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第十二話 ウィルの弱点

 その理由は、ウィルの幼少期の性格である人見知りから始まる。

 家族と共に社交場へ連れられた幼きウィルは、大人のウィルでは想像もつかない大人しい性格。

 その上、外見も女の子っぽい可愛らしさがあった。


「ほら、ウィル……。隠れないで、ちゃんと挨拶しなさい」

「うぅ……」

「あらぁ、人見知りかしら?」

「すみません。この子、昔からこんな感じの恥ずかしがり屋で」


 男女問わずに大人が子供の目線を合わせて話しかけようとしても、必ず隠れ決まっているポジションが母親の後ろだった。

 だが、そこから女性だけが苦手対象になるのは、もう少し大きくなり学校に通い始める頃から。

 今度は、人見知りとは違った方向へ苦手意識を持ち始めてしまう。


「ウィル様だわ! カッコいいよねぇ……」

「……」

「あっ、こっち見てるのかしら?」

「あぁ~一度でもいいから、彼とお付き合いしてみたいなぁ」


 成長するにつれてクールさが増し帯びた外見に対し、同世代の女の子はともかく少し離れた年上の女性たちでも大人気で憧れの的。

 だが、彼女達の視線には、まるで自分のモノにしたいと獲物を捕らえようするような狩りの目にしか見えない。

 本人にしかわからない女の子との接し方の解釈に、他の男子は苦笑い。

 特に印象に残っているのは、当時思春期の真っ只中のウィルに起きた、ある友人の誕生日パーティーで呼ばれた時を例に掲げる。


(……)


 同じ年頃の女子達に見つからないよう、ウィルは軍人のように左右確認しながらこっそり屋敷の裏口から入ったところまではなんとか辿り着けた。


(左右確認良し……。今なら誰も外にいないようだな。おっ! 良いタイミング! アイツがそこにいるじゃん)


「おーい! 俺、ここにいるよ! 反応してくれ」


 予め自分で立てた作戦通り、複数の男性友人達にこっそりと口パクのように呟く。

 他にも視線を送って目配りして反応を数分待っていると、二、三人がウィルの存在に気づき始める。


「おぉ、こっちこっち!」

「今なら、来てもいいぞ」


 彼等もウィルと同様な動作をしながら、密かに手招きをしてタイミングを計ってから会える。

 ようやく会うことが出来た友人達の元へ駆けつけたウィルは、こうして成功を喜ぶ。


「はぁ~……、待たせたな」

「いやぁ、よく来たねぇ! ウィ……」


 安心してひと息をついて気楽に談話が出来ると思いきや、周りはそれを許してくれなかった。

 誘導した友人の内の一人が話しかけようと試みる瞬間。


「あっ! あそこにウィル様がいるよ!」

「え? 嘘⁉︎ どこ……? あぁー! 本当だ! いつの間に招待してたのね!」

「あっ、ヤベッ!」


(ゲッ! しまった! もう見つかったのかよ……)


 一人の女性が、その場を目撃をする。

 その女性は同じ学園内の違うクラスに所属する同級生で、ウィルのことが大好きな追っかけファンの一人である。

 彼と話したいが故、彼女を筆頭に他の女性陣が集団で迫り寄ったりなど必死に追いかけてくる。


「まぁまぁ、皆、落ち着いて。ほら、ウィルにそんなことしたら嫌われちゃうよ……? ね?」

「えぇ~、良いじゃないのぉ~! アンタ達だけで普通に喋っててズルいわよ! 私達も混ぜなさいよ」

「そうよ! 私も入れて!」

「「私も!」」

「や、やだ。もう、やめてくれぇぇぇーーーーーーーー!」


 その状況に絶叫を上げる程、ウィルは酷く嘆く。

 傍にいた友人達が責任を持って盾に守り、言い訳してもらいながら常に逃げ続けるしかない。

 その積み重ねから名前を呼ばれるだけでもビクッと身体が自然と怯え、より体格がしっかりした男性の後ろや目立たない建物の壁などに隠れたりしてしまう。


(俺自身は克服したいけど、女がグイグイと迫って来たりズカズカと前に出て来られるのが一番怖いんだよ……)


 人気者である彼の悩みを唯一、家族以外の中で理解しているのが、赤ん坊の時から知る執事のジェフのみ。

 ウィルとジェフとの関係は、海よりも深く時も長いからこそお互いが信頼し認め合いながら上手く出来る関係だ。


「もう、良い。あとは、彼女からの手紙がここへ持ってくるのを待つのみだし。ジェフ、自分の仕事に戻ってくれ」

「はい。では、私はこれにて失礼します」


(ふふふ。相変わらずこういうところが、まだまだ子供なところですねぇ。坊ちゃん)


 顔を人に向けられないぐらい逸らして、頬が真っ赤になるぐらい恥ずかしがるウィル。

 そんな彼を見ながら物凄くニコニコとスマイルを向けてお辞儀をしたあと、ジェフは書斎室から退室をした。



(ふぅ……。とりあえずは予定通りに、計画をなんとか一歩でも進めたか……)


 ウィルは、ジェフが部屋から出ていく姿を見送った後、振り戻って書斎の窓にもたれ掛かりながら夜空を眺める。

 夜になると星や月を眺めるのも、彼に安らぎを与えるひととき。


(フシハラユリコ、だったか。あの日、彼女を一瞬触れた時……)


 初めて彼女を目にしたあの日を見た瞬間、何かを感じたのだろう。

 心を落ち着かせるために、木製デスクの引き出しからシルク布で丁寧に包まれた「あるモノ」を取り出す。

 百合子との出会いを浮かべながら、そっと記憶の中に映り残していた当時を振り返る。

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