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第6話

 朝の陽光を浴びて開花する花々のように意識が目覚めた。


 じっと膝上の両手を見る。大丈夫、もう震えてはいない。

 さあ対面だ。

 いくら彼が用心するべき相手とはいえ、けして不様な応対を見せてはいけない。


 まだわたしは十九で、ほんの若輩者であるのはどうしようもないのだから、熟練した占い師のように姿を見せただけで相手の意識を自分のペースにつかんでしまうようなことが不可能なのはしかたないけれど、それだけにしっかりガードを固めなくては、小娘と侮られて見くびられてしまうだろう。ましてわたしは希代の占い師・マリア=フォルストの娘。たとえ断るにせよ――いや、断るのならなおさらその名を傷つけるような言動にならないよう気をつけなくてはいけない。


 どんな不慮の事態に陥ろうとけして対処に惑ったりせず、常に確固たる態度で接した上で他の者にはおいそれと持ち得ない能力を持つというエスプリを全面に押し出し、できる限り威圧し、自らの意志で早急にお帰りいただき尚且つそのことでわたしに悪印象を抱いてタチの悪い噂をばらまいたり妨害を受けないよう上手に誘導する。


 はったりとひとの言う行為だが、占いというもの自体、ある意味はったりだ。


 当事者には知りえないことを告げたり予測するだけで事後確認もとらず料金をいただきその場限りとするのだから。そのくせわたしの場合、相手の生涯を無限に見通せるわけではないし的中率も完全とは言いきれない。


 さすがにこの距離では文句を言いにくる気力も失せるのか、言われたことはめったにないが、はたして二度と訪れない客の何人がそれに該等するかはあまり考えたくない事ではある。

 一応占いをする前にちゃんとそのことは断っているのだけれど……そう、やはり詐欺と違うところは、断りを前もって入れているところだろう。その上で、それでも見てもらいたいと相手に言わせなくてはならないのだから、詐欺よりも難しい。はったりは不可欠だ。


 それにしても、こんなに緊張しているのはどれくらいぶりだろう。把手に手をあてたまま、戸口の前で一度深呼吸をする。大丈夫、森の波動はまだわたしの中にある。それを確認するように自分のなかへ知覚の触手を巡らせて、そしてもう一度大きな息をつくと、わたしは戸を押し開いた。

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