宝石展示会から二週間が過ぎた。
まるで、クラブのパーティー会場のようね。
紗希はそんなことを考えながら、眼前の光景を見つめていた。紗希がもらったイベント会場では、あちこちで広告業界に携わる人間が、人脈を作ろうとひしめいている。
自らの美貌を武器とする女性もいれば、誠実な話しぶりを評価してもらおうとする男性もいた。
そんな中で、青木礼司は多くの人間に囲まれている。
彼はその光景が、嫌いではなさそうだった。無理もない。彼にとって今のこの景色は、努力の末に勝ち取ったものなのだから。
いかにも落ち着き払った態度をした彼は、昇吾には届かないが長身で、自身も広告塔になれそうなほど顔立ちが整っている。しかしどこか、焦りと影のようなものが付きまとって離れなかった。
紗希は彼の姿を遠巻きに見つめ、機会をうかがった。
チャンスは一度か二度くらいだろう。礼司と話をしたい人間は大勢いる。礼司を通じて昇吾を狙う人間。礼司が持つ広告関連の人脈に加わりたい人間。
それらの中で、紗希が接触できるチャンスは多くはない。
いつなら良いかと考え込んでいた紗希は、ふと視線を感じた。
「こんにちは、紗希さん。莉々果さんは一緒じゃないんですか?」
いつの間にか、礼司が傍に来ていた。紗希が視線を合わせると、礼司が微笑む。
彼にとって紗希は兄の婚約者だ。多少気やすい声掛けをしてきたところで、咎める人間はいない。
「莉々果はちょうど、生放送の最中なの。自分の本チャンネルの」
「ああ、そっか……」
彼の様子に、紗希は話の糸口を見つけた感覚に襲われた。
「もしかして、莉々果に会ってみたかったのかしら?」
礼司は頷き返した。
「ええ。日本でも数少ない、世界規模でトップの配信者ですからね」
「なるほどね」
「……あの。こんなチャンス、なかなかないと、自分は思っているんです」
思わせぶりに首をかしげて見せた紗希に、礼司は笑みを深めた。
「だってここは、ビジネスの場ですよね。紗希さんに会うには、どうにも、ええと、兄さんと会うタイミングじゃないと会えなくて……」
「ああ。そうよね、未来の義姉として会うのと、同じビジネスにかかわる人間として会うのは、全くの別だわ」
うんうんと何度も頷いた礼司に、紗希はこれまでと違った印象を抱いていた。当然かもしれない。紗希も、礼司と会う機会を得るのはごくわずかで、ビジネスではなく、将来の義理の弟として会った経験しかなかった。
「そういえば、紗希さんはまたどうして、莉々果さんとの共同チャンネルを運営なさっているんですか?」
「莉々果とは中学からの同級生だったの。それで、彼女にチャンネルの話を持ち掛けたら、意外と乗ってくれたのよ」
「ええっ! そんな偶然が?」
目を見開いた礼司が、素直に驚く。紗希は不思議と、彼が想像とは違う、話が分かる人間のような気がしつつあった。
これなら、聞けるかもしれない。
「ねえ。華崎真琴さんとは……礼司さんも、親しいの?」
紗希はついに、そう尋ねたのだった。