大容量のコンピューター・シェルに神経を直結して操作することに特化した、サイボーグの一種だ。
神経接続用の頑丈で大きな複合ケーブル束が、その形状から魚類や爬虫類の尾部のように見えることからそんな俗称がついた。関連業界や組織では実用化からごく短い期間で半ば公式名称として普及し、すでに本来の名称で呼ばれることはまずない。
「背中に、ハードシェル・バックパックみたいなものが装着されてるのが見えた。あれが多分、ケーブルの取り付け基部だろう」
「ふへぇ……体に機械をくっつけるのは別に珍しくもないが、うら若い娘がずいぶん思い切ったもんだ。それに一人ってことはあれだろ? 遭難や負傷の時、誰もサポートしてくれないってことじゃないか」
――ご心配なく。クレイヴンには修理用資材やドローンも十分な数を積んであるし、負傷したときは自力で必要な処置を取れるわ。
背後から声がかかる。クロエとラウラが戻ってきたのだ。
「
「おっと失礼。そりゃあ、何よりだ」
悪口でこそないが不在時の無遠慮な言及だったと、いくらか恥じてリチャードがそう応えた。
「……遅くなったが、こちらも自己紹介をしておこう。リチャード・アルマナックだ。仕入れや
あとを受けてカンジが、例によって不器用に笑顔らしきものを作って一礼した。
「カンジ・フルソマだ。よろしくお願いする」
「んっ……? ああ、いえ。こちらこそよろしく……」
一瞬ラウラがなにやら戸惑ったような様子を見せ、クロエはそれが妙に意識に引っかかった――二人にこれまで面識はなさそうだが、どうしたのだろう?
「クロエがお世話になったと聞いたわ、可愛い
「――ああ、構わない。お互いによく相手を知っておくほうがいいだろうしな。あり合わせのもので良ければ、俺が食事を用意しよう」
「……それは、期待させていただきますね」
なんとなくぎこちない空気をまとったまま、一同は連れ立って歩きだす。
リニアラインの客車に乗り込んだ後、クロエは後部座席の隣に座ったラウラに、そっと話しかけた――
(ラウラ。カンジさんと何か?)
(いえ、別に大したことじゃないのだけれどね……なんだか随分と妙な成り行きになってるなって。ねえクロエ、もしあなたが必要なら、私が保護して連れて帰るから、遠慮はしないでね?)
(ええ?)
思わず声が険を帯びる。
(ラウラ、なんでそんな話を今さら……?)
父とは一か月前にきちんと話をつけたはずだ。どうしてまたぞろ、家に連れ帰るような話が蒸し返されているのか?
(私の進路については、お父さんも了解してくれてる。だからこそ
(ああ、そういうことじゃないのよ、クロエ――)
ラウラはさらに声を低く落として、クロエに耳打ちした。
(あの彼、カンジ・フルソマ……同じ名前を、軍の情報で目にしたことがあったの。割と珍しい名前だから憶えてた)
(ええ? 軍にいたって話なら本人から聞いたけど。どこか問題が?)
クロエの言葉に、ラウラは少し驚いたように目を見開いた。
(本人から? じゃあ取り越し苦労なのかな……でもね)
ラウラはカンジたちの方をちらりと一瞥してから言葉を継いだ。
(彼が配属されてたのは降下機動歩兵部隊。その中でも一種の懲罰部隊として囁かれてた、札付きの中隊なのよね)
後で軍関連のアーカイブに接続して、もう少し調べてみる――ラウラはそう言って話を切り上げた。クロエは胸の中に氷を投げ込まれたような重苦しい気持ちにとらわれてしまい、リニアを降りるまで一言もしゃべらなかった。