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第21話 聞いてほしい事

 「和也ちゃん! 陽輝くんも! あなた達こういうのに興味ない?」

 しまやに新しい店員が増えたという話が回ったのか、はたまた宣伝効果か、少しずつ客足が戻ってきた頃。常連の女性だいぶ前、新嶋さんを心配して現れた人が来店し、そんな事を言った。

「いらっしゃいませ。どうしたんですか?」

「これよ。ウエディングフォトって言うんだけどね。」

 興奮気味にチラシを取り出し、お店のテーブルに広げた。

「結婚式みたいに、キレイなお洋服を着て写真を撮ってもらえるの! ねえ。おばさん見たいわあ和也ちゃんのドレス姿!」

「ドレス、ですか?」

この人は、どうも俺のことを勘違いしているような気がする。悪気はないから困ったものだ。

「あの、俺女の子にはなれないかもです……」

「女の子にならなくていいのよ。今はジェンダーレス? の時代でしょう? 陽輝くんだって見たいでしょ?和也ちゃんのドレス姿!」

 呼ばれて振り向いた陽輝。

「すみません。ご注文を先に」

「もークールねえ!」

「あと、ドレスは見たいです」

「え、何で?」

陽輝が表情を崩さないまま、グッと親指を立てる。ああ、これはテンションが上がっているときだ。

「とにかく、見るだけ見てみて頂戴。チラシ置いていくから」




昼のそこそこ忙しい時間帯を乗り切り、比較的ゆっくりした時間が流れている。エプロンのポケットがカサと音を立て、そういえばこんな紙をもらったな、と改めてウエディングフォトのチラシを見ていた時の事。

「興味あるのか?」

 陽輝が背後から覗き込んでくる。

「いや、何か楽しそうだなって」

「ふうん」

陽輝はそう唸ると、「行く?」と聞いてきた。

「でも、結構値段するし、今は資金貯めたいかなって」

「そうか」

すると、陽輝が「新嶋さん!」と厨房の店主を呼ぶ。驚きながら見ていると、店主が顔を出す。

「何だ!」

「和也のウエディングドレス姿が見たいんですけど!」

「ばあか! 頭沸いたか」




過程を説明すると、新嶋さんは「なるほどな」と唸った。

「時におまえら、何か式みたいなのは挙げたのか」

「式?」

「例えば、どこかに書類を出したとかもそうだ。そういう、区切りみたいなのが無いと、締らないだろ? 俺は案外いいと思うがな」

「新嶋さんて、意外とロマンチストなんですね」

「うるせえな。俺はな、お前らを孫みたいなもんだと思ってるからよ。心配なんだよ。金なら、俺が出してやるから」

「ええ! ダメですよ、そんな……」

「じじいの年金なめんなよ」

 新嶋さんは、にっと笑うと立ち上がり、住居エリアに消えていく。戻ってきた彼の手には、厚い銀行の封筒。

「……で、いくらだ」

「多いです多い!」

「ばか、全部はやらねえよ」

 その後何回か押し問答した結果、彼に支援してもらうことになった。ありがたいけれど、何だか申し訳ないな。




 そして、撮影当日。俺達は海辺にいた。

「和也さんと陽輝さん! せーの!」

 スタッフの掛け声に合わせて、俺と陽輝がジャンプする。パラパラパラ……とシャッターが切られ、確認の後、こんな感じでどうでしょうとカメラマンが俺達に聞いてくる。

「白いタキシードって、こういう時以外で着る事ないよねえ」

「確かに」

 陽輝とお揃いの服。何だか照れてしまう。映りを確認すると、俺の方が頭一つ高くジャンプしていて、何だか面白かった。

「俺、めっちゃ飛んでる!」

「こういうのも残しておくと、思い出になりますよ」

 スタッフに言われて、「なるほど!」と返す。

その後も、色々なポーズで撮った。気に入ったのは、赤い糸を使った写真。手元とバストアップの二枚撮ったんだけど赤いモールが『LOVE』の形になっていてかわいかった。

「では、恐らく枚数的に最後になりますが、何かやりたいポーズありますか?」

 カメラマンがそう聞いてくる。

事前に考えていたものは出来たし、俺的にはかなり満足だった。陽輝に「どうする?」と聞くと「じゃあ……」と彼は手を上げた。

「お願いします」

すると、スタッフがこちらへと駆け寄る。陽輝が何かを受け取った。何が起こるのかと戸惑いながら見ていると、赤い顔の彼と目が合う。真剣な眼差し。そしてゆっくりと片膝を付く。

「え……ええ!!」

思考より先に、心が理解した。この格好ってまさか……

「和也さん。聞いてほしい事が、あります」

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