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第23話 さぐりあい、宇宙(港).1

 ヒスパニック系の浅黒い肌色にくっきりした顔立ち。肉付きの薄いやせ型の体形――クロエはその士官服の美女に、見覚えがあった。恐る恐る声をかけてみる。


 「もしかして……ラウラねえ?」


「クロエ!?」


 次の瞬間、彼女は宇宙港ブロックの低重力を利して、横っ飛びに中空を移動してクロエにむしゃぶりついてきた。


「やっと会えたぁ! クロエ、クロエクロエぇ!! 久しぶりぃ……相変わらず可愛い……」


 息を荒げて頬ずりとキスの嵐を見舞う相手に、クロエは喜ぶどころではなくむしろ悲鳴を上げた。


「ちょ、待っ……折れる締まる! たったすたす助け……!!」


 ムエタイの首相撲よろしく首をおかしな形に極められて、生命の危険すら感じる。なんとかもぎ離そうとするが、褐色の細腕は信じられない怪力で、ガッチリとクロエをホールドしてしまっていた。


「あー、そのくらいで。クロエをかわいがるのはいいが、そのままじゃホントに絞め殺してしまいかねない」


 ――あらっ。


 カンジの呼びかけにはっと我に帰った様子で、美女は腕をゆるめて抱きついた相手を解放した。クロエはそのままそこにぐずぐずとへたり込む。


「おい、大丈夫か」


 駆け寄ったリチャードに助けられ、クロエは咳き込みながらどうにか体を起こした。 


「ラ、ラウラ姉……なんか昔より加減効かなくなってない……?」


「ああん、ごめんごめん……あんまり嬉しかったからつい、うっかり」


「うっかり、じゃないでしょ……」


 はにかんだ笑みを浮かべるラウラから、クロエが顔をしかめて数歩距離を取る。二人の間に入る形に動きながら、カンジが尋ねた。


「……それで、クロエ。この、みたいなご婦人は?」 


「……彼女はラウラ。私の母の従妹、つまり従叔母いとこおばです。成人してからは軍に所属してたはず――」


 紹介されたラウラは、自分の腕を怪訝そうにためつすがめつ見回し、「吸盤なんてどこにもないわよ」と小さくつぶやいた。


「ラウラ・シルバ・マルケスです。太陽系政府軍宇宙艦隊から、オリオン・コーポレーションズの特設警備艦隊に一時出向中、階級は大尉。あちらの――」


 優雅に敬礼したあといったん言葉を切り、大きく体をひねって背後に停泊した宇宙船を指し示す。


「エクセター級フリゲートI型三番艦『クレイヴン』の艦長を拝命した協調者コンソートです。以後、あなた方の調査行のを務めさせていただきます」



  * * * * * 



 クロエはラウラと共に、先ほど連絡をくれた荷物預かり所へ行った。宇宙船が運んできた貨物のうち、郵便物に類するものは全て、いったん預かり所でチェックを通ることになっているのだ。男たち二人はその間、歩廊で何をするでもなく時間を潰していた。


「……たまげたな。航路別チケットどころじゃなく、まさかフリゲートを一隻丸ごと寄越すとは。いや、予想外だったぜ」


 リチャードが着陸パッドの間近まで寄って「クレイヴン」を見上げた。

 軸方向に引き延ばされた七角形の船体は全長164メートル、全幅42メートルに、全高が28メートル。中型着陸パッドにドッキングできる、ギリギリのサイズだ。


「……だが、乗組員クルーも一緒となると少々気ぜわしいな。エクセター級だと二十人ぐらい乗り込むはずだぞ――」


「それだがな、リチャード。こいつは……それにさっき、あの艦長は自分を協調者コンソートと言った」


「ん、そういや何か言ってたな、そんなこと。クロエの顔を拭いてやってたもんで、注意がお留守になってたが」


「とするとあの船、多分彼女ラウラ一人で動くぞ」


「はあ!? ホントかそりゃあ!?」


 リチャードが目を丸くした。もう一度「クレイヴン」を見上げ、何かを思い出そうと必死に考えこむ様子だ。


「ああ……まてよ。I型か……I型な。以前小耳にはさんだことがあったような……そうだ、確か船自体を操縦者の拡張身体として機能させる、新方式の実験艦だとか……!」


「うん。おそらく彼女は『鋼殻竜人シェル・ドレーク』だな。制服をえらく着崩してたが、あれはファッションとかじゃない。んだ」

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