「
「それぞれの家より、
陰陽師、
「断定は早計。もっと考えて」
「近頃貴方ますます以て生意気になりましたわね!」
堅香子が激昂し、
「人払いしない女東宮が悪い」
「それは、すまぬ」
段々といつもの光景になって来つつあるが、そもそも
ほぼ榠樝の主治医となった
紫雲英としてはあまり特別扱いを増やさぬ方が良いのではないかと心配している。
それはともかく。
「残るは四家。
紫雲英の台詞に堅香子は眉を寄せる。
「わたくしは本家の出でございますとはいえ、他家に嫁した母ですし……。これと言って思い当たる節もございませんし。そもそもからして藤黄の者は代々
相変わらず身内に点が
「しかしそう考えるとやはり藤黄にある私の欲しいものは堅香子、となるのかしらね」
「光栄でございますわ」
賢木が溜め息を
「だから簡単に答えを出さないで。
「ですから貴方女東宮に向かってなんて口を聞きますの!」
堅香子が今度こそ激昂した。
賢木は少しだけ声を険しくする。
「短気は損気。藤黄の出なら考えてみて。藤黄の誇るものは何?何があれば女東宮の利益になる?」
堅香子が怯み、山桜桃と紫雲英が顔を見合わせた。
「藤黄の強みと言えば
「
榠樝が
「確かに八〇年前の
「そんなことまで纏めておられますの?」
「あまり根を詰めない方がいい。貴方は無理をし過ぎる」
「そうですわ。足りない部分は私たちがお支え致しますから、どうぞもう少しお楽になさいませ」
賢木がぼそりと呟く。
「過保護」
「喧しいですわ!」
すかさず堅香子の怒声が飛んだ。
さて、
朝廷百官からの様々な声を直接に王に届ける役目をも担っている。
今は王では無く女東宮へだ。
政務の時間は
実際には寛ぐどころか色々頭を悩ませていて、休んでいる訳では無いのだが。
「
蔵人頭
榠樝の側近くで幾らか寛いだ様子の甥をちらりと見、微妙な表情で目を逸らせた。
甥ばかりか
紫雲英が女東宮に重用されれば。
引いては菖蒲の家の為になる。
ぱらりと書状を開いた榠樝は素早く目を通した。
右大将
榠樝は表情を改めた。
「清涼殿へ」
榠樝はすっくと立つと霜野に問う。
「
「は。まだ居られると」
「すぐ呼べ。話したい」
政務
「賢木、傍に控えていよ。そなたの意見も聞きたい」
「御意」
賢木も仕事状態に移行した。
となれば堅香子らは頭を下げて見送るしかない。
清涼殿の東庇には既に摂政の
「書状を読んだ。海のことにも構えたいそうだな」
「御意」
「征討軍の整備は進んでおるか」
「滞りなく」
「それだけでは足りぬか」
榠樝の声に少しの不安を感じたのだろう。南天は顔を上げ、少しだけ表情を和らげた。
「陸の備えは万全でも、我が国は海防が弱い。
南天の言葉に榠樝はふと引っ掛かりを覚える。
「
左大将
「流石は女東宮。お見通しですか。北の大宰府からの
「海賊」
「五雲国のものとも、どこのものとも知れませんが、島々を荒らして回っているらしく、近く我が国に至るかもしれません。無論、来ないかもしれませんが」
深雪が毎度の如く眉間に深い皺を寄せる。
「来るとも来ないともわからぬものに
だが、と深雪は続ける。
「余力が無くとも割かねばならぬ分だと存じます」
意外な言葉に榠樝も南天も深雪を見た。
「私とて武力を疎んじている訳ではない。無駄に民の不安を煽りたくないだけだ。だが、昨今の様子を見るに、無駄な備えとはならぬだろう。残念なことだがな」
南天も頷いた。
「そう。残念ながら。いつとはわかりません。ですが遅かれ早かれ必ず来る」
確かに過去幾度か、虹霓国は
いずれも
曰く、龍神の加護だとか、神風が吹いただとか。
古い話だけに正確な記録が残っていないというか、誇張された記録が正式な歴史として刻まれているので素直に読んでいいものか判断に困る。
沖に陣取った外国船団。そこを丁度よく大嵐が襲った。
大時化に見舞われた敵軍が海に没し大船団が全滅したとか、真とは思えぬような荒唐無稽な文章しか残っていないのだ。
「毎度龍神のご加護に頼るわけにもいかぬな」
榠樝は重々しく溜め息を
まったく、後から後から問題ばかりよくも湧いて出ることよ。
「海沿いの国府の兵ならば、船の扱いにも慣れていような。その辺りから徴発するのか。海防を手堅くとなれば砦を築くだけでは済むまい」
深雪と南天は顔を見合わせた。
「なんだ」
「いえ、随分と理解がお早いと」
榠樝は苦笑してみせた。
「そなたらの足を引っ張るばかりの女東宮では困るだろう。これでも日々学んでいる。東宮学士だけでは足りぬ故、
榠樝はきりりと宣言した。
「海の守りのこと、そなたらに任せる。疾く取り掛かれ。必要なものがあれば勅書を出そう。征討軍のこともある。重責だが、頼むぞ」
「御意」
深雪と南天は深く