目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報
第35話 温泉旅行3

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「ふうん……なるほど迷子かあ」

和也はしゃがんで少年に目線を合わせ「こんにちは」と笑った。

「お名前は?」

「いえないの……こじんじょーほ」

「そっかあ……あ、カバンかっこいいね。ムリオだ」

和也が、少年のカバンを指さす。気にしていなかったが、赤い帽子を被った有名なキャラクターが描かれている。

「遊園地で買ったんだよ!」と上機嫌になり和也にそれを見せてくる少年。和也はそれを受け取り「すごいねえ」「ムリイージもいるんだね」など口々に褒めていく。

(楽しそうだけど、親御さん心配してるだろうし……早めにどこか探さないと)

「和也。俺、交番とか迷子捜索を受け付ける場所近くにないか探してくるよ」

そう言い、歩き出そうとした時だった。

「待って陽輝」

和也が俺を呼び止める。見れば、スマホを取り出して、どこかに電話をかけているようだ。

「……あ、もしもし。男の子の迷子を見つけたんですけど。ハイパームリオのTシャツの…………はい、はい……そうです! カバンに……」

何だ? 彼はどこに電話をかけているんだ? カバン? カバンに何かあったのか?

「えと、駐車場近くの、ソフトクリーム屋の前です。隣にガラス細工の店が……あーそうです!……じゃあ待ってますね」

電話を切ると、和也は俺に「ママさんに連絡ついた」と言い、少年には「もうすぐママ来るよ」と声をかける。結局なんだかわからないままに、間もなく両親と思しき男女が飛んできて、和也も俺もめちゃくちゃにお礼を言われた。

「大丈夫ですよ! 本当に見つかってよかった!」




「でも良かった。あの子のママ見つかって」

参拝を終えた俺達は、車で旅館に向かっていた。

「ところで和也。何で、あの子のママの番号が分かったんだ?」

「ああ、それ結局、うやむやでしたよね」

梓さんも気になるようで、後部座席から声が飛んでくる。

「ああ。簡単だよ。あの子のカバンのキーホルダーに『ママ携帯』って番号書いてあったんだ。多分、今回みたいに迷子になった時用じゃないかな」

「なるほど……気が付かなかった。和也は観察眼がすごいな」

「えへ。もっと褒めていいよお」

かわいい上に頭もいい。和也最高。俺の脳内の和也親衛隊が一斉にペンライトと、うちわを振った。

「あ、そういえば! ねえ。みんな、何か忘れてると思わない?」

和也が急に漠然としたクイズを出してくる。

「ええ、なんだろう。お土産は買ったし……」

「いーっぱい、おいしいの食べたしー」

「陽輝は? 答え分かる?」

「うーん……何だろうな」

和也が「正解は……」と声を潜めた。

「陽輝、梓さん、舞さん! あけましておめでとうございます!」

なるほど。新年の挨拶か。

「ああ! そういえば新年ですね」

梓さんが今思い出した様子の声を出し、挨拶を返してくる

「毎年ながら何だか、実感ないな」

「確かに」

「それで、和也は神社で何をお願いしたんだ?」

「俺は、しまやの経営がうまく行きますようにって。熊手も買ったし」

 和也が持ち帰り用の紙袋を鳴らす。

「新嶋さんが去年買った奴と同じくらいの大きさ。梓さんと舞さんは?」

「私は……舞とのことですね」

「私は、梓ちゃんのお仕事がうまくいきますようにって感じですー」

「いいねえ! 陽輝は?」

「俺? 俺は……今年も和也と店をやれるように。繁盛するようにって。和也と同じだよ」

「やっぱりそうだよねえ」

 本当はもう少し邪念が入り込んでいた気がするが、概ね合っている。嘘は吐いていない、はず。

「陽輝。今年もよろしくね!」

「うん。よろしく」

 そんな会話を乗せ、俺達四人を乗せた車は、神社からすぐ近くの旅館へと走っていった。


この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?