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「ふうん……なるほど迷子かあ」
和也はしゃがんで少年に目線を合わせ「こんにちは」と笑った。
「お名前は?」
「いえないの……こじんじょーほ」
「そっかあ……あ、カバンかっこいいね。ムリオだ」
和也が、少年のカバンを指さす。気にしていなかったが、赤い帽子を被った有名なキャラクターが描かれている。
「遊園地で買ったんだよ!」と上機嫌になり和也にそれを見せてくる少年。和也はそれを受け取り「すごいねえ」「ムリイージもいるんだね」など口々に褒めていく。
(楽しそうだけど、親御さん心配してるだろうし……早めにどこか探さないと)
「和也。俺、交番とか迷子捜索を受け付ける場所近くにないか探してくるよ」
そう言い、歩き出そうとした時だった。
「待って陽輝」
和也が俺を呼び止める。見れば、スマホを取り出して、どこかに電話をかけているようだ。
「……あ、もしもし。男の子の迷子を見つけたんですけど。ハイパームリオのTシャツの…………はい、はい……そうです! カバンに……」
何だ? 彼はどこに電話をかけているんだ? カバン? カバンに何かあったのか?
「えと、駐車場近くの、ソフトクリーム屋の前です。隣にガラス細工の店が……あーそうです!……じゃあ待ってますね」
電話を切ると、和也は俺に「ママさんに連絡ついた」と言い、少年には「もうすぐママ来るよ」と声をかける。結局なんだかわからないままに、間もなく両親と思しき男女が飛んできて、和也も俺もめちゃくちゃにお礼を言われた。
「大丈夫ですよ! 本当に見つかってよかった!」
「でも良かった。あの子のママ見つかって」
参拝を終えた俺達は、車で旅館に向かっていた。
「ところで和也。何で、あの子のママの番号が分かったんだ?」
「ああ、それ結局、うやむやでしたよね」
梓さんも気になるようで、後部座席から声が飛んでくる。
「ああ。簡単だよ。あの子のカバンのキーホルダーに『ママ携帯』って番号書いてあったんだ。多分、今回みたいに迷子になった時用じゃないかな」
「なるほど……気が付かなかった。和也は観察眼がすごいな」
「えへ。もっと褒めていいよお」
かわいい上に頭もいい。和也最高。俺の脳内の和也親衛隊が一斉にペンライトと、うちわを振った。
「あ、そういえば! ねえ。みんな、何か忘れてると思わない?」
和也が急に漠然としたクイズを出してくる。
「ええ、なんだろう。お土産は買ったし……」
「いーっぱい、おいしいの食べたしー」
「陽輝は? 答え分かる?」
「うーん……何だろうな」
和也が「正解は……」と声を潜めた。
「陽輝、梓さん、舞さん! あけましておめでとうございます!」
なるほど。新年の挨拶か。
「ああ! そういえば新年ですね」
梓さんが今思い出した様子の声を出し、挨拶を返してくる
「毎年ながら何だか、実感ないな」
「確かに」
「それで、和也は神社で何をお願いしたんだ?」
「俺は、しまやの経営がうまく行きますようにって。熊手も買ったし」
和也が持ち帰り用の紙袋を鳴らす。
「新嶋さんが去年買った奴と同じくらいの大きさ。梓さんと舞さんは?」
「私は……舞とのことですね」
「私は、梓ちゃんのお仕事がうまくいきますようにって感じですー」
「いいねえ! 陽輝は?」
「俺? 俺は……今年も和也と店をやれるように。繁盛するようにって。和也と同じだよ」
「やっぱりそうだよねえ」
本当はもう少し邪念が入り込んでいた気がするが、概ね合っている。嘘は吐いていない、はず。
「陽輝。今年もよろしくね!」
「うん。よろしく」
そんな会話を乗せ、俺達四人を乗せた車は、神社からすぐ近くの旅館へと走っていった。