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第2話 陽輝

俺の名前は。星空陽輝。高校二年生。正直人付き合いは苦手。クラスではそこまで目立たない方だ。ああ、それから……和也の彼氏。

和也は自分からクラスの輪に入っていくタイプで、距離感バグっているくらい近くて、それが少し心配。そんな感じだろうか。活発でみんなに優しくてかわいがられている和也が俺には眩しかった。

でも、最初から恋愛関係だった訳ではない。いつの間にか『他のクラスメイトといると、モヤモヤするな』と『ずっと一緒にいてほしい』と思うようになった。ある日、和也からチューしたいと言われて驚いた。俺もそうだと答えてキスをした。気持ちが通じているようで、嬉しかった。それがちょうど去年の今頃。夏休みの少し前のこと。夏休み開けの最初の頃は、クラスメイトに不思議に思われたけれど、堂々と見せつけるようにしていたら、いつの間にか公認になったようで誰も茶化してこなくなった。

下校時、分かれ道の前で名残惜しいのか和也が手を取り、身を寄せてくる。

「ねえ、ぎゅってして」

「うん」

小さな和也を抱くと、こちらは屈むことになる。すっぽりと収まる様子が小動物のようで、毎回庇護欲が湧く。もちろん邪な気持ちがない訳ではないが、彼が嫌がることはしたくない。

「へへ……じゃ、また来週!」

和也が分かれ道を駆けていく。と思ったら戻ってきて、頬にキスをする。

「今度こそ! また来週ね」

 キスされた頬を押さえながらにやけてしまう。こんなにもかわいい存在が恋人なんだ。

「あー……好き」

 彼との関係はいずれ互いの両親に話すつもりだ。同じ大学に入って、同じ会社に入るには、できれば親公認の仲になりたいからだ。うちの両親は厳しいし、認めてもらえるかはわからないが、早いうちに少し話をしてみようかな。




次の日の昼。リビングに母親がいるタイミングで、思い切って話を振ってみることにした。

「母さん。今度会って欲しい人がいるんだ。父さんも一緒に」

「陽輝。これ」

俺の声を遮るように、机にアルバムのようなものが置かれる。

「神奈川のおばさんの紹介……ほら、陽輝覚えてない? お庭でのバーベキューにもよく来ていた女の子。あなたにまた会いたいって、日曜日にわざわざ神奈川からいらしてくれるのよ。ねえ、見て?とっても立派なお嬢さんになって……」

アルバム……いや、見合い写真を俺に向け、母さんは幸せそうに笑顔を浮かべる。

「少し早いかも知れないけれど、いずれ必要なことだから」

「ごめんなさい……悪いけど、俺もう恋人がいる。黙ってるつもりはなかったんだ。今度紹介したいから、だからこの話は断って」

「陽輝。陽輝……」

ふと母さんの様子がおかしいことに気がついた。見合い写真にポタポタと涙が落ちていく。

「あなた……ね? 勘違いしてるのよ。だって、それって……あなたの言う恋人って、男の子でしょう?」

「なん……で、知ってるの」

「少し前、道で見たわ。とっても、仲がいいお友達なのね。でも、でもね? それは、恋愛感情とは違うものよ。多感な時期だから勘違いしているのよ。きっとそう」

「母さん……違うよ! 会えばわかるから。和也はすごくいい奴だから。」

「ねえお願いよ。母さん、あなたに幸せになって欲しいの。そんなの、うまく行くはずがない。後悔して欲しくないの」

「母さん……」

俺の手を強く握り、震え涙を流す母親を前に、それ以上話を進めることはできなかった。

「……わかった。でも会うだけだよ。直接話して断る。俺が好きなのは、和也だけだから……」




見合いはつつがなく進んだ。しかし誤算だったのは想像より相手の押しが強かったことだ。父親の会社の取引先の娘らしく、結局はっきり断ることが出来ずに会が終わってしまった。

 (和也は何をしているだろう。会いたいな)

見合いから帰ると、ふとスマホが無いことに気が付いた。パソコンもだ。

「母さん、俺のスマホが無いんだけど知らない?」

「ああ……解約したわ」

「は?」

「心配しないで。新しいものを用意したから」

「いや、そういう事じゃないだろ? 勝手に……」

「陽輝。明日から学校にも行かなくていい。転校手続きをとります」

「ちょっと! どういうことだよ」

「陽輝。お母さんね、あなたに幸せになってほしいの。みんなお母さんが準備してあげるから……大学を卒業したら、お父さんの会社に入って、あのお嬢さんと結婚してね……」

 その後は頭に入って来なかった。部屋に戻ると枕を殴り、ふて寝した。

起きてから、何とか和也に連絡をしなくては思い立った。スマホに入っているからと、電話番号は覚えていなかった。

「そうだ……SNS」

しかしログインしても和也のアカウントは表示されない。どうして。消してしまったのか、もしくはブロックされたのか……

「あああ……」

 だんだん事の重大さに気が付いた。連絡が取れない。これでは誤解されてしまう。直接彼の家に行くことも考えたが、俺は彼の家の位置アートを知らない。

「和也……!」

 その後、分かれ道から推測できる彼の家を探したが、結局見つけることはできず、時だけが過ぎていった。そして決意した。

「母さん。言われた通り大学には行く。父さんの会社にも入る。でも婚約はしない」

「陽輝……あのお嬢さんが嫌なのなら別の方を探してくるわ」

「違う。和也以外と結婚するなんて絶対嫌だ。もし、無理やり話を進めたら……死んでやる。俺は本気だ。それから、これから二人を親とは思わない」

 少し乱暴に話をすると、母親はまた泣いた。

「ごめん。でも俺の相手は和也だけだから」

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