(もし『ノクタニアの乙女』世界にそぐわないものを作って、まったく違う未来を作ってしまったら、私がシナリオを知るアドバンテージが失われちゃうし……少なくとも、私やゲームに登場するキャラクターが生きている間は世界観を壊さないようにしないと)
そこは気を付けつつ、エリカはベルナデッタのためにもと散々にやらかしているのだった。
ようやくベルナデッタの興奮が落ち着いたところで、晴れてきた青空を映す天井ドームのガラスを眺めつつ、エリカとベルナデッタは二人きりのお茶会をやっと始める。
ほどよく冷めた美味しいお茶、甘いふわふわの美味しいお菓子の山、それに他愛ないおしゃべり。本来お茶会を構成するのはそういうものではないのか。
(ああ、これがお茶会よね。うんうん、楽し〜い)
こんな役得があってもいいと思う、いや、あるべきだ。エリカとて、そんな気持ちにもなるのだ。
ただ、ちょっとだけ気になることもあった。
「そういえば、ベルは最近忙しいのよね? 何か変わったことでもあった? それとも、単に仕事が増えただけ?」
前回、ベルナデッタとお茶会をしたのは大分前のことだ。エリカの勤め先であるルカ=コスマ魔法薬局にベルナデッタがやってくることはよくあるが、大抵はエリカへ種々の報告と用件を伝えに来るだけで、ゆっくりしていくことはない。世間話の暇さえないことも少なくない、それゆえに実はお互いの近況はよく知らなかったりする。
ベルナデッタは今までの穏やかな笑顔が一変、ハッとして、舞台女優も真っ青とばかりに嘆き悲しみはじめた。
「よくぞ聞いてくれました! お姉様、私」
どうやら、ベルナデッタはそれを聞いてほしかったらしい。世間話からの、急転直下の本題突入だった。
「知らない間に恋のドロドロ三角関係が生まれていて、本当落ち込みそう……」
「ええー……?」
大きなため息を吐いてから、ベルナデッタは指折りつつ、順序立てて話す。
「まず、エルノルドとアメリーについて調べはついたわ。それで、アメリーのほうだけれど……婚約者がロイスル、トネルダ伯爵家次男だったの。呪いの大家、トネルダ伯爵家に厄介払いのように嫁がされるということもあって、今はアメリーもそれなりに自由に動けているようだけれど、エルノルドとの関係が知れれば、どうなるか。恋仲ではないとしても、男女が密会しているようなものでしょう? 外聞はとても悪いし、弁解の機会が与えられるとも思わないのよ」
確かに、とエリカは真顔になった。未婚の男女が、たとえ商人と協力相手という商売上の間柄だったとしても人目を避けて会っている時点で何事かと疑われるものだ。それは前世も今も変わらぬ常識であり、むしろ彼らがノクタニア王国の貴族である以上、より人の目は厳しくなる。
もしアメリーの婚約者であるロイスルにこの情報が知れれば、アメリーは今までのように生活することはできなくなるだろう。婚約破棄、あるいは結婚を強要される、そのどちらにしてエルノルドが非難される。さらには、エリカとエルノルドの婚約にだって影響は出かねない。それだけならいいのだが、貴族社会では醜聞を足がかりにあちこちから引きずり降ろされ、あれよあれよという間に家ごと没落させられることなど日常茶飯事だ。そうなればニカノール伯爵家だって危ないし、いい加減貧乏なサティルカ男爵家など吹けば飛んでいきかねない。
(あれ? これってけっこう、まずい状況? エンディング以前に、私が大変?)
今更ではあるが、エリカは手に職を持っているだけマシである。いざとなれば平民として魔法薬調剤師を続けられるのだから。だが、実家の危機は少々見過ごせない。エリカの父と母は善良な人々だし、あの叔父ルーパートにサティルカ男爵家を渡すのは癪に触る。
ところが、さらにまずい状況の証拠がベルナデッタの口から飛び出してきた。
「しかも、エルノルドは私と今度食事でも、なんて誘ってくる始末だし……もちろんお断りしたわ! 私はお姉様の婚約者を奪うような真似はしないもの!」
ベルナデッタはプンスカ怒りつつ、エリカをとても気遣う。
いや、そこではないのだ。エリカが今、思考をフル回転させているのはそこではない。
(まずいわね……ベルナデッタはエルノルドになびかないだろうけど、すっかりトゥルーエンドの関係者たちはその方向に進みつつある。ここからどう修正すればトゥルーエンドを回避できるかしら。関係者たちをトゥルーエンドとは違う立場にしたり、居場所を変えたり? どうやって? 《《フラグを折っていくためには、どうすればいい》》?)
——絶対に、悲劇は回避するのだ。
ベルナデッタが心配して愁眉を見せ、控えめにエリカの顔を覗き込んでくる。
「お姉様……?」
ベルナデッタには、婚約者の浮気に傷ついていると思われているのだろう。
ところが、エリカは決意を新たに、思いついた策をベルナデッタへ授けることにした。
「ベル、もう一つ、調べてほしいことがあるの。難しいかもしれないけれど、エーレンベルク公爵家の弱みをどうにかして握ってもらえない? ……エルノルドを、自由にしてあげないといけないから」
それは半分は本当のことで、半分は建前だった。
エルノルドを、いや、このゲームのキャラクターたちを、不幸を約束した
お茶会のあと、エリカのエメラルドのように輝く緑の髪の中に、複雑怪奇な文字の列が現れた。
それはこの世界の人々にとっては、神託のように扱われている——「神のご意思を表すは、輝く宝石を文字板に」の伝説のとおりであり、その神託を受けた本人には見えないものだ。また、たとえ見えたとしても、その文字はこの世界の誰も解読できない。
どこかで軽快な電子音ファンファーレが鳴り響く。
▼エリカは称号『
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▼ステータスを確認
▼今までの獲得実績:称号18個、所持魔法09
▼称号バフ合算値:ALL+25 up!
▼現在、好感度はマスクデータ化しています
▼新シナリオに移行します
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