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ミッシングリンク X アンラッキースケベ
風信子 紫
異世界ファンタジー冒険・バトル
2024年07月09日
公開日
51,733文字
連載中
親に過度な期待をされ、勉強に明け暮れる日々の高校生、深谷 遼。
彼はある日、歩道橋から飛び降りた少女と衝突し…スカートに押しつぶされてパンツの中で窒息死してしまう!
そんなラッキースケベに殺され、訪れた、死後の世界──情けない死を遂げた遼に、神アメノは激怒した。
「生命への冒涜である」と。
生命とは……個々が自由に最期まで生きることで、種の進化に繋がるのだから、と。
そこでアメノは、罰として異世界に行くことを遼に命じる。

”──異世界の生命の進化の礎となるのだ”と。

”──そして、ミッシングリンクを食い止めるのだ”と。

しかし、遼にはそんなこと、どうでもよかった。

自分を殺した少女のパンツの感触。
それは遼の秘めたる自由意志を目覚めさせる。
もっと、女の子に触れたい、と。
そうして彼は、異世界でハーレムを作ることだけを念頭に置くのだった。

不運にも、あるいは幸運にも、少女のスカートに──パンツに殺され、新たに開花した性癖。
そして目覚める異能力。

ラッキースケベは遼に幸福を、あるいは苦難を与え──あるいは異世界を救っていく。

◆プロローグ

 結局のところ。

 父に施されたエリート教育など、意味を為さなかったらしい。

 幼い頃から、医学を叩きこまれた。ならば、どうして──死者であるはずの俺が五体満足で生きているのだろう。

 幼い頃から、生物学を叩きこまれた。ならば、どうして──目の前に未知なる生物が立っているのだろう。


「イヒッ、キミの死に方ダサいかも~」


 何も無い白の世界で、目の前のそいつは喋った。人型であることは確かで、150cmくらいの、赤いミドルヘアーの女の子のようだが──おでこの辺りにツノが生えている。緑色のシッポが生えている。ぱっと見で形容するなら、女ドラゴン……いや、ドラゴン娘?

 いや、それより。


「……何故、君は裸なんだ」


 その人に似た変な生き物は一糸纏わぬ姿だった。俺は素直に問うてみる。


「なんでって、キミ、ヘンかも。そりゃ、神様だからに決まってるかも~」


「神……? 神は百歩譲っていいとして、何故、神が全裸と決まっている?」


「いやいや、マンガとかゲームとかいう創作物で、ヒトが勝手に神の服装コーディネートしてるだけでしょ? 神、みたことないくせに」


「……」


「神は服など着ないかも」


「…………」


 確かにそれはそうだった。何故だか俺の頭の中の神とは、人間の見た目をした美少年や美少女だが──目の前のこいつも美少女ではあるのだが、置いておいて。それは、俺の経験と理想が入り混じった虚像でしかない。

 故に、神の実体とは全裸の美少女、であってもおかしくないのだろう。

 ……本当におかしくないのか?


「ひとまず、全裸の件はいいだろう」


 だが俺は納得して頷いた。別に悪い景色でもないしな。彼女、貧乳に属する胸ではあるが、健全な男子としては、目の保養だ。むしろ、貧乳は俺の琴線を刺激している気がする。


「普通疑うなら神の存在自体かも」


「百歩譲っただけで、疑ってはいるさ。ただ──俺は、死して尚、こうして蘇生したことで、諦念してもいる。俺の生きてきた世界など、常識や知識といった偏見でできていたことをな」


 父親に強制されてやっていた勉学とは、一体なんだったのだろう。


「なるほど。キミ、少しはおもしろいかも。だから、異世界に行くことも受け入れた」


「あぁ──え、いや、待て。異世界? それは飛躍しすぎだな」


「え──はぁ……やっぱり話の分からないヤツかも」


「いや俺が悪いのか……?」


 神はいわゆるジト目というやつで俺を見つめている。それから少しして、気怠そうに咳払いをしてから、言葉を紡いでいく。


「キミが諦念した──ううん、まどろっこしいのはやめるかも。キミが父親のマリオネットとして生涯を遂げた世界とは、文明も文化も異なる世界。キミには、そこに転生して、世界の変遷を目指して欲しいかも」


「世界の変遷?」


「そうかも。生物とは、環境に適応しようと、進化する。あるいはそれは、生存競争で優位に立とうとするために。そして、生存競争に優位に立った生物こそが、世界を創り上げていく」


「いわゆる進化論だな。神の口から聞けるとは思わなかったが」


「その進化の価値観はあくまでキミの世界基準かも。神が創造した世界には、様々な、ありとあらゆる可能性があるかも」


「なるほど」


「ただ──」


「ただ?」


 俺がそう訊き返すと……。


「キミらヒトはなんという生物じゃバカタレ! かも!」


 ゴツっと、頭を拳でぶん殴られていた。


「な、何故殴る⁉」


「いいかも? ”自死”を選択する生物はキミらだけ! 確かに、生物とは、絶対に死ぬ。それくらいは、何故だか分かるかも?」


「え……生命の源であるDNAが傷つくのが避けられないから……か」


「それで?」


「……あぁ、傷ついたDNAは、子孫に引き継がれる。その子孫が、仮に、受け継いだDNAと更に交配をすれば──さらに傷は蓄積される。つまり、種の存続が危ぶまれるということだ。故に、長い時間生命活動を行ったDNAは──死ななければならない。種が生きるために、死ぬんだ」


 3歳くらいの時に親父に読まされた生命科学の本で学んだことを、俺はそのまま言った。 すると……。


「何故それが分かってるのに自分から死ぬのかもーーー!!」


「ぐぉっ!」


 今度は神から飛び膝蹴りを喰らった。神も飛び膝蹴りをするらしい。俺は咳き込みながら、蹴られた腹を押さえる。


「げほっ! げほっ! 待て……なんだこれは……」


「キミらヒトが、遺伝子に瑕疵の無い状態で”自死”を選ぶバカモノだからかも!」


「ま、待て待て! 俺は自ら死など選んでないぞ! むしろ自殺しようとした女の子を助けようとして、不慮の事故で死んだんだぞ⁉」


「何を! あぁ……俺は──ラッキースケベで殺される……ふっ、それも悪くないか……などと思っていたではないかも! クソダサイかも!」


「いいだろうが別に! ダサいことを否定するつもりはないが、死ぬ間際に何を思おうが!」


「神に逆らうなかも! 三枚おろしにして地獄に落とすぞコラ!」


「怖いなおい!」


 神が人間を創造したのならば、神も人間らしい……なんて言葉があるが、とにかく横暴な存在ではあるらしい。ビシっと立てられた指を向けられる。


「そこで! クソダサイ死に方で、生命を、生物の進化を冒涜したキミには、異世界で償って貰うかも!」


「償うって……」


 俺は、パンツに殺されただけなのに。


「そりゃそうかも! 優秀な遺伝子の分際でセックスもせずキミは死に晒したんだから!」


「褒めてるのか貶してるのか分からないな、それ」


 優秀な遺伝子、か。しかしそれこそ、父に遺伝子操作されたようなものだ。勉学においては人より秀でているが、父の言いなりになって、やっていただけなのだからな。


「だから異世界に行って──そこも、進化を履き違えた生物が生存競争を勝ち抜いこうとしてるかも。文化や文明はキミの世界と違えど、ヒトと同じように」


「……償うといっても、その異世界とやらで、俺は何をすればいい。世界の変遷、とか言っていたが」


 俺がそう言うと、神はニヤリと口角をあげて。


「ミッシングリンクを──阻止するかも」


 卑しさが同居する笑顔で、そう言った。


「ミッシングリンク……」


 その意味は、知っている。俺の世界の言葉と、一致するかは不明だが。


「まあ、世界の変遷といっても、難しく考える必要はないかも。キミの好きなように、生きるかも」


「自由……?」


「生物は、自由のために、生きる。そして、更なる種の自由のために、死ぬ。だからキミの生きたいように、生きるかも」


「償うにしては、安すぎる気もするな」


「じゃあ、キミはあの世界で──自由に生きたかも?」


 そう言われて、俺は言葉を失った。確かに、それはそうだ。


 自分の意思で、自由に生きること──それも案外、難しいことなのではないだろうか。


「自由、か。なるほど」


 月並みに言えば、レールに沿った人生を歩んできた。

 毎日遅くまで塾に通い、無気力に勉強して、無味乾燥な学校生活を送ってきた。異世界ではあれど……第二の人生をそこで、自己中心的に生きるというのも悪くない。

 神様が、それが人間の──生物のあるべき姿だと言うのなら。


「目標は、定まったかも? それならすぐに、転生させるかも」


「あぁ、俺は──」


 俺は、眦を決して。


「異世界でハーレムを作って生きる! 死んではしまったが……あのとき女の子の体を、パンツの感触を、匂いを初めて感じ──俺は、最高に興奮した」


 そう、豪語した。


「…………きっしょ」


「ストレートな悪口やめろ! 俺の好きなように生きていいと言ったのはお前だ!」


「まあいいかも。きしょいけど。じゃあ──」


 神が、俺に距離を詰める。身長差は20cmほどあるものの、吐息が重なり合うほどに。

 そして。


「盟約──キミに生命の代弁者の役を与える。濫觴なる生命となり、死の螺旋を阻害せしミッシングリンクの開闢を、自由ハーレムを以って防ぎ、償うことを、ワタシ──アメノに誓う」


 呪文めいたものを、口にすると──ピンとつま先立って、自らの唇を、俺の唇に押し当てた。柔らかな感触が、唇から全身に伝播する。この口付けに、なんの意味があるのか──それを思案する時間すら奪うように、それは激しさを、熱を増した。

 いつしか、粘膜が触れあっていた。いつしか、温かい液体が流し込まれていた。

 そして──。


「……っっ!」


 俺は、身体の内から燃え上がるような熱さを感じた。そのタイミングで、神──アメノは俺から距離を取った。

 熱い、とにかく熱い。今にでも、気を失いそうだ。

 それから俺が覚えているのは……。


「イヒッ、生命に死を齎すこととなった”性”で、世界に変革を起こせるのか。キミに賭けるかもっ」


 妖艶に唇を拭う、アメノの姿だけだった──。

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