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第44話 次なる星へ

  * * * * *



 二日後。往路と同じくDT44型降下艇『ホークビル』で、クロエたちは胡耀海の住む「穴」をあとにした。検疫センターでホークビルをクレイヴンに収容し、そのまま慣性制御装置を駆動させて衛星軌道まで上がる。


 ――星系内巡航速度に到達。ジャンプ・ドライブ異状なし。船内各種センサー、オールグリーン。


 ラウラのアナウンスがブリッジに響き渡る。艦と一体化しすべての情報を掌握しているラウラにとっては、口に出す必要もない情報だ。

 それでも数年に及ぶ艦隊勤務で身に着いた習慣は、彼女に口頭での情報共有と発令、復唱を怠ることなく繰り返させていた。


「うーん、やっぱり観光船みたいな感じになっちゃいますね、これ……」


「いいじゃないか、キビキビしてて。俺たちも乗ってるだけの客ってよりはこの方が、気合が入るぜ」


「ならまあ、良いですが」


 ラウラのそこはかとない愚痴を、リチャードが程よく受け止めて引き立ててやっているのが、妙に微笑ましい。クロエの印象では、二人は操縦技能のある軍籍経験者同士で、親しみを覚えあっているようだった。


 ブリッジ隅に急遽増設されたオブザーバー用の座席では、カスミが端末をコンソールに繋いで、作業に取り組んでいる。

 来るときに乗っていた貨物船は一足早く出航してしまったが、今はより高速のクレイヴンに乗り込んでいるのだ。いざとなったら直接原稿を届けられると、余裕と安心感を持って仕事をしているようだった。

 なぜ自分の立場についてそんなに楽観していられるのかは、クロエには理解できなかったが。


「いやあ……試験の後のあの、カンジさんの料理! 美味しかったですねえ……名前がちょっと文字にしづらいですけど」


「あー、うん。そうだな、『塩釜鶏』くらいにしておくのが無難だろう。使った素材的にも間違いじゃない」


「それはそうと、内容への検閲もう少し緩めてくれませんか。人名やなんかが軒並み『匿名Aさん』とかじゃ、あの試験の様子もろくに伝えられないですよ」


 クロエは離れた席でそっと頭を抱えた。自分の名前もやたらに露出されては困るし、どうもカンジは胡耀海からもなにか、現時点では明かせない依頼を受けたらしい。カスミに知られずに済ませたいが、それも難しそうだ。


 さて本命の「まるいの」探索はどう進めるべきか。次の目的地を絞り込むにはもう少し情報が必要だ。いくつかの星系に立ち寄って、そこのアーカイブに収められた植民・開拓史の記録を精査するのがよいのだろうが――


 ――フルソマ店長。それにクロエも。次の目的地と航路ですが……当星系Pr0188の治安機構から、本艦に要請が届きました。


「何だって……?」


 カンジがいぶかしげに聞き返す。

 クロエも思いだしていた。壺天への道中で戦った海賊船を中破させた後に連絡を取って、諸々の処理を任せたのが治安機構の巡視艇だ。


「なんて言ってるんだ?」


 ――M67散開星団に属する植民惑星『キーロウ03』との連絡が、途絶えたそうです」


(何、それ……)


 クロエは思わずごくりと唾をのんだ。恒星間の連絡とはつまり、星系間で情報や必要な物資を定期的に運ぶ『船便』のことだ。それが途絶えたということは。


「なるほど……この間の海賊――あれの同類がまだいるってことか?」


 ――はい。本艦は、定期航路の安全確保と、キーロウ03への最新情報アーカイブの配送を依頼されています。報酬は配送で五百万マルス。航路確保については、不審船の目撃情報もしくは撃墜ログに対して、総額で最高二千万マルスまでを星間信用通貨ギャラで支払うそうです。


「どうします……?」


「正直、報酬はしょぼいな。撃墜報酬が単価なら二千万は魅力的だったろうが、その場合は今度はリスクと負担が跳ねあがる。クレイヴンはいわばラウラの体そのものだ、安売りも無茶もさせられない。だが……」


 ――ええ。植民星にとって船便の途絶は死活問題ですし、私は現時点でも明確に宇宙艦隊士官としての責務を負っています。この依頼、引き受けましょう。


 そして、ラウラは少しデータベースにアクセスする様子を見せてから、再び口を開いた。


 ――それにキーロウ03は、既知の植民惑星の中ではかなり古い部類です。現地のアーカイヴには、なにか価値のある記録が残っているかもしれません。


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