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第26話 留守を預かるものたち.2

「……自分でも、驚いています」


 チーフはそう言って立ち上がると、再び三々五々と集まってきた別の住民たちに向かって手を振った。


「――慌てないで、まだ商品はたくさん用意してありますから!」


 住人たちがゆっくりと列を作って並び始める。チーフは応対を部下に任せて、再びカンジに向き直った。


「クロエ様の遇われた災難の話を聞いて、酷い治安の場所だと思ってましたが……案外みんな大人しいもんです。まあおかしな振る舞いをする連中は、初日に叩き出しましたが」


「うん。あれはまあ、本職の面目躍如だったよな」


「あなたには悪いが、あなたの間口の狭い店そのものよりも、このテントの方が近辺の治安に貢献している自負がありますよ」


「ああ。まあそれはそれでかまわんさ。出来ればこの地区にも行政の管理の手が戻って、老朽化する前に補修が行われて欲しいもんだが――じゃあ、また」


 そう言い残して、カンジは店の中へ消えて行った。クロエたちもその後を追う。ラウラが顔をわずかにしかめてカンジに尋ねた。


「話を聞いていましたが、ずいぶん突っかかってきたものですね……何者です?」


「ん、突っかかった? 誰のことだ?」


「今の、オリオン・フードのジャケットを着た連中の『チーフ』ですよ」


「ああ。まあこっちも皮肉を効かせたつもりだから、彼だけが礼を失したとは思わないね。まあ彼らはアレだよ、元はO.S.S.の実働要員だ」


「はぇあ!?」


 うわの空で聞いていたクロエは、思わず間の抜けた声を出してしまった。


「全然気づかなかった……!!」


「クロエは会ってるはずだぞ。ほら、トビアスCEOと和解した後、宇宙港まで君たちを迎えに行った追跡班だよ。あのチーフは、あの時のリーダーだ」


「ええ…うっそ」


 クロエは混乱する頭を懸命に働かせた――言われてみればそうかもしれない。だがあの時は、いかめしいダークスーツと目の部分をミラーグラスで覆ったヘッドセットばかりが目に入って、顔の造作などろくに覚えられていなかった。


「……それが何をどう回りまわって。何やってるのよ、あの人たち」


「そりゃ、君をまんまと取り逃がした失態を問われて、食らったわけだろう。案外馴染んでるようでよかったが」


(出向と、移動……?)


 そう口にした時、カンジの表情がわずかに苦々しげな影を帯びたように、クロエには感じられた。

 先ほどの話を思い出して、ラウラの方をちらりと窺う。だが、ラウラは何も聞かなかったように無言、無表情のままだ。


「あ、うん。まあいいわ。取りあえず私はこの端末を再設定するわね。店長、例の大型端末借りても?」


「構わん。その間こっちは、航海のプランを練るとしよう」



 やや照明を落とした、休業状態の店内フロア。カンジはリチャードとラウラの端末と自分のものをリンクさせ、その状態で星系の情報ネットワークにアクセスした。


「本当は奥の大型端末でやりたかったが……まあいい。クロエの作業には指紋とDNAの認証が必要だしな」


 各自の端末に銀河の一隅、オリオン渦状腕の星図が表示されると、 リチャードが画面に視線を落としてため息をついた。


「改めて見てみると、小さなもんだな。我々人類の進出した領域ってのは」


「そうだな。それでも範囲内には億を下らない数の恒星系がある。やみくもに探しても、『まるいの』を探し出すことはまず不可能だ。しかし――」


 カンジが端末を操作して、既知星系のデータベースを呼び出した。ざっと二千個ほどの恒星が固有名や分類番号で示された、長いリストが出力される。


「……これは、オリオン腕の中で人類がこれまでに足跡を記したことが記録に残っている、恒星系のリストだ。各星系に鉱物質の地殻を有する、着陸可能な天体が少なくとも一個は存在している、ということになる。よほど特異な条件が見落とされているのでなければ、『まるいの』はこのどこかにあるはずだ」


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