密談をするにあたり、いきなり三つ星ホテル『ノクテュルヌ』の部屋は空いていないだろう——そう思っていたが、エリカの見通しは甘かった。すでにベルナデッタが何日も前から予約を取っていたのだ。
「ノルベルタ財閥が一週間に数回、必ず部屋の予約を取っているの。いろんな密談に便利だし、お得意様との商談もはかどるから。お、お姉様のためだけに予約を取っていたわけじゃなくって、私、そこまで重い女じゃないわよ!?」
ベルナデッタの慌てぶりは意外にも可愛らしい。しかし彼女はツンデレではないので、エリカはただただ慌てるベルナデッタの頭を撫でてやる。
今日案内された部屋は、森林の中の温室テラスだった。夕暮れではなくまだまだ日が昇っていて明るい、どこかもっと西の涼しい地方にある場所なのだろう。ついさっきまで都会の真ん中にいたのに、今は森林浴をしながら、温室で優雅にティータイムを堪能できる。まさに魔法道具あっての豪華なもてなしだ。
ただし、そこでの密談の内容は、都会ならではの問題を取り扱ったものだった。
「『
ベルナデッタの驚きの叫びは、近くの木の枝に留まっていたヒヨドリたちを飛び立たせた。
エリカは淡々と、しかし内容を——ミニゲームの法則に従って薬を開発しようとしている、などと白状するわけにもいかず——説明するには専門的すぎるため、要約して話す。
「厳密には違うけど、とりあえずそう思ってもらって大丈夫よ。とにかく、『
この世界の『
だが、彼らを排除せずに、『
ベルナデッタは詳細こそ把握しておらずとも、その影響を推測できる。そのため、エリカの理解者としては十分すぎるほどの好反応を返した。
「お姉様は本当に、誰も彼も助けてしまいたいのね。呆れたわ!」
「だよね(あなたもそうでしょう、とは言えないけれど……)」
「でも、そうでないと私も協力しないわ。お姉様の考えは正しい、『
鼻息荒く、ベルナデッタはエリカの行動に賛意を示す。それだけでもエリカは嬉しくなるが、ベルナデッタは思い出したようにある重要な情報を語りはじめた。
「うちの魔法道具の開発部門に、『
「気になること?」
「ええ。『
——おおう? 新発見!?
エリカは思わず、摘んでいたティーカップをテーブルへ落としそうになった。
『
「じゃあ、『
「その人曰く、そうらしいわ」
「つまり、その血統にかけられてきた『
「その可能性も否定はできないけれど、まず大丈夫だって言っていたわ。普通は『
エリカは「なるほど」と頷く。確かに、死をもたらす『
——抵抗力?
——人体が『
あたかも、それは流行性の病気にかかった人間が抵抗力を獲得するのと同じ現象だ——であれば『
もし、その血液を調べることができれば、
エリカは、そのひらめきを見逃さなかった。
「これはひょっとして、突破口になるんじゃないかしら」
「本当!?」
ベルナデッタは嬉々としている。自分の働きが実を結んだ瞬間、彼女はとても素直になる。
「今すぐ、血液のサンプルが欲しいところだけれど、代々何度も『
「うーん……ひとまず、候補を絞っていくってことでいいかしら。安心してお姉様、私のほうで目星をつけておくわ!」
「お願いね、ベル」
「任せて!」
ベルナデッタが次の行動に移ろうと考えを走らせはじめたそのときだった。
立ち上がりかけたベルナデッタが、何かを思いついた。
「あ」
だが、その表情は浮かない。きっと、思いついたことが必ずしもいいことばかりではないのだ。
案の定、ベルナデッタは申し訳なさそうな顔をして、エリカへおずおずとこう言った。
「お姉様、その、今思いついたのだけれど、嫌な予感が」
「ごめん、そうだろうと思った」
ヒロインの嫌な予感など、当たる気配しかしない。エリカはそれがどうかマシなものでありますように、と祈ることしかできなかった。
ベルナデッタは、意を決したように、思いついた内容を語る。
「アメリー・アルワインなら、どうかしら? アルワイン侯爵家なら、何度となく『
こんなところで、アメリーに接触する必要性が生まれてしまうなんて、誰が想像できただろうか。これもまた、