紗希と昇吾から向けられた、まるでこちらをうかがうような眼差しに、真琴は狼狽えていた。
自分がどのような反応を見せるのか、冷静に観察しているような目。
今まで向けられた試しなどない視線が、真琴の心を切り刻んだ。
(ああ、そうだったのね……)
思わず視線をそらした真琴の中に生まれたのは、果てしなく続く荒野にも似た空虚な感情だった。
自分が今まで積み上げた努力が、いったい何のためだったのか。紗希を蹴落とすためでも、昇吾と幸せになるためでもない。
真琴は、宮本真琴になることだけに、全てを捧げてしまった。
(お父様は、いいえ、総一郎さまは、この事実を教えるために今日のことをお命じになったのね……)
宮本真琴になれば、本当の自分が見つかると真琴は信じてきた。
華崎真琴でも、青木昇吾の恋人でも得られないもの。誰もが当たり前に感じているはずの、自分が自分であるという確証が得られる。
しかし、違った。宮本真琴になっても、自分は何物にもなれない。
宮本真琴になった後の事など、真琴は一度も考えたことがなかった。
真琴はあくまでも、宮本真琴になることが目的だった。そのためだけに、頑張り続けてしまった。
誰かに頼りたくても、縋りたくても、真琴の伸ばした手の先には誰もいない。だって全ては、自分一人だけのためだったから。
「私……は……」
呆然とする真琴の手を、時哉が引いた。長く暗いトンネルを、一瞬で通り抜けたような衝撃が真琴を貫く。
「真琴、帰ろう」
時哉に案内されるままに真琴は会場の外に出た。
そして宮本家の車に乗せられた。
「……どうして」
どうしてこんな自分を気にかけるのか。何故優しくするのか。
めちゃくちゃに当たり散らしたい気持ちになる真琴を理解しているかのように、時哉は優しく続ける。
「真琴。君は僕の妹だ。いいや……
「……え?」
湧き上がる疑問に真琴の紗希たちから意識がそれる。
宮本総一郎には、分かっているだけで娘が6人はいるという。真琴はその1人だ。
だが、今の時哉の言い方では、まるで他の娘が妹ではないとでも言いたげだ。
「どういうこと」
「僕らは正統な、つまり、
言われた内容をすぐには真琴は理解できなかった。妙なほど背中が寒い。冷や汗があふれ出ている。
「……それは」
「宮本家、その本家唯一の跡取り娘。宮本優珠。彼女が、君の本当のお母さんなのかもしれない」
時哉の声は真剣そのもの。しかし真琴は、本当に彼の言葉を信じてもよいのか、すぐには判断できず、ただただ押し黙るのだった。