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第4話 元悪女は、変化に挑む(2)



 宝石展示会から二週間が過ぎた。


 まるで、クラブのパーティー会場のようね。


 紗希はそんなことを考えながら、眼前の光景を見つめていた。紗希がもらったイベント会場では、あちこちで広告業界に携わる人間が、人脈を作ろうとひしめいている。

 自らの美貌を武器とする女性もいれば、誠実な話しぶりを評価してもらおうとする男性もいた。

 そんな中で、青木礼司は多くの人間に囲まれている。

 彼はその光景が、嫌いではなさそうだった。無理もない。彼にとって今のこの景色は、努力の末に勝ち取ったものなのだから。

 いかにも落ち着き払った態度をした彼は、昇吾には届かないが長身で、自身も広告塔になれそうなほど顔立ちが整っている。しかしどこか、焦りと影のようなものが付きまとって離れなかった。


 紗希は彼の姿を遠巻きに見つめ、機会をうかがった。


 チャンスは一度か二度くらいだろう。礼司と話をしたい人間は大勢いる。礼司を通じて昇吾を狙う人間。礼司が持つ広告関連の人脈に加わりたい人間。

 それらの中で、紗希が接触できるチャンスは多くはない。

 いつなら良いかと考え込んでいた紗希は、ふと視線を感じた。


「こんにちは、紗希さん。莉々果さんは一緒じゃないんですか?」


 いつの間にか、礼司が傍に来ていた。紗希が視線を合わせると、礼司が微笑む。

 彼にとって紗希は兄の婚約者だ。多少気やすい声掛けをしてきたところで、咎める人間はいない。


「莉々果はちょうど、生放送の最中なの。自分の本チャンネルの」

「ああ、そっか……」


 彼の様子に、紗希は話の糸口を見つけた感覚に襲われた。


「もしかして、莉々果に会ってみたかったのかしら?」


 礼司は頷き返した。


「ええ。日本でも数少ない、世界規模でトップの配信者ですからね」

「なるほどね」

「……あの。こんなチャンス、なかなかないと、自分は思っているんです」


 思わせぶりに首をかしげて見せた紗希に、礼司は笑みを深めた。


「だってここは、ビジネスの場ですよね。紗希さんに会うには、どうにも、ええと、兄さんと会うタイミングじゃないと会えなくて……」

「ああ。そうよね、未来の義姉として会うのと、同じビジネスにかかわる人間として会うのは、全くの別だわ」


 うんうんと何度も頷いた礼司に、紗希はこれまでと違った印象を抱いていた。当然かもしれない。紗希も、礼司と会う機会を得るのはごくわずかで、ビジネスではなく、将来の義理の弟として会った経験しかなかった。


「そういえば、紗希さんはまたどうして、莉々果さんとの共同チャンネルを運営なさっているんですか?」

「莉々果とは中学からの同級生だったの。それで、彼女にチャンネルの話を持ち掛けたら、意外と乗ってくれたのよ」

「ええっ! そんな偶然が?」


 目を見開いた礼司が、素直に驚く。紗希は不思議と、彼が想像とは違う、話が分かる人間のような気がしつつあった。

 これなら、聞けるかもしれない。


「ねえ。華崎真琴さんとは……礼司さんも、親しいの?」


 紗希はついに、そう尋ねたのだった。






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