月白大納言凍星奏上
女東宮におかれましてはご機嫌麗しく。
天恵人参栽培の件も、
さて、続きましては長い話になりますが、どうぞお読みくださいますようお願い申し上げます。
話は十年以上前、我が息六花が生まれた頃に遡ります。
六花は私ととある女性との間に生まれました。
我が
私たち三人は自然と仲良く育ち、大人になり、恋に落ちました。子も授かり、いつまでもこのような日々が続いていくものを思っていた矢先、知左が病死致しました。流行り病でした。
六花も生まれた頃から病弱でありましたので、私は腕の良い薬師を求め各地を探させました。
そして南の大宰府で
棕晨星は
私は棕晨星に酷く感謝し、望みを何でも叶えようと約束致しました。
それが数年前のことでございます。
棕晨星は王家の話を聞きたがりました。
私は知る限りのすべてを語って聞かせました。
虹霓国の成り立ちから神話、代々の王の話、そして前王の素晴らしき御世について。
棕晨星は感銘を受け、前王に献上品を差し出したいと申し出ました。
私はそれを承知し、前王に献上致しました。
お許しくださいとは申しません。しかし私は取り返しのつかぬことを致しました。
棕晨星の献上品は、前王陛下を呪詛する呪物であったのです。
幸いにして、呪物は発動しなかったのか、前王陛下は今年の春までご存命であらせられました。
しかしながらこの春、前王陛下が崩御なさったのは、この呪詛の
そして、
それが五雲国の者だともご存じであられたのです。
前々から虹霓国の王族は五雲国より呪詛がなされていたことを、女東宮はご存じでございましょうか。
前王陛下は
なんと二十年以上前からのことであるのだと、前王陛下は私にお話しくださいました。
そして、私にこうお命じになられたのです。二重間者になれ、と。
私の元に五雲国からの間者が入り込んでいたことを前王はご存じでございました。
それが棕晨星であることをも。
それ以来、私は棕晨星と前王陛下との間に立ち、どちらの動きも知らせて参りました。
前王陛下が崩御なさるまで、また崩御の後も棕晨星の動静を書き記しております。
別紙同封致しましたので、そちらも合わせてご確認頂きたく存じます。
春よりの数々の事件も、五雲国からの指図で棕晨星が手を回しておりました。
何でも五雲国の王は夢を渡る
そして棕晨星の元に、五雲国の王よりの使いが様々な形で訪れました。
棕晨星は私に毒蛇を内裏へ放すように命じました。
当然断りましたが、棕晨星は六花を人質に取りました。私が動かねば六花の命は無いと言うのです。棕晨星も六花を慈しんでくれていると思っていた私は酷く狼狽し、そのことを指摘しました。
棕晨星は最初こそ平然としていたものの次第に苦し気になり、涙を零しました。
聞けば五雲国の王に、故郷の村の者たちの命を盾に
虹霓国の王家を陥落せねば、村の人々の命は全て刈り取られるのだそうです。
そうして隠すことのなくなった棕晨星は、一層強く呪詛を行おうと致しました。
毒蛇を飛香舎に放ったのは私です。その代わりに呪詛を止めさせようと試みました。
しかし、棕晨星は従いませんでした。
そして呪詛だけでなく強硬な手段にでようと致しました。
棕晨星の言に従い、女東宮に毒を盛ったのは我が配下の浅沙という者です。
浅沙は六花の母親、知左の妹に当たります。六花にとっては叔母で、浅沙も六花をとても可愛がっております。六花のためならば命すら惜しまぬでしょう。
そして、覚悟も決めております。
棕晨星、浅沙、そして私月白凍星はこの文を以て罪を認め、女東宮の処断をお待ち致しております。
手を下すに値しないと思われましたらどうぞその様に。
我ら一同自ら幕を引きたいと存じます。
甚だ身勝手ではございますが、月白の家の者たちには何の咎もございません。
当主の私一人が為したことでございます。
どうぞ、息子たちには寛大な処置をお願い致します。
そして我らが消えた後も、どうぞ五雲国の影にはお気を付けくださいますよう。
我らの知らぬ所で五雲国の手は彼方此方に伸びております。
重ねてお気を付けくださいませ。
女東宮の益々のご活躍をお祈り申し上げ、この告白の結びとさせて頂きます。
年月日
榠樝は文を置き、目を閉じて後ろに引っ繰り返った。
壮絶な告白文だった。
「頭が破裂しそう」
だが目を回している場合では無かった。
早く手を打たねば手遅れになる。
榠樝は大きな声で
堅香子はすぐに飛んで来て、控える。
束の間躊躇ったが、掻い摘んで話せる内容でもない。
榠樝は月白凍星からの文を読むようにと堅香子に手渡す。
「驚くだろうが、決して、口には出さぬよう心得よ」
堅香子は頷いて文を受け取り読み進め、真っ青になって引っ繰り返った。
同じだな、と榠樝は思った。
目の前では堅香子が泡を吹かんばかりに慌てていて。榠樝は却って冷静になれた。
「状況は承知したな?ではここからが要件だ。黙って聞くように。反論があれば後程聞く」
堅香子は口を押え、こくこくと頷く。
榠樝は堅香子の耳に口を寄せ、そっと静かに囁き始めた。
途轍もない