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第6話

 わたしからの言葉に青年は大きく目を見開き、驚いたようにわたしを見つめていた。


 そうして、そんな自分の姿に気付いたのか、息をついて表情を解きほぐすと、話の途中、突発的にわたしの方へ踏み出していた右足に気付いて笑いながら元いた位置へ退く。


「なるほど、さすがに占いなどをして、他人の人生相談を手がけておられる者ですね。慰めがどうに入っていらっしゃる。

 ああいえ、悪意で言ったわけではありません。そう受けとられてしまったのであれば、謝罪します。

 わたしに対するあなたのお心遣いはとてもまっすぐに伝わってきました。実は、あなたはわたしの来訪をうとんじられているのではと、少々邪推をしておりましたので。少なくともきらわれているわけではないのだとわかって、心が軽くなった思いがします。


 ですが、言いわけがましくなりますが、残念ながらそういった評価を素直に受けとめるには、わたしは少々世間の暗がりを見すぎてしまっているんですよ。

 この十年でわたしはすっかり現実として起きた出来事やこれから起こり得ると納得できる出来事のみを信じる者となってしまって、父や母のように、そういった予言や世辞句などを鵜呑みにすることができないんです」


 それはそうだろう。でなければいくらわたしを思ってのことであれ、彼を襲った災いが母のせいではないときっぱり言い切るのは無理だ。この地を訪れ、再度同じ内容で占い直してもらおうなど、思いつくことすらできないだろう。

 この青年のように己の深部まで覗きこむことのできる人間に、わたしのような存在は不要なのだ。

 彼が苦境に陥ったとき、彼を救えるのは時間と彼自身の信念・勇気、そして全身で感じとることのできるたしかな愛情をそそいでくれる者。

 そう思い、わたしは彼を救おうとした自分を恥じた。自分の言葉で救えるのではないかと考えていた、自分の思い上がりに。


「では、イブの日に」


 帽子のつばに指を添えて会釈をすると、青年は去って行った。

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