地にいるから、楽しいことのシンボルって感じで」
陽輝は「なるほど」と答えた。
「じゃあ一緒に写真撮ってもらうか? ほら、並んだらいけそう」
「ええ! 何かいい歳だし恥ずかしいな……」
「まあまあ、せっかくだから……」
陽輝にしては押しが強い。多分、俺が恥ずかしがっているのを見て楽しんでいるんだ。
「じゃあ、そこまで言うなら行こうか」
こうなったら、道連れだ。直前で陽輝も巻き込んで誰かに撮ってもらおう。そんな事を考えているうちに、俺達の順番になった。
「すみません! 俺ら二人で写りたいんでカメラお願いします。ほら、陽輝スマホ!」
予想外に被写体にされた陽輝は、最初めちゃくちゃ嫌がっていたが、最後は真っ赤になってピースしていた(一応ポーズしてるのかわいいなと思う)
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やられた。何で俺(陽輝)まで着ぐるみと写真を撮ることに。カメラマンとして特等席で、和也の笑顔をおさめるはずが。
「楽しかったね。陽輝!」
店のクレープ片手に、憎たらしい程の笑みを浮かべた和也。それがまたかわいい。
「うん……」
すると「ごめん本当にいやだった?」と上目遣いで聞かれる。それをされると、何でも許してしまう事を、和也は気づいているだろうか。多分うすうす気づいているだろうな。
「いいよ。和也が楽しくて良かった」
「本当? やったね」
クレープをおいしそうに食べる和也を見ていたら、今回旅行に来て本当に良かったと思った。雪は残っているものの、天気に恵まれていて良かった。山も見えるし、空気もうまい。腕時計を見れば、四時だった。
「和也、そろそろ宿に戻らないか?」
「んん? あ、もうこんな時間か。歩いて戻って、温泉入ってって感じかな」
和也と温泉キタ――! 内心サンバのリズムを刻みながらも冷静に「そうだな」と返した。
「温泉楽しみだね。陽輝!」
「うん。楽しみだ」
帰り道。小さな事件が起こった。歩きながら和也と手をつなごうとしたのだが、避けられてしまったのだ。
(ん……?)
始めはタイミングが合わなかったのかと思い、再度手をつなごうとしたのだが、どうも故意に避けているように思えた。
「か、和也」
「ごめん。手をつなぐのは……待って」
ショックを隠しながらも、理由を問うと、彼はこう返した。
「なんだろう。ちょっとだけ怖くなったというか……俺達って周りのカップルとやっぱり違うんだなって」
「どういう事?」
「えと……つまり、男同士だから……ごめん! こんな事今更言って。陽輝が大好きなのは変わらなくて。でも、俺達ってどう見えてるんだろうって、ちょっとだけ不安になって」
「……そうか」
恐らく、旅先で複数の異性カップルを見たことで不安になったのだろう。
「ごめん。何でもないんだ。ほら、手つなごう?」
痛々しい笑顔で、手を差し伸べてくる和也。俺はその手を取り、抱き上げた。
「わあ!」
いわゆるお姫様抱っこをされた和也が驚き声をあげる。その声に周りの観光客が振り返った。
「ちょ……何してるの。降ろして、皆見てるから」
高さや視線が怖いのか、きゅっとしがみついてくる。その身体を抱いて、走った。
「ちょっと! 陽輝い?!」
思ったより体力が持たずに、すぐ限界が来た。やはり、高校生の時とは身体が変わってきているのだ。旅館に着いた頃には言葉を発せないくらい息を切らしていた。
「だ、大丈夫? 陽輝……どうしたの?」
しばらく息を整えた後、訳を説明することにした。
「わかんない……でも、何か急に走りたくなって……」
困惑する和也に「でも」と息も絶え絶えに言った。
「こんな俺といるの、嫌だ?」
驚いた様子の和也。困った様に笑い、「いやじゃないよ。陽輝」と座り込んでいた俺を抱いた。
「いつもクールなのに、変なの! さ、汗かいたから温泉入ろうよ」
そういう和也は、もういつもの和也だった。良かった、元気が出たらしい。
立ち上がろうとしたのだが、脚ががくがくで立ち上がれなかった。どうも、急に身体を酷使しすぎた様だった。
(くそ……和也の前で良いカッコしすぎた。恥ずかしい……)